16 前半アリア視点 後半マイク視点です。
***アリア視点***
「アリア様、あの女は部屋から出されていました。」
侍女のミアが教えてくれた。ミアに調べるよう、頼んでいたのだ。
「安心したわ、ありがとう。陛下の分別が戻ってくれて良かった。」
これ以上の屈辱は本当に辛くて、私は、ほっと胸を撫で下ろした。
エミリが王妃になるのだと騒いだせいで、その噂はすぐに広まり、それなのにいつまでもここにいることで、勘違いだと笑われ、さらに騒ぎを起こしてエミリが連れて行かれたことで、陛下に見放された女どころか、嫉妬に狂った女だと言われる様になっていたのだ。
「アリア様が上手にお諌めになったからですよ。やはり、王妃となられるお方ですね。」
ミアの言葉に思わず笑みがこぼれた。
「そうね、私がしっかりしなければ。ところで、どこに移ったのかしら?」
「それが、、、すみません。調べたのですが、分からないのです。その女を見たという人が誰もおりませんでした。」
「そう、、まぁいいわ。引き続き調べておいて。」
「かしこまりました。」
ミアと入れ替わる様にメリッサが、息を切らせて入ってきた。
メリッサもまた、私の侍女で、私にはエミリ、ミア、メリッサの、3人の侍女がいた。他に小間使いもいるけれど、手足となって動いてくれる3人の存在はとても大きい。だから保身の為とはいえ、エミリを失った損失は計り知れなかった。
「まぁ、驚いた。一体どうしたの?」
「はぁっ、はぁっ、アリア様っっ! わ、私、大変な、はぁっ、事を、はぁっ、聞きました!」
「ゆっくりでいいわ、息を整えてから話してちょうだい。」
「い、いいえっ! すぐに、はぁっ、聞いて欲しいのですっ。はぁっ、エレノア様と、ハンナ様の事ですっっ!」
エレノアとハンナは元々、国同士の交流が深かった様で仲が良い。
国の大きさは私の生まれ育ったリュヌレアムの方が大きいし、力もあるのだけど、2人で結託されると、とても煩わしい存在だ。
メリッサは、その2人に関するとても腹立たしい話を聞いてきた。
話とは、王妃の部屋が整えられた時の事だった。その時点で、何人かの使用人達は陛下がジェミューに部屋を使わせようとしているという事実を既に知っていて、エミリより先に来ていたエレノアとハンナの侍女が、その事をわざと伏せていた、というのだ。エミリが壁紙やドレスの決定権を持てたのも、頑張ったからではないのだと。
「メリッサ、それは本当の事なの?本当だとしたら、とても許せないわ。」
「アリア様、私も噂を耳にしただけなのです。真実かどうかまでは分からないのです。ただ、悔しくて悔しくて。」
メリッサはエミリと同じ歳だったので、2人は侍女の中でも仲が良かった。そのエミリが連れて行かれてとても悲しんでいたのだ。
それにしても、まさかこんな風に嫌がらせを受けるとは。煩わしいとは思っていたけど、気にする相手では無いと思っていたのに。
陰で笑われていたのかと思うと、とても冷静でいられなかった。
「メリッサ、お父様に手紙を書くわ。道具を持って来てちょうだい。」
私が一番の有力候補だと、いずれ王妃になるのは私なのだからと、不安になりながらも、いつも自分に言い聞かせてきた。
無理やりではなく、陛下から私を迎えて欲しかったから。
けれど、もう我慢が出来ない。これ以上のんびりしてはいられない。許せない。
煮えたぎった思いが込み上げてくる。陛下が構う、あの女が憎らしい、手出しされない力が欲しい、、、。
「最初から、お父様にちゃんとお願いすれば良かったわ。」
そうすればエミリも失わずに済んだかもしれない。、、、きっと失わなかった。
この国アリドゥラムと、リュヌレアムは大きさは同じくらいで、アリドゥラムは軍事力が、リュヌレアムは経済力が勝っている。
リュヌレアムが強く出ることで多少の軋轢は生じるかもしれない。
けれど、それぞれを補う為にも私が王妃になることは、皆が望んでいる事なのだ。きっと陛下は断れないと思う。
「出来るだけ、急いで届けるようにお願いしてね。」
したためた手紙を、メリッサに託した。
***マイク視点***
「いやー、どうなるかと思ったが汚れを落とせば、やはり、ジェミューだな。」
さっきまで汚れていてみすぼらしかった女は、洗って綺麗な衣装を着せると見違える程に美しかった。
マルクスさんが満足げに頷いている。
「これだったらディラン殿下も気に入るだろうな。ああ、そうだマイク。起こった事はディラン殿下もご存知だが、何処で噂が立つかも分からないからな、口に出すな。」
ディラン殿下は、このジェミューを買い取るとおっしゃった。明日には隣国へ向けて出荷する。
「はい。分かりました。、、大事にしてもらえると良いですね。」
「お前は、、いちいち入れ込み過ぎるな。」
「はい、すみません。気を付けます。」
夜、気になって見に行くと、静かに、歌を歌っていた。とても綺麗な歌声で聞き惚れていると、ぴたりと止まり、視線をやると、目が合った。
「レイラは、、、」
ぼそぼそと口を開いた。
「え? なんでしょう?」
「レイラも、、、こんな風に、捕まったのでしょうか?」
透き通る様な声は、悲しげに震えていた。
「、、それは、、、そう、ですね、、すみません。」
俺はなんと答えるべきか戸惑った。同じく捕まった訳だけど、レイラより、彼女の方が運が悪かった。けれど、それをあえて言う必要があるのか、、、、 結局、言えないままだった。
「レイラに、、ごめんなさい、と伝えてもらえますか? 置いて行ってごめんなさい、と。」
「分かりました。必ず伝えます。あの、お名前は、、?」
「ルーナ、です。」
「ルーナ、ですね。、、ええと、俺はマイクと言います。」
俺の名前は必要ないだろうけど、名前を教えてもらったので、一応伝えておいた。
「マイク、あなたはいい人なのね、ありがとう。」
俺はまた、何も出来ずに見ているだけだった。
読んで下さってありがとうございます。