猫になりました
気付いたら、猫になってた。
昨日の夜は忘年会で、かなり飲んでいた自覚はあった。
しかし、前後不覚にならずに、ちゃんとタクシーに乗って帰ってきて、布団で寝た記憶もある。
なのに、なぜか気づいたら猫だった。
夢かなこれ。
四足歩行の違和感はあったものの、ショーウインドウに写る自分の姿が、実家で飼ってた雑種の猫そのものだったので、夢だなこれ。と、早い段階で状況を確認した。
そうと決まれば、楽しんだもん勝ちじゃね?と、散歩を開始したのはいいのだが、周りには見たことのない中世ヨーロッパ風の街並が広がっている。
石畳の道なんて、テレビでしか見たことない。
しかも、馬車が走ってるから、どんな夢だよこれ。と自分でツッコミをいれ、物珍しさから、街中をぶらぶら散歩していたのだが、なぜか可愛がられるどころか、行く先々で追い払われることになった。
ちゃんと道のはじっこを歩いていたし、迷惑になるようなことは何もしてませんけど?
おい、こっちは可愛い猫だぞ。雑種だけど。
普通、猫を見たら、かわいい~とか言って、寄ってくるのが筋だろうに。
何もしてないのに、なんでほうきで叩かれなくちゃいけないんだ。
挙句の果てには、網を持った警察みたいな人に追いかけられるなんて思わないだろう、普通。
こんなにも小さくて無害でかわいい猫なのに、まるで動物園から脱走した猿や山から下りてきたイノシシみたいな追われ方をするなんて、理不尽にも程がある。
この街は、猫立ち入り禁止かなんかなのか?
信じられない!
たくさんの警官に追われたので、歩道を歩くのを止めて、壁を上り、屋根の上へと逃げてきたのだが、どうやらこっちにも追手は差し向けられていたらしい。
なんとかと馬鹿は高いところが好き、とか言うけど、まさにそれな。
大人しく橋の下とかに隠れておけばよかったと後悔した。
今は猫だから、高いところから飛び降りても平気だろうと、屋根から下の地面に向かってジャンプしたのだが、まさか飛び降りた先にちょうど馬車が走ってくるなんて思わないじゃん?
距離感と目測を誤ってしまったために、馬車の屋根に飛び降りることになり、着地に失敗した私は、思いのほか強めに体を打った。
屋根のくせに、どうしてこんなにも固いんだろう。
しばらく悶絶していたが、どうやらうまく逃げ切ったようだった。
恨めしげに私を見る警官たちの姿を見て、ざまあみろと思った。
こんなにもかわいらしい小動物を追い回すなんて、この世界はくそだな。
うみゃん!と、右手を上げて、ガッツポーズを取り、勝利宣言をした次の瞬間。
がばりと、大きな網に襲われた。
「うみゃみゃ!(嘘でしょ?!)」
そのままずるりと馬車の中に引きずり込まれた。
「ミ゛ャッ(いだっ)」
思い切り壁に頭をぶつけて変な声が出た。
「思ったよりも小さいですね」
網の中で逆さになったまま、私を捕まえた相手を見ると。
「にゃ、にゃ、にゃにゃにゃ!(な、マジで?ほんとに?!)」
大好きな乙女ゲームに出てくるキャラクターの顔が、そこにはあった。