8話 超エネルギー物質
「へ?」
唐突の機械音に間抜けな声を出してしまう。
僕が手をついた場所の幾何学模様が光り、壁が開き始めた。
「なんだ?!」
宇宙船の機械音声である独特な女性の声で、僕の指紋を認証したという。
この壁が指紋を認証するための機械になっているのか?
ゆっくりとだが確実に開いていく、壁に目を細める。
中が見えてきた。
壁の中は暗くよく見えないが、部屋になっているのは理解できた。
くそっ、廊下も非常灯の光だけだしよく見えない。
最後にガシャンと音を立てると、壁が動くのをやめた。
壁には、人が2人は余裕で通れるだけの穴ができている。
「爆弾が設置されているような場所だしな。中には何があるか分からないけど、入ってみなきゃ始まらないか……」
爆弾がこの壁を壊そうとしたのは、十中八九この部屋が目的だと言っていいだろう。
ということは、中には犯人が求めている物、もしくは壊したかった物があるはずだ。
危険はあるが、ここからでは中の様子が確認できないし、中に入るしかない。
こんなことやってる時間はないんだけど。
だけど、放っておくわけにもいかないし。
僕は、周りを見てから、壁の中に踏み込んだ。
僕が部屋に入るや否や、天井に設置された電灯から白い光が発せられ、部屋が明るくなった。
明るくなり、見えるようになったので、部屋を確認する。
「箱?キャッシュケースか?」
部屋の中央に台があり、その上に真っ黒な箱が置いてあった。
蓋がついていて、開くようになっているのが分かる。
大きさは大きめの本くらいしかないので、小さな物しか入らないだろう。
台のほうに歩くと、僕の足音が不思議なくらいに響く。
僕は一度深呼吸をしてから、箱を開けた。
「宝石……?」
箱の中には、手のひらサイズの宝石のようなものが入っていたのだ。
形は歪で、整えられてはいない。
黄緑、青、紫のグラデーションで、色気をもった不思議な光を放っている。
吸い込まれるようにその宝石を手に取った。
「綺麗だ……」
熱さや冷たさは感じず、大きさにしては重いなぁと思った。
見ていると自然に口角が上がってしまう。
取りつかれたように見入ってしまい、頭が空っぽになる寸前で、壁が閉まる音に意識を取り戻した。
「なんだ?!」
この部屋に閉じ込められたのかと疑う。
僕は急いで、さっきまで開いていた壁に戻り、壁を叩いていると、突然男の声が聞こえた。
「超エネルギー物質、通称マナ石。ついに見つかったか」
「――!!」
父さんだ!
間違いない!!
重みがあるかすれた声。
忘れられるはずがない!
自然と息が荒くなった。
「これは忠告だ。今それをもっている奴がどんな奴かは知らない。国の連中か局の連中か、はたまた……、いやそれはないな。まぁ、どんな奴らだろうがよく聞いとけ。
その石、マナ石は危険だ。
使い方を誤れば、街一つ簡単に滅ぼすし、人類滅亡だってあり得るかもしれない。
だが、役に立つのも事実。
長年問題になっているエネルギー問題もこれで解決できるだろう。
俺は、このマナ石を解析し、マナ石を使うことで使用可能になるマシンを作ることができた。
人の怪我もたちまち治せるし、物だって思うがままに浮かせることができる。
俺の間違いは、武器を作ってしまったことだ。
強力な武器を作成してしまったことは、今となってはひどく後悔している。
今その石を持っている奴の倫理を問う。
見つかってしまったのなら仕方ない。存分に役に立てるといい。
それでも……」
何か思うところがあるのか間が開く。
「……人にだけは使わないでくれ。
もう一度言う。
これは忠告だ。
過ぎた力は時に自分を滅ぼす。
長い歴史の中で、それは十分に証明された。
もう間違わないでくれ。そろそろ学習しなければならないんだ、人類は」
そこで何も聞こえなくなった。
壁はいつの間にか開き、薄暗い廊下が視界に入る。
僕は手の中にある石をもう一度見た。
これを父さんはマナ石と言っていた。
どんな力があるのかは分からないが、言いぶりからして強力な力を内包しているのは間違いない。
この石に恐怖すら感じている節もあった。
隠しておくべきか、報告すべきか迷うな。
そんなことを考えていると、周りの壁が上に上がっていった。
突然の動きに警戒をしていた僕だったが、すぐにその警戒を解いた。
「これか、父さんが言っていたマシンというのは……」
壁が上がっていった先にあったのは、沢山の機械だった。
大きい物から小さい物まで、いろんなものが置いてある。
宇宙船の地図を見た時にはこんなスペースはなかったはずだが、どうなっているのか。
「一旦戻しておくか」
僕はマナ石を箱の中に戻すことにした。
この問題は後で考えることにして、今は目先の問題を解決することにしたのだ。
ゴブリンとコボルト。
便宜上そう呼んではいるが、あの生物は一体何なのか。
見慣れない空に、赤い月。
考えることは山積みだ。
マナ石を箱の中にそっと戻す。
削られたそのままのような形をしている石は、驚くほど箱にフィットする。
マナ石を箱に戻すと、周りの壁が下りてきて最初の部屋に戻った。
僕はマナ石を一瞥してから、真っ黒な蓋を閉め、部屋の外に出た。
みんなに知らせる知らせないは別として、必ず戻ってこよう。
殺された父さんの手がかりも何かつかめるかもしれない。
僕は走りながら、煮え切らない思いを振り払うように頭を振る。
今は魔物たちだ。
少なくない被害も出ている。
「待ってろ、魔物ども」