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ノア

***ノア


アリーがアムに連れて行かれ盗賊に襲われた日、俺はアリーが本当に記憶喪失になっていることに気が付いた。情けないことに俺はこの状況に希望を抱き、不埒な考えばかりが頭を廻る。今、彼女の目に俺はどう映っているのだろうか。1人の男として、見てくれているだろうか。あわよくばこの先もずっと、一緒にいてはくれないだろうか。俺の・・、俺と共に生きていってはくれないだろうか。

ギリギリに保っていた感情が揺らいだ。不謹慎だと感情を抑え込もうとする度に苦しくて、息も出来なくなる。


そして、故郷で自分の家を見た時、もう抑えるのは無理なのだと、ハッキリと自覚した。この人以外にあり得ない、それは願望でなく決意に近く、同時に気が逸る。落ち着くまではこの地でと思っていたが、早いところ2人で生活する為の金を貯め、出ていこう。今度は誰も知り合いのいない土地へ行くのだ、他国へ行くのだっていい。過去を全て断ち切って、後に記憶が戻ったとしても気にならないくらいの遠くへ。

・・・今まで実家に仕送りしてきた金が、惜しく感じられた。



**


家畜小屋に馬を連れていくと、ロバと大牛が鳴き、白黒アヒルが飛び回った。


「うゎ、おい、ちょっと黙れってっ、くそっ」


アリーの前であんまりだ。空きスペースに馬を入れ、飛び回る白黒アヒルを掴まえようと手を伸ばせば、ますます威嚇し騒ぎ出した。


「なんだよ、くそっ」


「誰?」


その時小屋の入り口で、誰かが声を出した。誰でもいいけど、とにかく助かった。早くどうにかして欲しい。


「俺だよ。それより、なぁこいつら、どうにかして・・」


「・・・お・・・っノアッッ!?ノアなのねっっ」

「ぐっっ・・」


思い切りぶつかってきたのは・・


「ク、クレア? おまえ何でここに?というか、離れて」


クレアの両腕は、ガッチリと俺の腰に回っている。頭をぐい、と押し退けた。


「酷い、帰って来るって言うからずっと待ってたんじゃない。騒がしいと思ったら・・、家よりも先に小屋に行くだなんて、あんまりだわ。」


「馬を繋ごうと思ったんだよっ、くっつくなって」


こいつこんな奴だったっけ?腰に張り付いた腕を無理やり引き剥がし、アリーを振り返ると、目をそらされた。


「ご、誤解だよっ、こいつはそんなんじゃなくて、ただの幼なじみだっ!」


「え、ええ・・。」

「何?誰この人?」


「ばっ、お前、言い方っっ。ご、ごめんよアリー、こいつ悪気はないんだ。」


アリーを指差したクレアに慌てる。アリーに近付こうとすると、タイミング悪く飛び回っていた白黒アヒルが、後頭部に突き刺さった。


「・・ってっっ!!」


なんだよもう、最悪だ。




**


「あ・・・、えっと、みんな久しぶり。あっと、た、ただいま。」


クレアの手を借りてどうにか家畜小屋を静め、俺はアリーを連れて家に入った。なぜだかクレアも付いてくる。早く自分の家に帰ればいいのに。

4年ぶりの家族は、久々過ぎて照れる。両親は少し老けたかな、兄弟達は、皆大きくなった。1人1人と抱き合い再開を確かめ・・・、おっと、クレアも並んで待っている。さすがに勘弁して欲しい。


「ふふ、改めましてお帰りなさい、ノア。」


「ああ、ただいま。」


抱擁の代わりに握手で済ませた。不満そうに睨んでくるのは無視だ。


「まぁまぁクレア、あんたは後でゆっくり、ね。それよりもノア、そのお嬢さんはだれだい?」


母がアリーに視線をやった。「後でゆっくり」ってなんだよ、そう思いながら、俺はアリーの手を取り優しく引いて皆の前に促した。


「アリーだ。彼女は・・」

「初めまして皆様。アリーと申します。せっかくの再会を邪魔してしまってごめんなさいね。ええと、ノアのお父様、お母様、実は私、記憶を失って困っていたところ、ノアさんに助けて頂いたんです。しばらく滞在してもいいと伺ったのだけど、ご迷惑ではないかしら?」


「ああ、そういうことかい。それは別に構わないけど・・、ねぇ、あんた。」


「ああ。好きなだけいればいい。」


「まぁ!ありがとう。ノアの優しさはご両親譲りなのね。」


「・・・」


嬉しそうに笑うアリーに苦笑した。本当は俺が皆に紹介したかったのだが、アリーはやはりアリアなのだ。


「さぁさ、挨拶はここまでにして。夕食はまだだろう、食べようじゃないか。」


俺が戻ってくるから奮発したんだろう。普段は食卓に並ばないようなご馳走が準備されていた。スープにまで肉が入っているのは驚きだ。だが、こんな田舎の料理がアリーの口には合うだろうか?掴んだままの手を窺うように握り、顔を見ると、少し困ったように微笑んだ。


「ねぇノア、私の部屋はどこかしら?」


「え?」


「私はもう失礼するわ。水入らずで過ごしたいでしょうし。」


「いやいや、アリーそれは・・」


アリーは気を使っているつもりだろうが、ここでそれは良くない。まだ家族の紹介もすんでいないのだし。

必死で止めようとしたが「私がそうしたいの。」と言われてしまえば引き下がるしか・・、いやいや、それでも駄目だ。


「アリー、よく聞いて。みんなで夕食を食べよう。ここでは・・」

「ノア、お嬢さんは疲れてるんだろう?休ませてやったらどうだい。部屋は・・ミラの部屋を使うといい。」

「げぇっっ!」


母が口を挟み、妹のミラは顔をしかめた。故郷を選んだのは間違いだったのかもしれないな。ため息が出た。


「なぁ、ミラ、『げぇ』はないだろ。それに部屋は俺の部屋がある。」


「ないよ。」


「は?」


手紙に、書いてなかったか?いつ戻って来てもいいように部屋は空けてあるって。


「あんたがいない間に、家族が増えたんだよ。」


母がそう言いながらダイニングに面した部屋のドアを開けると、そこにはすやすやと眠る赤子の姿があった。


「な・・・」


「チビ達がうるさいから上の部屋に行ってもらったんだよ。」


4年経てば、そういうこともあり得るのか。


「・・・じゃあ、悪いけどミラ・・」

「だめよ、ノア、それはミラさんに悪いわ。自分のお部屋だもの、嫌なら仕方ないわ。他に、空いているお部屋はないのかしら?」


「・・・家畜小屋」

「おいっっっ!!」


クレアがぼそりと呟いた。耳を疑う、本気でそう思ったのか?声を荒げると顔を赤くして、あたふたと言い訳を始めた。


「違っ、違うのっ。そんなつもりじゃなくて、ただあそこだったらアリーさんも気兼ねなく過ごせるんじゃないかしらって思っただけなの。その・・この家は人が多いから。」


「家畜小屋って、さっきのところかしら?住めるようなお部屋があって?」


「あるにはあるんだけどねぇ・・・。客人に住まわせるところじゃないから。」


アリーの質問に、成り行きを見ていた母が答え、俺は大きく頷いた。


「だろ。無理だよ、アリーには。」


クレアには後でしっかり話をしておこう。そう思った途端。アリーが真っ直ぐに俺を見た。


「どうして?なぜ私には無理なのかしら?」


ありがとうございます。

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