ミラの好奇心
**アリー
ノアが出て行ったドアを見詰めた。
あのドア、大丈夫かしら?鍵は一応閉まるけど、風が吹いて壊れてしまったら、どうしよう。
あんまり不安な顔をしてしまうと、ノアが一緒にいる、なんて言い出す可能性があるから、ついさっきまではわざと強がって、自分に大丈夫だと言い聞かせていた。余計な勘違いを生むのは、困るし。だけど・・・、やっぱり怖い。
怖い、怖いと思っていたら、どこからか苦しそうな呻き声が聞こえる気がしてきた。
「風の音よ、しっかりするのよ、私。」
バチン、と両頬を叩いた。ドアは明日修理してもらえるのだから。それに明日は忙しいのだから、早く寝ないとだわ。
荷物を開けて寝着を引っ張り出した。部屋を見渡し、あ、と思う。クローゼットも、欲しいわね。
「あら?」
着替えようとして、コロン、と何かが転がった。いつの間に・・?
それは2つの、小さな茶色い木の実のような。
「変なの。」
でも、拾い上げてみると、なんだか懐かしい気がする。
「まぁ、わざわざ、捨てなくってもいいわよね。」
ベッドの横にある、小さな窓の窓枠の上に、ちょこん、と並べた。
***
翌朝、目が覚めて、顔を洗いたくて、部屋の中をウロウロとしてみた。入り口がある壁とは違う壁に並んでいる2つのドアのうち、1つ目を開けてみる。
「あら?おトイレ?」
とても汚ないけど、おトイレの姿をしている。お掃除をしたら使えるのかしら。わざわざ階段を下りて行かなくていいと思い、少し嬉しくなった。
次のドアは、
「・・空っぽね。」
小さな物置、といった空間だ。
「仕方がないわ、下りてみましょう。」
水を求めて、外に出ようと鍵を回した。瞬間・・・、何かの重みでドアが勢いよく開いた。
「・・・っ!?ノアッ!?」
「ん・・・?、んあ・・・、朝か。」
ごろりと部屋に倒れこんだまま、ノアは目をこすっている。
「まさか、そこで寝ていたの?」
「はは、寝てないよ。見張ってたんだ。」
「・・・」
きっと寝てたわよって思うけど、そういうことじゃなくて。
「ずっと、ここに居てくれていたの?」
ノアの顔の前にしゃがんで、聞いてみた。
「・・・アリー、顔、洗う?」
「・・・あなたに言われたくないわ。」
「ははっ、おはようアリー。」
ノアは手をついて上半身を起こし、ひょいと立ち上がり、手を差し出してくる。
何か言ってやりたい。だけど、黙って手を握った。
**ミラ
ノア兄ちゃんが帰ってきた。
嬉しいか?・・・普通。
家族だけど、なんだかちょっと遠い存在。それが、私にとってのノア兄ちゃんだ。
遠い存在
「ノア、お嬢さんは疲れてるんだろう?休ませてやったらどうだい。部屋は・・ミラの部屋を使うといい。」
「げぇっっ!」
遠い存在が、急に目の前に突き付けられた。最悪だ。ノア兄ちゃんが嫌いになりそう。だけど、意外なことにアリーさんは私の味方をしてくれた。あの人、いい人なのかな?
あれ・・・クレアさんは、嫌ってそう?
やり取りを見ていたらなんだか面白くなった。
クレアさんは、お兄ちゃんが好き。っていうのは前から知っていたけど。もしかしてお母さんのこと、味方につけたのかな?あぁ、ジョン兄ちゃんが可哀想。
ノア兄ちゃんはどうなんだろう?アリーさんは?アリーさんって、お兄ちゃんとどういう関係なんだろう?
ひひ、面白い。普段何にも起こらないから、こんなワクワクすることは久しぶりだ。後でアリーさんに話しかけてみよう、と思った。
***
「お母さん、おはよう。アリーさんは?」
そわそわしていたからか、いつもより早く目が覚めた。台所に行ってみると、お母さんはもう動き回っている。
「あら、今日は早いね。ちょっと手伝ってくれるかい?」
全っ然、人の話を聞いてない。
「ねぇ、アリーさんは?」
大きな声でもう1度聞くと、お母さんはびっくりしたように目を丸くした。
「なんだい、朝からそんな大きな声だして。そんなに気になるなら、自分で見ておいでよ。ついでにもうすぐ朝御飯だよって伝えてきておくれ。」
ちょっと聞いただけなのに、面倒を押し付けられてしまった。
「えー。ノア兄ちゃんは?」
「あの子は疲れているだろうから、寝かしておいてあげな。さぁ、行った行った。」
あ~ぁ。面倒くさい。でも、あの小屋がどうなったかも少し気になるから、行ってみることにした。
ショールを1枚肩に掛け外に出ると、ひやっとした空気が、頬に触れた。気持ちいい。思い切り深呼吸をした。
「たまには早起きもいいわね。あれ?」
家畜小屋の方を向くと、前からノア兄ちゃんが走ってきている。そして、私がいることに驚いて立ち止まった。
「お前、何してんの?」
「え、お母さん頼まれて、アリーさんところに。」
「何?朝食出来たって?」
「まだ。もうすぐって。・・・ねえ、今ノア兄ちゃん、どこから来た?」
「なんだよ、ちょっと用があって出てただけだ。」
へぇ~。言いながら私とすれ違うノア兄ちゃんは、耳まで真っ赤になっている。へぇ~。ついニヤニヤしてしまう。
「あ、お前は行かなくていいから。後で俺が行く。」
へえ~~~!
慌ててにやけ顔を戻し、無関心を装いながら、心から何度も、へえ~、と思った。
行かなくていいけど、行っちゃうもんね。
ありがとうございます。