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ノアのお土産

**アリー


お願いした通り、ミラは仕事を教えてくれることになった。仕事の内容は家畜のお世話で、家畜小屋の2階に住む私にぴったりの仕事といえる。


「仕事って、楽しいのね。」


朝から働いて疲れているはずなのに、不思議と清々しい。


「・・・そうですか?でもアリーさん、まだ見ているだけで何も・・」


「何も、なんてことはないわ、ミラ。とても勉強になっているもの。」


ミラは教え方に自信がないらしく、何度も大丈夫かと聞いてきた。ミラの動きは無駄がなく素晴らしいのに。


**


一段落ついたところで、私達は近くの木陰で休憩をすることにした。昨日ノアが買って来てきてくれた甘味を1袋持ち出し、木にもたれた。

ノアは3袋も買ってきたから、これを食べてもまだ2袋残っている。どうしてこんなに大量に、と思いながら袋を開けてミラに勧めた。ミラが1つ摘まんだ後、私も1つ摘まみ、口に運ぶ。


「美味しい・・・、ねぇミラ、不思議ね。私、この甘味を食べるととても懐かしい感じがするの。」


「よくある、おやつですからね、懐かしく思っても不思議じゃありませんよ。あ、でもうちのはこんなに甘くないですけど。砂糖もかかっていないし。」


「これはご家庭でも作れるの?」


「はい、簡単ですから。」


私も自分の家で食べていたのかしら?

1つ摘まんで、目の前に持ち上げてみた。向きを変えて、上からも下からも観察した。


「・・・、何か思い出しました?」


「いいえ。何も。」


ミラに聞かれて、返事をした。味は確かに懐かしいのに、私の中は、空っぽみたいだった。


・・・・・・・・


「アリーさん?」


「へ?ああ、ごめんなさいボーッとしていたみたい。」


「もう少し休憩したら、また始めましょうか。」


「ええ、そうね。」


袋を振るとまだ重みがあった。覗いて見ると、あと3つ。ミラと私とで1つずつ摘まんだ。


口を動かしていると、遠くから、クレアが歩いて来るのが見えた。無意識に手に持っている甘味を口に押し込み、最後の1つもパッと摘まんで1噛りした。我ながら、余程クレアが気に入らないみたい。でも、お裾分けする必要もないもの。


目の前まできたクレアは、ミラにわらいかけた。


「ミラ、昨日はありがとう。とても楽しかったわ。」


「あ、あー、はい、いえ。よ、良かったです。」


ミラがチラチラと私を見る。


「あら、アリーさんもいたんですね。こんにちは。」


「・・・ええ、ご機嫌よう。」


あまり話したくないから視線を遠くに飛ばし、残りの甘味を噛った。


「ノアが好物だって言っていたのは本当だったんですね。」


「え?何?」


今、私に話し掛けたのかしら?チラリと見るとクレアは私を見下ろしていた。なんて無礼な娘なのかと呆れる。


「昨日、ノアがそれを買うときに言っていたんです、アリーさんの好物だって。」


ああ、と思った。昨日クレアがノアと買い物に行ったことは知っている。ノアから直接聞いたもの。だけど。


「嘘ね。ノアはそんなこと知らないわ。」


ふん、と鼻で笑った。遠回しではなく、はっきりと言えばいいのだ。ノアと2人で出歩いたことを、堂々と自慢すればいい。生憎、私は平気だけど。


「嘘じゃないわ、聞いたもの。昨日はずっと一緒だったんだから。」


すぐむきになるのは、幼いせいかしら?


「そう?じゃあそれでもいいわ。ノアは、あなたといる時にも、私のことを考えてくれているのね。」


思い切り笑顔を向けてあげた。

ノアがなぜそう言ったのかは知らないけれど、確かに美味しいものね。

・・・納得しようとして、でも微かに引っ掛かる。好物?・・以前、ノアと食べたことがあったかしら?


「・・っでも、揚げ物だから、たくさんは食べない方がいいですよ。アリーさんはあまり若くはないみたいだからっ。」


驚いてクレアを見ると、勝ち誇った顔をしていて更に驚いた。ミラは、気まずそうに小さくなっている。

・・・これ以上は時間の無駄だわ。立ち上がってスカートをはたいた。


「ご心配ありがとう。私は大丈夫よ。それに、せっかくノアが私の為に買ってきてくれたのだもの、残りもおいしく頂くわ。」


「・・・」


今度はだんまりだわ。


「あら、もしかして、クレアも食べたかったのかしら?ごめんなさい、気付かなくって。子供は遠慮したらいけないわ、今、持って来て上げるわね。」


「あ、あたしっ、もうすぐ17になりますからっっ、子供じゃありませんっ、要りませんからっっ!!」


声を荒げるクレアを見て、ひっそりと思った。私の勝ちだわ。


「あら、そうだったのね。ごめんなさいね、気を悪くされたかしら?」


「私っ、もう行きますっ。失礼しますっ。」


「ふふ。可愛いわね。」


顔を真っ赤にさせるクレアが面白い。思わず吹き出して笑うと、ミラが戸惑った顔で私を見ていた。


「ふふ。さ、仕事の続きを教えてちょうだい。」



**クレア


あの人は嫌い。嫌い。大っ嫌い。

あんな人がノアの近くにいるなんて。考えるだけでも頭が沸騰しそう。

本当にどうしてノアは、あんな人を連れてきたのかしら。・・・きっとノアの前では猫を被っているのね。


許せない。


ありがとうございます。

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