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アルロとミア2

**アリー


ぱきっ、と小さな音がして、木の実が割れた。


あ、あ、あ・・・・


やっぱりそうだ。

胸の中の、穴の空いた空間に、じわじわと何かが埋められていく。

ゆっくりと、涙が頬を伝った。


・・・もっと、感情が溢れだすのかと思っていた。もっと、苦しいのだと、思っていた。

だけどそれはとても静かで、だから余計に、思い知る。あぁ、何も変わらないのだと。

何もかもを捨てたつもりで逃げ出したのに、未だ陛下の手の内にいる私は、なんて、馬鹿げているのだろう。





**アルロ


休みたいと言われてしまえば、引き下がる他ない。ひとまずは部屋を出た。


「ん、待て、どこへ行く。」


ミアがどこかへ行こうとする。まだこの女を信用した訳じゃない。


「・・・少し、話をしませんか?」


廊下の奥を指さして、そう言った。

さて、どうしたものか。腕を組み、壁に寄りかかった。


「ここを、離れたくはないのだが。」


真っ直ぐに目を見ると、ミアも、反らさずに見詰め返してくる。


「ウィレム陛下は、アリア様が息を潜めてさえいれば手出しはしないと約束してくださっています。こんな施設の中で、何か起こす事はあり得ません。逆に目立ってしまいますから。」


姫様の前とは、態度が違う。


「この施設もウィレム陛下の物だろう。なんとでもなりそうだ。」


「もうひとつ、申し上げます。仮にウィレム陛下の息がかかっているとして、アルロさんはリュムレアムの人間です。事情を全て知られているのに、堂々とアリア様を害することはないでしょう。」


ふぅむ・・それもそうだが、俺も消す、という手もある。

ミアは俺表情を読み取ったかのように、ふっ、と笑った。


「私はアルロさんがいつ、どのようにして、ここにいるのか、何人で来たのか、何も知りません。不用意に手を出すのは危険過ぎますよ。」


「・・・わかった。話をしよう。」


よく頭が回る女だ。本当にウィレム陛下の手先ではないのだろうか、ないのだとして、姫様は王宮で、いったいどのような生活していたのだろう。





姫様の部屋の前の廊下を突き当たって左、受付とは反対方向に、ゆったりとした休憩室があった。そこに設置されているテーブルの1つに、向き合って座った。


「アルロさん、アリア様は、リュムレアムでは本当に安全なのでしょうか?」


!?さっきまでの毅然とした態度とは打って代わり、不安に押し潰されそうな顔で見てくる。


「どういう意味だ?」


「私は、リュムレアムの国王陛下はとても恐ろしいお方だと、認識しております。その・・アリア様のお兄様を・・、ですので、本当にアリア様がそちらの国で平穏に暮らしていけるのかどうか、心配でなりません。」


「それは、姫様を国にお連れするのに手を貸してくれるということか?」


リュムレアムで暮らす事を前提とした物言いだ。いいのか?


ミアは少し俯き、再び顔をあげた。


「・・・アリドゥラムでは、アリア様は堂々と暮らす事が出来ません。それなら・・と。」


姫様を優先させる、か。


「その後、君はどうするつもりだ?付いてくるつもりか?」


意地悪のつもりで聞いた。姫様をリュムレアムに逃がしてアリドゥラムに留まれば、何かしら罰が下されるかもしれない。


「私は、そこまでは望んでおりません。アリドゥラムの者は、足手まといになるでしょう。ただ、約束はしていただきたいです。今後、アリア様を国政に利用しないで欲しいのです。」


「・・・それは、国王陛下がお決めになることだが、どうしてそう思う?」


保身の為か?リュムレアムが騒がなければ、ウィレム陛下にも気付かれないか・・。


「・・・アリア様は、もう十分役目を果たされました。もう、これ以上、苦しんでほしくありません。」


・・・・・


「・・・そうか。リュムレアムでの姫様の安全は、俺が保証する。陛下も、今の姫様にそれは望んでおられないだろう。」


「・・っ、ありがとうございます。」


ミアの瞳から、涙が溢れた。

本当に姫様の味方であるのなら、役には立つだろう。しばらく行動を共にすることにした。



**



面会終了の時刻となり、ミアと2人、施設を出た。そのまま、ぐるりと施設周囲を周り、警備体制が十分なことを確認した。入所させられる頭のおかしな老人の多くは富裕層らしく、そこのところはしっかりしているようだ。


「これから、どうされますか?」


ひとまず、ほっとしていると、ミアが聞いてきた。俺1人なら野宿でも構わないが、ミアがいるとなると・・、それに、姫様の為にも事前に準備しておいた方がよさそうだな。


「一旦下山して、宿を探そう。今後についても落ち着いて考えたい。」


療養施設は、山の中にあった。街中に建てるのは、いろいろと問題があるのだろう。


下山して、最初に見付けた宿に入る事にした。施設に入る前の最後の思い出にでもするのだろうか、わりと贅沢な造りになっている。

姫様に相応しい部屋もありそうだ。やっと会えた姫様を思い浮かべ、自然に頬が緩んだ。


「アルロさんっ、」


ツンツン、と腕をつつく者がいる。


「何だ?」


「まさか最上級の部屋とか、考えていませんよね?目立つ真似は止めて下さいよ。普通の部屋でお願いします。それから、私はアリア様と同じ部屋でお願いします。」


「・・・・分かっている。」


喜ぶのはまだ先に取っておこう。

ありがとうございます。

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