15 最後にちょっぴりシン視点です
いつもの様にお昼を陛下と過ごしていた。
今日は熱々のグラタンで、スプーンですくわれたグラタンが、熱々のまま口の前に差し出された。息を吹き掛けてしまったら陛下の顔にまで掛かりそうで、じっと冷めるのを待っている。
「そうだレイラ、レイラと同じジェミューの女が捕まったと聞いた。」
気付いてくれたのか、グラタンは一度下ろされ、今度は野菜を刺したフォークを私の口へと運びながら、陛下が言った。
「え!?」
ドキンと心臓が跳ねた。
「く、詳しく、分かりますか?」
声が震えた。冷や汗が出てきた。
「若い女だと言っていたな。隣国に連れて行くのだと。」
自分が捕まった時の恐怖を思い出していた。捕まってしまったのが知っている人だったらどうしよう、、、カタカタ震えた。
「レイラ、どうした? 恐いのか? 震えている。」
陛下がフォークを置き、両手で顔を包んだ。
コクコクと頷くと、目に溜まった涙がこぼれた。
「恐い思いをしたか?」
また、コクコクと頷くと、空気が変わって、はっとした。
「誰が恐い思いをさせた?」
陛下の様子が変だ。陛下の方が恐くて、涙が引っ込んだ。
「、、、あ、あの、知っている人だったらと思うと悲しくて、、」
「マイクか?」
「いいえっ マイクは親切にしてくれました。そ、それよりも、ぶ、無事かどうかは、分かりますか?」
私は慌てた。確かに恐い思いはしたけれど、個人をどうにかして欲しい訳じゃない。それにマイクは親切だった。
「マイクは、か、、、、気になるのなら調べておこう。」
「ありがとうございます。」
私に、何か出来ることがあったらいいのに、、
「、、、あの、どうして、私達はこんな目にあうのでしょうか、、?」
ふと思った事が、口から出た。言った後で、あっ、と思ったけど、陛下は怒ったりせず、静かに私を見た。
「レイラは今も、辛いのか?」
「え? ええと、、私は、今は、安全だと思っています。」
どきっとした。事情を話したら手を貸してくれるのだろうか、、、この人は、私達の味方になってくれるのだろうか、、見つめられると、取り込まれてしまいそうだ。
「以前、死ねない、と言ったな。」
「、、私には、やることがありますので。」
「シン、とは誰だ?」
急に名前を出されて動けなくなった。
揺らぎ掛けた気持ちを押し止める。いけない。信用してしまいそうになっていた。私が今ここにいることが何よりの事実だ。シンまで巻き込めない。私は捕まって、ここで飼われている。
「友人ですが、私の事ではないので言えません。」
「ふん」
置いていたフォークがまた、口に運ばれてきた。不機嫌に見えて、急いで食べた。
毎回のことだけど、凝視されながら食べるというのは慣れない。録に噛めずに飲み込んだ。
ごくり、と喉が鳴る。
陛下の、延びてきた冷たい手が喉を撫でた。
「やること、が終わったらどうなる?」
「ひっ、、、」
喉を触られるのは恐い。聞かれた質問を理解するのに時間がかかった。
そして、理解して、、返事が、出来なかった。以前は命を返して死ぬことばかり考えていた。
今は、、、
「死にたいと思うのか?」
「、、、わ、分かりません、、」
ここで生きる意味はない。けれど、命を投げるほどの苦痛はない。けれど、、、けれど、、、考えれば考える程、本当に分からなかった。
「ねぇジュリ、私、図書館の事、諦めたほうがいいのかしら。」
仕事に行く陛下を見送った後、ジュリの顔を見て図書室のことを思い出した。
「陛下にお聞きになったのですか?」
「いいえ、聞けなかったの。ただ、私はここで飼われてるんだって、思い出しちゃって。図書館に行ってみたいだなんて、言えそうもないわ。」
「お嬢様は陛下の前で緊張し過ぎではないですか? もっと甘えてみたらお喜びになるんじゃないでしょうか?」
「甘えるだなんてとんでもない。喜ぶ訳ないでしょう。だってこれは監禁よ。いろいろ言える立場じゃないわ。」
「ふふ。監禁というよりは、陛下はあまりお嬢様を他人に見せたくないみたいですね。独占欲でしょうか?」
「独占欲?」
「だって、お世話係の私ですら嬢様のお名前を呼ぶのを禁じられていますし。」
「え?」
「気付いていませんでした? 以前、オリバーさんのお店から来た従業員が、お嬢様の事を呼び捨てにしたとかって、すごく怒っていたらしいですよ。それに、エミリさんも、、、あ、ごめんなさい、それは駄目でしたね。ええと、とにかく、その直ぐ後にお世話係を決めるってなって、みんな恐がっちゃって、いつの間にか私が押し付けられました。あ、内緒です。」
独占欲、、、確かに奇妙な食事や夜中の観察等、思い当たる事もある。けれど、珍品を手にして一時的に執着してるだけにも思えた。
「飽きたら殺されるのかしら、、、」
ぽろりと出た言葉にジュリが反応していたのだけど、私はシンの事を考えていた。
「飽きる以前に、今まで興味を持たれる物がありませんでしたから。」
***シン視点***
ジェミューは幻の様に思われているが、全く出歩かない訳ではない。気付かれないようにする術は持っている。
都合の良いことに、俺は昔から手先が器用で、特に偽装と細工には自信があった。
レイラを追って王宮の前まで辿り着いた俺は、近付く為の策を考えていた。
読んで下さってありがとうございます。