5話 違和感
落ち着いてきたので、もう一度宇宙船に戻り、見て回ろうと思った。
「船長、何か使えるものがないか船内を見てきます」
船長はちらっと空を見上げた。
「いや、やめといたほうがいい。
俺も一応誰か残っていないかと見て回ったが、結構船内は危険だった」
「そうですか……。何か役に立つものが見つかればと思ったんですけど」
「今は、外で夜を過ごそう。
大分時間は経っている。こんな大きなものが急に現れれば、助けも来るだろう。
でも、改めてワープはすごいな。こんなものが宇宙から落ちてきたってのに、周りの土地が荒れてない」
考えてみると確かにそうだ。
ここまで大きな宇宙船が、超光速で宇宙からぶつかってきたら、人類滅亡だってあり得るだろうに。
まぁ、そこも含めて、超光速空間航法なのかもしれないが。
「そうですね。父はすごいものを開発しました」
「お前にもその血は流れているからな。
絶えなくてよかった」
「才能は受け継いでいないようですけどね」
自分で言った言葉に苦笑してしまう。
人類史上一番の天才とも言われていた父を持ってはいるが、僕はそこまで何かができるわけじゃない。
人より計算が速かったり、考えるのが速かったりはするけど、天才的な発想はできない。
偶にあっていた父からは、
「俺は科学だけはできたが、他のことはそれほどできるわけじゃない。ソラタも科学に限らず、何かで才能を開花するかもしれないぞ。なんたって俺の息子なんだからな」
と言われていたが、いつその才能は開花するのか。
努力は怠っていないつもりだが、せいぜい同年代より頭一つ抜きんでているくらいだ。
父なんて人類から、頭1000つくらい抜きんでていただろうに。
「お前の父とは知り合いだったが、よくお前のことをほめていたぞ。
自慢の息子だってな。自信持て」
父は僕には甘かった。
一人息子を残して、妻が早々他界してしまったので甘くなったのだろう。
「そうですね。自信持ちます」
胸の中にモヤモヤを抱えながら肯定した。
船長は僕の肩を叩き、船内からだした機械類を点検しに行った。
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あたりはすっかり暗くなり、怪我人たちはすやすやと寝息を立て始めた。
風は柔らかく、木々を少し揺らしている。
僕は空を見上げた。
ほんの15時間前までいた宇宙。
とても広大で、今もなお広がっている。
小さいころから、空にきらめく星が大好きだった。
そこら中にある人工的な光とは違った暖かな光が、僕の心までキラキラと輝かせてくれた。
父の影響もあり、宇宙飛行士になることに決めたのだが、こんなに長い間宇宙にいることはこれまでなかったので、疲れている。
僕は父が大好きだった。
話し方は豪快ながらも、どこか知性を感じられた。
ごつごつとした手に、オールバックに整えられた髪の毛。
今でも鮮明に思い出すことができる。
誰が父を殺したのか。
恨みはあるが、いまだに現実感がない。
仕事上たまにしか会えなかったので、いつかふらっと帰ってくるんじゃないかと考えて、2年が経った。
「どうしたんすか~?そんなところで空を見上げて。楽しいっすか?」
声に視線を戻すと、はじめという男がいた。
「楽しいですよ。空を見るのは」
「そうっすかねぇ。真っ黒に点々があるようにしか見えないんすけど」
はじめは空を見上げた。
僕も空を見上げて話し始める。
「その点々にも意味があるんですよ。えーっと……」
僕は有名な星座を探す。
あれ……?
地球時間で大体2月だと思うんだけど……。
星で地球のどこに落ちたのかも今思えば知ることができる、そう思ったのだが、どこにも見知った星がない。
そこまで詳しいわけではないけど、まったくないというのは絶対におかしい。
「どうしたんすか~?」
はじめが顔を覗き込んでくる。
「おかしいんですよ。星がないんです」
「え?あるっすよ」
「いや、地球から見えるはずの星が一個もないんです」
「そうなんすか?あ、そういえば月も2つあるっすもんね」
唐突の爆弾発言に目を見開く。
「月が2つ?」
「そうっすよ。ここら辺からじゃ見にくいんすけど、木に隠れるてるのを見つけました~」
冗談だと思った。
月は今、ここからよく見える位置にあるし、月が2つというのは絶対におかしい。
でも、嘘をついている感じはしない。
胡散臭い見た目はしているものの、嘘を言っているようには見えなかった。
「こっちっす」
にやにやしながら、僕を立ち上がらせて、森の中に誘導した。
森の中にずかずかと入っていくので、怪しさも感じながら、何も言わずについていく。
少し歩くと立ち止まり、木々の隙間を指さした。
「―――!!」
月だ。
山から顔を出すように、あるはずのない赤い月がそこにはあった。
「赤い月なんて初めてみるっすよー。
炎みたいっすね。爆発綺麗だったなぁ」
はじめは宇宙船の爆発を思い出しているのか、細い目をさらに細めた。
しかし、僕にはそっちに気を配る暇はない。
ぼそぼそと考えをまとめるように、思ったことを口に出していく。
「おかしい。すべてがおかしい。
地球にあるはずの星がなくて、地球にないはずの月がある。
というか、あれは本当に月なのか?赤い月なんて見たことがないぞ」
強い風が吹き、木々がざわめく。
「―――ここは地球じゃない?」
「ガウッッ!!!」
森に獣の声が響く。
「なんだ!?」
茂みが音を出している。
気配だ。
何かの気配。
それも一つじゃない。
「逃げるぞ!!」
僕はいまだにニヤニヤしている男に声をかけ、来た道を全速力でもどる。
はじめは戸惑いながらもついてきてきた。
何かが追いかけてきている……!!
夜の森はやっぱり危ない!
不注意に来るんじゃなかった!
普段走ることのない足を、必死に止めないように走った。