4話 船外
脱出口前に着き、重いレバーをひいた。
ぎーっと音をたてながら、人がやっと一人通れるくらいの大きさの扉が開いていく。
船内の暗さに慣れていた目にはきつい光が僕たちを照らす。
目を細めてしまったが、だんだんと目が慣れてきて、外が見えるようになった。
「…………!」
木だ……!
真っ先に目に入ってきたのは木だった。
というより、視界全体を樹木が埋め尽くした。
深い森のところどころに宇宙船の残骸が落ちているのは、どこかちぐはぐさを感じさせた。
事前情報では、植物はまだ内陸部までは来ていないということだった。
じゃあ今僕たちは、海の近くにいるのか。
しかしそれにしても、しっかりとした木が多い。陸上に進出している植物はコケ類が主だと思うのだけど。
では考えられるのは――ー
「ここは地球なのか?」
船長は自分に問いかけるように、その言葉を口の中で転がす。
僕は、ゆっくりと外に一歩踏み出した。
その瞬間、1羽の鳥が木から飛び立った。
さっきの鳴き声の正体だろう。
「地球に着地したみたいですね……。メラノス星に座標を設定したはずなのですが」
星にはないはずの、深い森の中にいるということは、ここは地球で間違いない。
エラーによって空間座標が狂い、地球に着地するなんて奇跡中の奇跡だ。
2人はそう考えているのだろう。
しかし……
何かがおかしい。
そう思わずにはいられなかった。
本当だったら、手を挙げて喜ぶべきところなのかもしれないが、素直に喜べない。
別に地球に着いたこと自体が違和感なのではない。
確かにワープで地球に着いたことは晴天に霹靂な出来事ではあるが、エラーが起きた際に、事前に登録してある地球の座標が使用されたのかもしれないとも考えられる。
ただ、実家に帰ってきたのに、別の世界に来てしまったかのような複雑な気持ちが絶えないのだ。
これ以上考えても何も生まれないと思い、頭を振って一旦考えるのはやめることにした。
「準備して救助にいきますか。宇宙船も爆発の心配とかはなさそうですし」
海に浮かぶ大型船くらい大きく、平たいデザインの宇宙船は、流石にすべてを見ることはできないが、大丈夫だとめどをつける。
「そうだな。今は喜んでいる暇はない。喜ぶのは、生きているやつを助けてからにしよう。近くに人もいなさそうだしな」
僕らは、脱出口近くにある懐中電灯と救命バッグを持ち、救助に向かった。
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途中、船長の提案で、分かれて生き残りの捜索をした。
船長も怪我がひどいので大丈夫かときいたが、はやく乗組員を助けたいと、断固として譲らなかったのだ。
捜索を始めたのが太陽が出て少しした朝だったのにもかかわらず、終わったのは空がオレンジに染まりつつある夕方だった。
捜索の結果、見つかったのは18人。
僕、ディルブさん、船長を合わせると、生き残ったのは21人になる。
ほとんどが怪我を負っており、とても動ける状態ではなかった。
うめき声が木々のざわめきに負けないくらい、聞こえてくる。
救急キットを使い応急処置はしたが、早く医者に見せないといけない致命傷を負っているものもいた。
しかし、そんな暗い空気の中では場違いな明るい声が、僕に話しかけてきた。
「いや~、ひどいっすねぇ。宇宙船は大破で、怪我人多数!
まぁでも、地球に戻ってこれてよかったっす」
僕は、奇妙なほど目を見て話しかけてくる男を見た。
細い目に長くとがった鼻、波を描いている髪が、どことなく胡散臭さを感じさせる。
「おっと、急にすいやせん!
僕は、はじめっていいます。旧日本帝国の同郷として、ソラタさんの話はよく耳にするんすけど、すごいっすねぇ、この船。
でっかくて高性能ですごいっすよ。お父さんの船がこれっすもんねぇ。
僕も制限解除とかできれば、簡単に調査のためにこの船乗れたのかなぁ」
故意なのか、天然なのか分からないが、嫌味を含めてにやにやとした顔のこの男はどうしても生理的に受け付けない。
「あ、僕のことは、はじめって呼んでください!
歳も近いし、気楽にやってきましょう!」
そういって笑い出した男に、少々困惑しながらも
「は、はい。わかりました。はじめさん。
それにしても、はじめさんは怪我が少なそうですね。よかったです」
「いやぁ、僕、運だけはいいんすよ。
みんなつらそうっすよねー。死んだ人もいるしー。運悪いなー」
「そうですね……。
では、僕は怪我人を見ていなければならないので、失礼します」
きっぱりと言って怪我人のほうへ歩く。
後ろから、おっけーっすと聞こえるが気にしない。
よくあんなに明るくいられるな。
明るくいるのはいいことなのかもしれないけど、怪我人や死人を馬鹿にするような発言はやめてほしい。
怪我人が集められている木陰のところまで行くと、怒鳴り声が聞こえた。
「医者はいないのか?!俺を誰だと思ってる?!
アースライト社の社長だぞ!いくらこのプロジェクトに出資したと思ってるんだ!!」
ぶくぶくと太った丸い体を振るわせて怒っているのは、ジャロドという男だ。
今回の、地球外生命体発見のプロジェクトに多額の出資をしている会社の社長をやっている。
調査に参加してみたいと、突然言い出し、局も混乱していたのでよく覚えている。
それにしても、おおきなお腹だなぁ。
何を食べたらこんなになるんだろう。
「す、すみません……!え、えっと……、残念ながらお医者さんは全員亡くなったみたいで」
怒鳴られていたのは、気弱そうな女性だった。
素朴だが、整った顔は、今にも涙があふれんばかりの顔をしている。
「そんなの知らん!責任者を呼べ!責任者を!」
泣きそうな女性を前に関わらず、勢いが収まらないジャロドのもとへ、船内で作業をしていた船長がやってきた。
「私がこの船の船長をやっています。ゴードンです。どうかされましたか?」
「お前が責任者か!医者はいないのか!?
ほら見ろ!こんな怪我を負ってしまった!!」
ジャロドは汚れたズボンのすそをめくると、血のにじんだ包帯を見せた。
血の量からいって、軽い切り傷程度だろう。
逆に良くそんな軽い傷で済んだものだ。
「軽傷じゃないか」
さっきまで敬語を使っていたのに一転、どすの利いた声で船長が言った。
「少し黙ってろ。お前のせいでただでさえ悪い空気が、更に悪くなる」
「なにをいっている……!!俺は天下のアースラっ」
ジャロドが全部を言い切る前に、船長が首を叩いた。
するとジャロドは気を失い、倒れる。
「誰だこいつに乗船許可だしたやつは。局に戻ったら絶対文句いってやる」
船長は怒鳴られていた女性を見た。
「大丈夫か?すまんな、手間を取らせてしまって」
女性はビクッとして、焦ったように口を開いた。
「い、いえ!大丈夫です!手間なんてそんな」
「そうか。確か名前はソフィだったよな。生物学者の」
「は、はいっ」
「重いけがを負ってなさそうでよかった。怪我人の手当ても積極的にやってくれたし、優秀だな」
「あ、あ、ありがとうごじゃっ!」
あ、噛んだ。
ソフィさんは恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。