11 真ん中がアリアの部屋です
がちゃりと音がして、ノックがないままドアが開けられた。もう何度も体験して、ここにはノックする、という概念が無いのかもしれないと思った。
私はといえば、部屋の物に触るなと言われたし、ベッドにも座れないし なので、床に座って、腕に巻かれた鎖を調べていた最中だった。
「その格好はどうした?」
入って来たのはご主人様で、急に声を掛けられて飛び上がった。鎖を見ていたのがバレてはいけない気がして咄嗟に腕を後ろに隠した。
先に服装に目がいってくれて良かった。
「着替えるように言われたので、、、」
声の方へ顔を向けながら言うと、目を見開いたご主人様と目が合った。
「その顔はどうした?」
「へ?」
そうだった。足首や腰の方が痛くて、叩かれた事はすっかり忘れていた。手で触れてみると、少し熱を持っていた。
「ええと、これは、、、」
アリア様がどのような存在かも分からないので素直に言っていいものかためらっていると、突然 荒々しく部屋の外のドアを叩く音がした。
「陛下! 陛下! アリア様が大変ですっっ!」
アリア様、、、
私に近付こうとしていた陛下が踵を返して出ていった。その焦った姿に、アリア様は大切な存在なのだと理解した。
***アリアの部屋にて***
「すみませんでしたアリア様っっっ!どうか許してください、お願いします、」
「エミリ!! 本当に何て事をっっ!」
アリアがエミリに平手を振り下ろすのを、周りの使用人が止めにかかっていた。
「アリア様、アリア様、落ち着いて下さい。もうすぐ陛下がいらっしゃいます。落ち着いてくださいっっ!」
「何事だ?」
言いながら入って来たのは陛下で、途端にアリアは泣き崩れた。
「あああ、、陛下、、申し訳ございません、どうお詫びをしていいかも分かりません、どうか私を罰して下さい。」
「何の話をしているんだ?」
「ああ、陛下、、実は私の侍女が勝手を致しました。しかし私のせいなのです。私が口を滑らせたばっかりに、侍女があの女に伝えてしまい、付け上がらせてしまいました。ああ、でも、私が悪いのです。いくら生意気な態度を取られたからといって、陛下の許しも得ずに勝手に諌めてしまうなど、考えが及ばなかったのです。どうか私を罰して下さい。」
「だから何の話だ?」
取り乱して泣き叫ぶアリアの代わりに問題のエミリが、床に頭を擦り付け、震えながら説明した。
「陛下、私の口から説明する事をお許し下さい。私はエミリと申します。私はジェミューの女の世話をしております。そして、その時に、つい言ってしまったのです。本当は隣国の王子と結婚するはずだったと、、すると、急に騒ぎ出したのです。こんな所にいたくない、と。あまりに横暴な態度に我慢が出来ず、私は手を上げてしまったのでございます。立場を解らせる為に、身分に相応しい服も与えました。勝手をした事は私の責任です。アリア様には無関係でございます。けれど、あの女はまだ反省していません。陛下、罰ならば、あの女に与えるべきなのです!」
「あの女とは、余の物の事か? いつから所有物にまで口を出すようになった? それに世話をしろとは言ったが口を聞くことは許していない。」
「、、、陛下、」
思わずアリアが呟いた。陛下の反応はアリアが思っていたものとは違っていたのだ。
「何だ? あぁ、罰して欲しいのだったな。
確かにお前が一番悪い。そもそも隣国の王子を結婚など、有りもしないことだからな。」
「そんな、、確かに兄は申しておりましたのに、、、」
「何か勘違いしたんだろう。最初からあれは私の物だ。」
「、、、申し訳ございません」
アリアは見開いていた目を伏せ、憔悴して言った。
「ふん、隣国の顔もあるからな、お前は見逃してやろう。だがこいつには罰を受けてもらう。それで、よいな?」
「、、、っ、、はい、申し訳ございません。」
「え?、アリア様!? 私をお見捨てになるのですか!? アリア様っっ!?」
エミリは陛下の指示で、他の使用人に引き摺られて行った。
「あ、あの、、陛下、お話がございます。」
エミリを見届けてからアリアは、おずおずと口を開いた。
「まだ何かあるのか? 罰は与えずとも余は怒っているぞ。」
「本当に申し訳ございません。けれど、、、実は兄の結婚相手だったという噂は、既に広まっているのです。エミリはおしゃべりなので、止められませんでした。それで、、、陛下についての噂も流れ始めているのです。隣国からの王妃候補を放って置いた挙げ句、その国の王子の結婚相手を奪った、と、、、」
「お前が仕組んだのか?」
「滅相もございませんっっ! 私は見放された者と囁かれております。このような、自分を貶めるようなことは致しません。、、ただ、状況を見れば皆、思うことは同じかと、、せめて、あの部屋に住まわせるのだけはお止め下さい。陛下の為に申しております。」
***レイラ***
私はドアに背を向けて床に座り、引き続き腕の鎖を調べていた。これさえ外すことが出来たら、水も飲めるし傷だって癒せる。けれど鎖はぴったりと腕に巻かれていて、僅かな隙間もない。マイクはどうやって外したんだろう、、鍵があるのかしら、、、夢中過ぎて上から覗き込まれているとこに気付かなかった。
「取ってどうするつもりだ?」
「ひっ。」
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