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木の実の中身

**ジョン


「ねぇ、兄さん、もしかしてクレアと一緒になるつもり?」


あれからクレアは毎日、俺達家族と一緒に夕食を取るようになっていた。席は決まって兄さんの隣。兄さんが気付くよりも先にコップに水を注いだり取り分けたりと、クレアは兄さんの為だけに動いていた。それを、母さんも父さんも受け入れている。

まるで夫婦のように存在する2人を、横目で見ることしか出来ず、俺だけが置いていかれる感覚が焦燥感を煽る。

今まで無理だと分かりながら、諦め悪く捨てきれなかった心の奥底のクレアへの想いが、大きくなっていった。


「兄さん?クレアと一緒になるつもりか聞いているんだけど。」


返事のない兄さんに、もう一度聞いた。


「・・・ん、ああ、驚いてしまって。急にどうして?」


「急にかな?ここ最近、ずっと思っていたんだけど。夕食時も、ふ、夫婦みたいで。」


「夫婦!?クレアは妹みたいなもんだよ、そんな風には見れない。」


「本当に!?」


目を丸くして否定する兄さんに、ほっとした。


「ああ。・・・ははっ、そうか、元気がないと思ってたらお前はそんな事を心配してたのか?」


「そんな事」が、俺にとってどれだけ重要か・・


「・・・兄さんには俺の気持ちなんか分からないよ。」


いつも俺の前を行き、俺が手に入れたかったものを軽々と持っていってしまう兄さんには、絶対に分からない。

俯くと、兄さんは俺の頭をガシガシと撫でた。


「俺、明日から仕事に行くからさ、あまり帰ってこれなくなると思う。クレアとは、もう会うこともないよ。」


「え?まるで一生会わないみたいに言うんだね。」


「ああ。」


「え?」


「金が欲しいんだ。仕事を出来るだけ詰めて、早く貯めたい。それで、アリーと、出て行こうと思う。」


「え?アリーさんと・・?」


兄さんが連れて来たから、それはそうなる気がするが・・・、出て、行く・・?


「ああ。」


「お、俺、てっきり兄さんはここで暮らすのかと。え?・・あ?、そういうこと?アリーさんは、兄さんの?け、結婚するっていうこと?」


やっぱり最初からそうだったのか?クレアが兄さんにべったりなのを、アリーさんも受け入れているように見えたから、勝手に違ったのだと思いこんでいた。そうか、結婚・・。アリーさんとの結婚なら、心からおめでたいと思える。

ところが兄さんは、急に眉尻を下げた。


「・・・はは。そう上手くもいかないな、残念だけど。」


「え?」


「いろいろあってね。あ、出て行くことは母さんにしか言ってないから、そのつもりで頼む。」


「へ、あ、ああ。分かった。」


いつも余裕な兄さんが、情けなく笑った。


・・・そうか、兄さんは・・、出て行くんだ。


寂しさよりも、クレアの想いが実らないことに安堵した。



**アリー


「・・・・・っ、はっ・・!」


怖い夢を見て、飛び起きた。

夢なのに感触が生々しくて、思わず布団を捲って自分の足を確かめる。

・・・・大丈夫。ほっ、と息を吐いた。ベタベタなんてしていない。


夢の中で私は、向こうに見える小さな光を目指して、纏わり付く暗闇をひたすらに歩いていた。その前後にも何かあったような気がするけど、思い出せない。

汗ばんだ額を拭って、水を飲むためベッドから起き上がった。足を着けた床が、きちんと床なのことに安堵する。


テーブルの水差しには、銀色の月明かりがさしていた。掴もうとすると黒い影が落ちて、慌てて伸ばしていた手を、引っ込めた。


「馬鹿ね、自分の影だわ。」


自分に呆れて、もう一度手を伸ばし水差しの水をコップに注いだ。

私はいったい、何を恐れているのかしら?


一気に飲み干すと、冷たい感触が喉からみぞおち辺りまで突き抜けた。


「あ・・、目が覚めてしまったわ。」


すぐには眠れそうになくて、窓から外を覗いてみた。


「あ・・、綺麗・・・」


今日は月がとても綺麗だ。

そういえばノアとここへ来たばかりの時も、空を見上げたわね、あの時は星が綺麗だった。


騎士団の仕事って言っていたかしら・・最近仕事に行き始めたノアは、しばらく顔を見ていない。元気に過ごしているのかしら?


ぼんやりとしながら、何の気なしに手に触れた木の実をコロコロと手のひらで転がしていると、なぜだか無性に中を開けてみたい気持ちになってきた。


「変なの、開けてはいけない秘密の箱みたい。」


恐い、でも、見てみたい。

2つあるうちの、1つを光にかざしてみつめていたら、小さな割れ目があることに気が付いた。


「あら?割れかけてる?」


爪をそっと引っかけみた。





***



「・・っっっっ、ぎゃーっっ!!」


はっ、はっ、はっ、・・・はぁっ、はぁっ・・・。・・はぁ・・、はぁ・・・・


気が付けばベットの上で、身体中が汗ばんでいた。


「ゆ、夢?」


こ、恐かった。

・・・・・・お兄様?・・って、誰?


幼い私と、お兄様、そしてお兄様の横にもう1人いて、それから、それから・・・お父様?も、いた?それから・・・、頭が、割れるように痛い。


「ひっ!!」


床に転がった水差しと、こぼれた水が一瞬、夢で見た、人の腕と、血溜まりに重なった。


恐い。夢なのに、目が覚めるにつれて内容が鮮明になっていく。これは、現実なの・・?


ありがとうございます。

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