7話 爆弾
宇宙船に入り、外で戦っている船長を呼ぶ。
「船長!早く!」
襲い掛かってくるゴブリンを殴りつけ、走ってくる。
僕を追ってきた9匹のゴブリンとコボルトも丁度やってきた。
船長が脱出口に入ると、重い扉を急いで閉じた。
レバーを押して、ロックをかける。
船長の荒い息遣いと、魔物たちが扉をたたくガンガンという金属音がこだまする。
この扉は頑丈だけど、他に穴が開いているかもしれない。
武器が必要だな……。
ジャロドさん達はどうしたんだろう……。
「船長、武器を取りに行きましょう!」
「ぐ……。行きたいのは山々なんだが、体が動きそうにない……」
船長は壁にもたれかかって、どっかりと座った。
「俺はここでこいつを見ておく」
僕が運び込んだ怪我人を見て続けた。
「先に行っててくれ。行けそうだったら、こいつを安全な所に移してから向かう……」
「分かりました!無理はしないでください!いってきます」
元気に動いていたから、大丈夫なのかと思っていたが、戦いのダメージは相当大きかったんだろう。
僕は武器庫のほうへ走った。
武器庫にあるのは、対人間用のレーザーガンだから魔物たちに聞くかは分からないけど、ないよりはいいだろう。
そういえば、はじめさんはどこに行ったんだろう。
途中ではぐれてしまったのか?
無事だといいんだけど……。
そんなことを考えながら走っていると、途中でソフィさんと会った。
「ソフィさん!ジャロドさんは一緒じゃないんですか?」
ソフィさんは泣きそうになりながら、
「あ、じゃ、ジャロドさんは、私を押しのけて、どこかに走って行ってしまって……」
と言った。
僕は、ジャロドさんの行動に憤りを感じずにはいられなかった。
この非常事態に一人で行動をして。
武器庫に行こうとしているのか、それとも、安全なところを探しているのかは分からないが、自分勝手な行動はしないでほしい。
「そうですか……。後で話しあう必要があるみたいですね……。
とりあえず、武器庫に行きましょうか」
「は、はい……。あ、あの!」
「どうしました?」
「多分なんですけど……。違ったら申し訳ないですが……」
緊急事態のゆったりとした物言いに、少しいら立ちを感じながらも、はい?と急かすように言う。
「あの、ば、爆弾みたいなのを見つけたんです」
「爆弾!?」
「は、はぃ……」
僕の大きな声にびっくりしてか、ソフィさんはだんだんと声を小さくしながら答えた。
「どこにあったんですか!?」
「こ、こっちです……」
ソフィさんが小走りで案内を始めたので、それについていく。
エネルギータンク近くで爆発した爆弾の残りか?
でもそれにしては、エネルギータンクとは違う方向に向かっている。
4つ目の角を曲がると、確かに爆弾が壁に張り付いていた。
「なんでこんなところに爆弾が……?」
ここの区画には特に大事なものがないはずだ。
引火するものもないし、ここに爆弾を設置した犯人の意図がつかめない……。
僕は不可思議な犯行に首をひねる。
「あの、わ、私が、ここに着陸してから外に出るときは、こんなのついてませんでした……」
「本当ですか!?」
「は、はぃ!」
この地球とも、調査のために向かったメラノス星とも違った場所に、宇宙船が着陸したときは、この爆弾はなくて、今見るとあるという。
ということは……
「確実に内部の犯行で、そしてその犯人はまだ生きている……?」
何かの目的があるのか、この壁を破壊するための爆弾。
いまさら疑われる可能性もありながら、ここに設置したということは、少なくとも何かの目的があるはず。
壁を見るが、幾何学模様の描かれた何の変哲もない壁だ。
犯人が分かれば、目的もはっきりするかもしれないんだがな。
ソフィさんが声をかけてきて、思考を中断した。
「あ、あの、だ、大丈夫なんでしょうか……?さっき見た時より、赤い光の点滅が早くなっている気がして……」
爆弾の中小さく光る光点を言っているのだろう。
「さきに解除をした方がよさそうですね」
僕は爆弾の蓋を開け、配線を確認した。
「時限式でもう少しで危ないところでした。でも、これなら何とかなりそうです」
「そ、それならよかったです……」
「ナイフもってますか?」
ソフィさんに手を出した。
ソフィさんは一度目を泳がせてから、ありますと言って腰に巻いてあったカバンから、ナイフを取り出した。
爆弾が目の前にあるからか手は震えていて、ソフィさんはナイフを落としてしまうが、すぐに拾い上げる。
「ありがとうございます」
爆弾の解除を始めた。
難しい構造ではなかったので、ものの数分で終わる。
「ふぅ……。終わりました」
そういって、手で額の汗をぬぐった。
初めての爆弾解除で僕自身も緊張していたんだろうな。
しかし、犯人はいったい誰なんだ。
僕は今まで会った人物を思い出していく。
ゴードン船長、ディルブさん、はじめさん、ジャロドさん、ソフィさん。
この船が着陸した後に、爆弾を設置できるだけの動きができた人物はこれくらいだろう。
固まってじっと僕を見ているソフィさんを見返した。
ソフィさんは体をビクッと震わせる。
くそ……、みんな怪しく見える……。
だけどやっぱり、ソフィさんを押しのけてどこかに走っていったジャロドさんが一番怪しい気もするんだよなぁ。
急に宇宙船に乗ると言い出したのも、何か思惑があってのことかもしれないし。
早く武器を手に入れる必要もあるけど、ここを調べずに放っておくのも気が落ち着かない。
「ソフィさんは先に武器庫に行ってください。僕はもう少しここを調べてから行きます」
「わ、私も残ります!」
「いえ、今は人手不足なので、あちらの応援にいってください。お願いします」
「あ、あ、わ、分かりました」
ソフィさんは何かを考えている様子だったが、納得はしたらしく首肯した。
そして、何度か振り返りながら、来た道を戻っていく。
ソフィさんを一人で行かせたのは、人手不足と、一人でここを調べるためだ。
誰一人信用できない宇宙船内で、余計な手出しはしてほしくない。
「しかし、本当に何故ここに爆弾を設置したんだ?ここには部屋も近くにないし、船内図を見ても何もなかったはずだけど……」
独り言をつぶやきながら、壁に手をついた。
「指紋を認証しました。綿矢空大様を認識。開錠します」