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王宮にて(ウィレム)

**ウィレム(アリドゥラム国王)


少し前に、空便にて、隣国リュヌレアムの王章が刺繍された布切れが届いた。

空便とは鳥を使った連絡方法のことで、紛失の危険もあるが急ぎのやり取りには大いに役立っている。以前隣国が何やら企んでいた時も、このお陰で迅速な対応が出来たのだ。


「して、これがどうした?」


問うと、便を受けた者が、平伏しながら皺だらけの紙切れを頭上に上げた。


「はっ、手紙によりますと、例の村付近の街で、それを見付けたとのことです。手の込んだ刺繍を売りに来た者が、一緒に持っていたのだと。」


「ふぅむ、どうしてわざわざこんな物を・・・。1枚だけか?」


出どころはアレしかいないだろうが、何の為にか、と疑問になる。王章は誰でも気安く扱っていいのもではない。それを堂々と人目に晒すとは、自分は隣国の王家に関わりのある人間だと、知らせるようなものだ。


「はい、見付けたのは1枚です。」


「オーウェン、隣国に何か動きはあるか?」


横に立つ側近のオーウェンに目をやると、首を捻っていた。


「いいえ、特に報告は受けていませんが。」


「そうか。だが大人しいのも怪しいな。ノアの方はどうだ?隣国に情報を流すような素振りはないか?」


「家にも戻らず働き詰めだと聞いております。もしや逃亡の資金でも貯めようとしているのでしょうか。」


「表に出て来さえしなければ何処に隠れようと構わないが・・・。刺繍の件が少し気になるな。隣国に居場所を知らせようとしているのかもしれない。愚かな事をしでかす前に釘を刺していた方がよさそうだ。」


指示を出しつつ、少し焦り過ぎていたのではないかと不安がよぎっていた。

誕生祭はもうすぐだ。何事もなく無事にレイラを披露出来たらいいのだが。


**


ところが願い虚しく新たな情報が届き、頭を悩ませる羽目になった。どうやら隣国の者がうろついているらしい。


「目的は分かるか?」


「そこまではまだ分かっておりません。ただ、この状況を考えますと・・」


「嘘がばれたか?」


「断定は出来ませんが。」


やはり、軽率だったか。


「・・・もう少し様子を見て対応を考えよう。念のため人相書きも作らせておけ。」




**ミア


そわそわと落ち着かない。やっぱりノアさんは、間に合わないかしら。

アルロさんがアリア様の敵ではないと分かって状況が変わった私は、心に余裕が出来ていた。だからふいに、後回しにしていたノアさんの顔が思い出されたのだ。


ノアさんは、私が家を訪ねた時、不在だった。

代わりに話をしてくれたお母様には、関わらないで欲しい、と泣かれたくらいだから、きっとアリア様がここにいることは知らされていないのだと思った。取り急ぎノアの妹に、事の経緯と急いで身を隠す旨を書き記した手紙を託したのだけど・・、気付く頃には、アリア様はもう、隣国に旅立った後かもしれない。

せめて最後に一目見るくらいはさせてあげたかったのだけど・・・、それも無理かしらね。



私達がいるところは、リュムレアムとの国境とは反対側の端にあった。アリドゥラムを突っ切って行くのが早いのは早いけど、出来るだけこのまま端を進んで行った方が目立たない。だけどノアさんは、探しにくいだろう。私としては、道のりが遠くなる分、アリア様と長く過ごせるのでありがたいのだけど。


「・・ア、ミア、」


「えっ?あっ、ごめんなさい。何でしたっけ?」


うっかりしていた。アルロさんと話している途中だった。


「どこかで馬を調達しておきたいのだが、可能だろうか。」


「ええ、可能ですよ。というか、私もここの土地はよく知らないので、宿の者に聞いてみましょう。」


**


アルロさんは馬を3頭手配した。生憎私だけ乗り方を知らず、相乗りになるので2頭いればいいと思っていたのだけど、1頭は交代用に必要らしい。長距離の移動になるので順番に休ませながら行った方がいいと言っていた。



「2頭だけならすぐ出せるんだけどねぇ、3頭なら少し待ってもらう事になるよ。」


店の主人に紹介された馬屋は、宿からすぐのところにあった。滅多に売れないからと、あまり手元に置いていないらしい。だけど貸し出し用の馬なら余分にいるから、2頭なら売ってもいいと説明された。


「どれくらい待ちますか?」


むすっとしたアルロさんが聞いた。


「そうだねぇ、2、3日は掛かるかなぁ。」


「構いません。お願いします。」


内心ほっとした。少しでも出発が遅れた方が、ノアさんが間に合う可能性が増えるから。足取りは残しておいてあげようと思い、夜のうちに、手紙をしたためた。



ありがとうございます。

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