2 マイク視点
俺達は狩りをする。
標的はその時によって様々で、今回はジェミューという生き物だった。とても綺麗な彼らは見るものを魅了するという。生け捕りに出来れば幸運だが、生きていなくとも眼球は宝石のようで、取り出して加工すると、高い値がつくのだ。しかし稀少な彼らは用心深く、滅多に姿を見せない。
しかし今回は秘策があった。準備するのに時間も金も莫大に掛かったが、成功すればすぐに報われる。方法は簡単で奴らが歩くであろう道に出来上がった印を仕掛けるのだ。それから、ひたすら待つだけだ。
仕掛けた印を踏んだ個体にはその印が付けられ、印が付いているとも知らないまま、巣まで案内してくれるというわけだ。
「上手くいきますかね?」
仕掛け終わって、その場を離れながらマルクスさんに話しかけた。彼は旦那様から最も信頼を受けている男で、俺は幼い頃に拾われてからずっと、主にマルクスさんから仕事を教わっている。
「国一番の魔道士が作ったんだ。上手くいかないと困る。」
「ですね。」
俺達は少し離れた町に滞在し、発動されるのをひたすら待つことになった。
「マイクは見たことあるか?」
昼食を取っているとマルクスさんに聞かれ、首を横に振った。
「ないですよ。眼球でさえ見たことありません。ですから楽しみです。」
誰もが魅了されるほどの美しい生き物とはどんな姿をしているのか、考えただけでわくわくした。生け捕りにする事ができたら、どんなに嬉しいだろう。
「俺は一度あるんだよ。運良く村を見つけてな、でもな、乗り込んだ途端にほとんどの奴が自害したんだ。捕まるくらいなら死を選ぶ様な奴らでな、生き延びたのは逃げることに成功した奴だけだ。結局その時は1人も生け捕りには出来なかった。だから今回は絶対生け捕りにしてみせるぞ。魔力封じの鎖もあるしな。」
にっと歯を出して笑った。
「え?、、村? 自害? そんな人みたいな、、 マルクスさん、俺達は一体何を捕まえようとしてるんです?」
俺は慌ててしまった。動物だと思い込んでいたのが、マルクスさんはまるで人のような言い方をしている。人が人を狩るなんて考えられない。
「知らないのか!? ジェミューは人だよ。まさか、動物かなにかと勘違いしてたのか?」
そのまさかだ。人を捕まえるなんて思いもよらなかった。血の気が引いていく。俺は人を殺すのか?
「そんな、マルクスさん、俺はてっきり動物だと、、、」
「なんだ? 恐いのか? ジェミューに限らずこういう仕事はあるぞ。 まぁ最初はちょっと衝撃かもしれないがな。そのうち慣れるさ。」
マルクスさんは平然と言った。
「、、、」
何も言えない俺を見て、マルクスさんの顔が曇った。
「それとも、無理だって言うのか?」
「いいえっ、とんでもない。見るのが楽しみ過ぎてっっ。」
無理だと言えば、やらなくてもいいかもしれない。けど、それきり仕事も与えて貰えないと思う。
「ふん、ならいいがな。いいか、変な気を起こすなよ? 俺はお前が気に入ってるんだ。」
「はい。ありがとうございます。」
追い出されでもしたら食っていけない。仕事だ。これは仕事だ。
決意とは裏腹に、俺はその日から心の中で毎日、どうか印を踏まないでくれと祈っていた。
しかし祈りは届かず、一週間ほど経ったある日に、発動を知らせる石が光ったのだった。
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