13 前半マイク視点 後半レイラ です。
「あらマイク、お帰りなさい。ずいぶんと元気がないみたいだけどどうしたの?」
店に戻ってすぐ、リサに捕まった。出来ればそっとしておいて欲しいのだけど、リサは執拗に構って来る。
俺は陛下に謁見して来たところで、気分は最悪だ。レイラを一目見るどころか、様子も聞けなかった。名前をお伝えして、それからレイラと交わした会話の内容を聞かれた。それなのに答える途中で急に不機嫌になり帰れと言われたのだ。訳が分からなかった。あの調子ではレイラは冷遇されているんじゃないかと不安になっていた。
「ねぇ、あのジェミューの娘、綺麗だったわよねぇ。」
「ああ、そうですね。」
「マイクはあの娘の事で陛下にお会いしてきたんでしょう?」
「、、、はい。そうですが。」
「出掛ける前はあんなに元気だったのに落ち込んでいるのは、会えなかったから? それとも陛下があの娘をお気に召していたから?」
「どういう意味ですか? すみませんが疲れたので休みます。」
「あら、いいの? 私、あの娘の衣類と装身具なんかを頼まれているのだけど、、、」
「陛下が? わざわざ注文を?」
つい足が止まった。冷遇していたらそんな事はしないだろう。少し安心し、同時に不安もよぎる。レイラをどうする気なんだろう。
「ええ、そうよ。だから私、あの娘に直接会えるわよ。」
「え?」
ついに顔を上げてしまった。したり顔のリサと目が合う。
「気になるんでしょ? 手紙くらい届けてあげてもいいわよ。」
じわりと汗が出る。
「、、、俺は、何をしたらいいんですか?」
リサの顔が綻んだ。
「やっぱりマイクって好きよ。あのね、簡単なの。あなたはただ、マルクスさんの事を教えてくれるだけでいいのよ。」
「教える? 何をですか?」
「ふふ。じゃあ、まずはこれの事。」
いいながら、首に掛かったペンダントを指に引っかけた。
「これ、マイクの趣味じゃないでしょ?」
「え? あ、はい。すみません。実は俺じゃなくて、マルクスさんが準備しました。」
こんな質問に答えるくらいなら簡単すぎる。あっさり答えると、リサの顔が、パッと花が咲いたように輝いた。
「間違いないわよね?」
俺は拍子抜けした。なんだ、そういう事か。
「リサは、マルクスさんが好きなんですね。」
「ちょっとっ!! 声が大きいわよ!」
顔が真っ赤だ。苦手だったリサが一気に、友好的に感じられた。
「では交渉成立です。俺はマルクスさんの情報をリサに提供して、リサはレイラに手紙を届ける。ですね?」
「まぁ、そういうことよ。とりあえず、数日後には行くと思うわ。それまでに準備しててね。あ、ねぇ、ところで、その娘の名前を教えてくれる? 誰も教えてくれなかったの。」
「ああ、レイラ、といいます。」
リサが行ってすぐにマルクスさんが走ってきた。
「マイク、急だが買い付けだ。生きたジェミューだと。」
「えっっ!?」
***レイラ
軽くなった足で自由に動き回れて、しかも魔力が使えるなんて。気付けば、お世話をしてくれる女の人もジュリという女の子に替わっていて、あのぼろぼろな服も取り替えてくれた。陛下との奇妙な食事以外、ここでの生活はずいぶん快適になっていた。
捕まった時に怯えていたのが、ずいぶん昔の事のように思える。
後はのんびりシンと会える日を待てばいいのだ。
でも、シンと会える日は来るのだろうか、、、今頃、私を探しているのだろうか、、、
ソファーで考え事をしていたらいつの間に眠っていた。なんだか遠くでジュリの声が聞こえる気がする。
「お嬢様、陛下がお呼びです。」
「、ん、、でも私、シンが探しているから、、」
寝ぼけながら、むにゃむにゃと呟いた。
「それは誰の事だ?」
いつの間にかジュリの背後に陛下が立っていた。ジュリは飛び上がって驚き、後ろに下がりながら頭を下げた。
私も驚いてソファーから立ち上がった。
「ひぃっ!すみません、寝ぼけていました。」
「レイラ、来なさい。」
陛下に言われ、あわあわと付いて行った。
部屋を出るときに、当たり前のように陛下の手が延びてきて、私の手を握った。目が飛び出そうになり、咄嗟に手を引いた。
「なんだ?」
「てて手がっっ」
「手が?」
「つつ繋がってま、した、、、」
陛下が少し苛立っているように見えて、思わず語尾が小さくなった。
「嫌なのか? 足枷の方が良いのか?」
「とんでもないっっ、手がいいです。」
痛いくらいに握られて、ぐいぐいと引っ張られたので、転けない様に着いていくのがやっとだった。
着いた先は、他の部屋と比べて、ずいぶん立派な造りのドアの前だった。
陛下がドアを開けて中に入ると、私も引っぱられて中に入る。
もう部屋の中だというのに手は強く握られたままだ。
「今日からここにいろ。」
唐突過ぎて混乱する。
「え!? ええと、ここに、ですか?」
「そうだ。」
「ええと、どうしてでしょうか?」
「気に入らないのか? どこだ」
「いいえ、そういう問題ではなくて、、今のお部屋は、、」
「今日からレイラにはここにいてもらう。」
「わ、分かりました。」
「ふん、初めから素直にそう言えばいいのに。少しくらいなら雰囲気を変えてもいいが、どういうものが好みだ?」
「ええと、今のままでも大丈夫です。」
「違う。好みを聞いたのだ。」
「え? ええと、、可愛い感じ、でしょうか。」
「レイラは、可愛い物が好きなのか?」
「そう、、ですね。どちらかといえば好きでしょうか。」
「、、、好き、なのか?」
「? はい、好き、です。」
「好き、か。」
「はい、好き、です。」
何度かやり取りを繰り返して変だなと思って陛下を見ると、なぜだか顔が赤くなっている。
「陛下?」
陛下がはっとして私を見た、さっきのは幻だったのか、いつもの冷たい顔だ。けれど、機嫌は戻っているようだ。
「違う。」
「え?」
「呼び方が間違っている。」
「あ、、ウィレム陛下」
「何だ。」
「それにしても立派なお部屋ですね。」
この部屋はドアが立派だった様に部屋の中も驚く程立派だった。
「俺の部屋だから当然だろう。」
「、、、」
言葉が出てこなかった。
読んで下さってありがとうございます。