14 後半マイク視点です
今、[俺の部屋]って言った?
「個室が欲しければ、そこを使っていいぞ」
固まった私を無視して言うけれど、個室の問題じゃない。慌てて口を開いた。
「あ、あのっ、この部屋はちょっと、、」
「個室はいらないか?」
「ひっ、、使います。」
ぎろり、と睨まれたじたじになった。
諦めてドアを開けると部屋の中にはソファー、テーブル、ドレッサー、クローゼットが置かれてあったのだけど、、、あれ? おかしい。あれがない。壁を隈無く見渡し、もしやと思い中に踏み入れ壁をペタペタと触って確かめたけれど、ない。
「レイラ、どうした?」
「ウィレム陛下、この部屋は、、、、、いえ、大丈夫です。」
ベッドがないので何処で寝ればいいのか、と聞こうとしたけど、陛下の顔を見た咄嗟、触れてはいけない気がした。聞けば嫌な予感が確定されそうだ。ソファーだ、ソファーで寝よう、と思った。
「この部屋はなんだ?」
「いいえウィレム陛下、 私はこのお部屋がとても気に入りました。ありがとうございます!」
言葉を被せて深々とお辞儀した。
その日から私は出来るだけ個室から出ないように心掛けた。食事とトイレと風呂以外はソファーに座って本を読み、夜は早めに眠った。
ソファーだけど寝心地は悪くなく、ジュリが何処からか、掛け布団も持ってきてくれていた。
幸い陛下は忙しい様で朝早く出て行き、夜も遅い。ただ、時々夜中に私の部屋のドアを開けて入って来ることがあり、しかも毎回必ず顔に吐息がかかるから、とても緊張した。きっと近くで覗き込まれていると思う。だけれど、たとえ気付いてしまったとしても、ぎゅっと目を瞑ってじっとした。すると、しばらくウロウロしてから去って行くのだ。
忙しそうな陛下だけれど、いつもお昼にだけはふらっと戻ってきて、私に食事を食べさせた。
特に会話を楽しむ訳でもなく、ただ食べさせて満足して、また出て行く。
そんな生活にも慣れてきた私は本を読みながら、ふと考えた。
本はいつもジュリが持って来てくれて、読み終われば直ぐに新しい本も持ってきてくれる。
「ねぇジュリ、ここって図書室があるの?」
「はい。とても大きい図書室がありますよ。何か読みたい本がありますか?」
ジュリは、ニコニコと答えてくれた。
「自分で探しちゃ駄目かしら?」
ここへ来てからというもの、ずっと部屋の中で過ごしている。せめて図書室くらい許されるのでは、と思ったのだ。
「ご自分で、ですか? ん~と、それは、陛下に聞いてみてはどうでしょう? 私が聞くよりも、お嬢様が聞いた方がいい気がします。」
「、、、そうね、ありがとう。」
上手く頼めるだろうか、、、不安だけれど、行動範囲は広げておきたくて、チャンスを窺う事にした。
***マイク視点***
「マルクスさん、生きたジェミューって、どういう事ですか?」
「まだ分からん。だから実際に見て確かめたい。もし本当なら、隣国のディラン殿下が喜ばれるかもしれないからな。」
「隣国ですか?」
「ああ。この前のは、ディラン殿下が欲しがっていたのを陛下が横取りしたらしい。ディラン殿下は嫁に迎えたかったらしくてな、散々文句を言われた様だ。」
「、、、そうですか。」
レイラにとって、どちらが良かったのだろう?意味の無いことを考えているとあっという間に目的地に着いた。古い、汚い小屋だった。
ドアを開くと部屋の奥に1人の男が背を向けて座っていて、その背に向かってマルクスさんが呼び掛けた。
「例の物は?」
男が気付いて振り向いた。にやにやと薄ら笑いを浮かべた、胡散臭い男だ。
「こちらです。」
俺は指された檻を見て、思わず息を飲んだ。
「 、、っ 何があったんです? 」
檻に近付こうとするのを、マルクスさんが制止した。
「マイク、俺が見るから待ってろ。」
部屋が薄暗い上に檻は半分くらい布が掛けられてあったのだけど、薄汚れて傷だらけの足が半分程見えていた。
「おい、こりゃなんだ?」
「へへ、見て分かるでしょう。ジェミューの女ですよ。」
「馬鹿が。こんな状態で売れると思っているのか?隣国の王子が相手なんだぞ。」
「おや、買いませんか? 生きてるだけでも価値があるでしょう?」
男は悪びれない様子でへらへらしていた、、、
**
「おいマイク! しっかりしろよ!」
マルクスさんの声にはっとして、己を取り戻した。
「は、はいっ。すみません、大丈夫です。」
大丈夫と言いつつも足は恐怖で床に張り付いていて、無理やり剥がすように動かして必死に前進させていた。
マルクスさんはそんな俺を呆れた顔で見た後、檻に掛けてあった布を剥ぎ取って返り血を拭いた。
さっきまで薄ら笑いを浮かべていた男の首は床の上に転がっていた。
俺は少し離れて立っていたけど彼女は驚いただろうな、と心配して見ると僅かに微笑んでいる様に見え、ぞくりとした。
男に布を掛けてから小屋を後にする。
「心配するな。残りは他の奴に頼むから。」
俺の顔が不安そうに見えたのかマルクスさんにそう言われ、正直ほっとした。こんな事を言っていては駄目なのだろうけど、俺には人を殺めるという事が恐ろし過ぎる。
「普段はここまでしないがな。今回はディラン殿下に関わってくる。ここで口止めしておかないと後が面倒だ。」
檻を馬車に乗せ、改めてマルクスさんにそう言われた。
「はい、必要な事だと分かってます。」
それから俺はレイラの時と同じ様に、馬車の中で檻を見張った。
声を掛けるか悩み、ちらりと見た時に、目があった。レイラと同じように綺麗な目をしていた。さっきの不気味な感じはきっと見間違いだと思った。
「あの、、ディラン殿下は、ジェミューのお嫁さんを、探しているんです、」
思いきって話しかけてみると、瞳が少し動いた気がした。
「だから、きっと大事にしてくれると思います。」
自分で言っておいて、何を言ってるんだと思う。安心させてあげたいけど、見ず知らずの相手と結婚なんて嬉しい訳がない。でも他に掛ける言葉が出てこなかった。
涙が、頬を伝うのが見えた。
「あ、あの、レイラって、いう娘、知っていますか?」
レイラを話題に出した。つい、思い付いたし、それに、もしレイラと知り合いなら、伝えなくてはと思った。何処かで噂を耳にするかもしれないからその時に安心してあげられるように。
「、、レイ、ラ ?」
初めて口を聞いた。
「そう、知っていますか?」
ゆっくり、頷いた。
「彼女も無事ですよ。俺、彼女と話しました。今は国王陛下の所にます。」
「レイラは、、、、」
それきり彼女は目を閉じてしまった。
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