3話 着地
「うぅ……」
鈍い痛みを感じ、目を覚ました。
焦げ臭いが鼻につく。
頭を押さえながら、状況確認のため周りを見渡した。
破損した機械に、ひしゃげた壁。ところどころに飛び出す金属が状況の悪さを物語っていた。
ひどいな……。原型をとどめてない……。
「――だけど……、生き残った」
遅れてきた喜びに、顔をほころばせる。
既視感すら感じない周囲に、よく生き残ったものだと思った。
息は問題なくできる。ワープ直前、エラーが起こり一体どうなることかと思ったが、無事星についたみたいだ。
「そうだ!ほかのみんなは!」
落ち着いてきて、他の乗組員の存在を思い出いだした。
確認しようとセーフベルトを外そうとするが、壊れてしまっているようで思うように外せない。
窓のようなものは、元々スクリーンで外の景色を移していたものだったので、今では当然映っていなく、薄暗い。
僕は、非常灯の明かりを頼りに、近くに落ちていた鋭くとがった金属を拾い上げ、急いでセーフベルトを断ち切った。
「誰か!意識のある人はいますか!?」
大声で呼びかけながら、おぼつかない足で近くの席へと向かう。
そこでは、女性が額から血を流して意識を失っていた。
いそいそと、首に手を当てた。
「死んでる……」
ここまで船内が大破しているのを見ると、すごい衝撃だったのが分かる。
生きている人のほうが、少ないないかもな……。
僕は、近くの人からどんどん生存確認をしていった。
お腹から金属をはやしている者、首が折れて途中までない者、きれいな表情をして脈を感じない者。
やはり、生きている人は見つかりそうにない。
「ぐ……」
ふいに、男のうめき声が聞こえた。
「この声は……!大丈夫ですか!!船長!」
声はゴードンのものだった。
「ぐぐ……。ここだ。手伝ってくれ……」
声の聞こえた方向を見ると、がれきがかすかに揺れていた。
「待ってください!」
がれきをどかすと、船長がお腹を押さえながらうなだれていた。
「骨を何本かやった。とりあえず、起こしてくれ……」
「わかりました」
幸いセーフベルトは簡単に外れてくれた。
ボロボロの船長に肩を貸してやると、ゆっくりと起き上がって言った。
「どのくらい、生き残ってる?」
僕はたまらず下を向いた。
「探していますが、生きている人はまだ船長しか見つかってません」
「そうか……」
船長は悪くないのに、まるで自分のせいかのように悔しい顔をした。
自分の判断で死人を出してしまったことが、やりきれないのだろう。
確かに最終決定は船長が下したものかもしれないが、みんなは最終的には納得していた。
船長のせいだとはみじんも思っていない。
船長は、開いている手で体の砂埃を掃うと、もう大丈夫だといって肩から手をどかした。
「生き残りを探そう。俺も問題なくとは言わないが動ける。二人で確認していった方が早いだろう」
「そうですね。わかりました」
僕と船長は、破壊されたオペレーションルームの中を見て回った。
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生きていたのは、船長以外には一人だけだった。
部屋にいた20人の乗組員のうち、17人が残念ながら息を引き取っていた。
「本当にありがとうございます」
そう話しかけてきたのは、生き残っていた男だ。星にいた生物について報告するため、オペレーションルームに駆け込んできた男で、名前はディルブというらしい。
調査員にしては若手で、20歳後半くらいだろうか。今は傷などが多く年が言っているように見えて、もしかしたら20歳前半かもしれない。
若手とは言ったが、まぁ、僕は今年で18歳なので若いなんて言えない。
「いえ、助かってよかったです。亡くなっている方が多いもので……」
ディルブさんは周囲を一瞥して、暗い表情をした。
「ここまでになっていると、そうですよね……。逆によく生き残ったものです」
ディルブさんがそういった後、タイミングを見計らっていたのか、船長が話しかけてきた。
「一旦外に出よう。まだ中に人はいると思うが、このくらい中で探すのは難しい。
それに、周囲の状況を把握しないと始まらねぇ」
確かに、助けを求めている人はいると思う。だけど、暗く足元のおぼつかない状態で探し回っても、ミイラ取りがミイラになるだけだ。
僕たちは、燃えているところや、がれきを避けながら脱出口へと向かった。
向かっている途中、宇宙船の壁が割れ、光の差し込む場所を見つけた。
地球にいた時以来の、ひさしぶりの自然光だ。
「外は結構明るいみたいですね」
「そうだな、これなら外に出ても問題なく活動できそうだ」
さっきからディルブさんが黙っているので、ディルブさんの顔を見ると、怪訝そうな表情をして何かを考えていた。
「どうかしたか?」
船長がディルブさんに問いただす。
「船長、おかしいなと思った点があって……」
「どうした?」
「それが――」
船長がディルブさんをいぶかしげに見た。
「それが?」
「――重力がおかしいんです」
「どういうことだ?」
「事前の測定では、この星の重力は月程度しかなかったんです。
ですが、今私たちは地球にいるかのように、普通に立って歩けています。
重力加圧装置も起動していないはずなのに」
ディルブさんはさらに続けた。
「そして、気温もおかしいんです。もっと暑いはずなんですよ」
「測定結果が間違っていたってことか?」
船長が首をかしげる。
「その可能性も否定はできませんが、測定のミスっていうより、違う星に来たかのような違和感があるんです」
その時、僕の耳に鳥の声が聞こえた。
宇宙船に空いた穴からだった。
「船長、ディルブさん。今の聞こえました?」
「ん?何のことだ?何も聞こえなかったが」
ディルブさんをみると、同じ答えが返ってきた。
「私も聞こえませんでしたけど、何か聞こえたんですか?」
どうやら、僕にしか聞こえていなかったらしい。
確かに聞こえたのだが。
「鳥の鳴き声が聞こえた気がしたんですが」
「鳥?この船に鳥はいないはずだがな」
「いえ、外から聞こえたんです」
僕は差し込んでくる光に向かって指を指した。
「この星に鳥はいないはずですけど。というより、陸上生物はいないはずなんですけど」
ディルブさんが首を傾げた直後、チュンチュンと甲高い鳴き声が今度は克明に聞こえた。
「船長!今の聞こえましたか!?」
「あぁ……」
船長はゆっくり頷く。
「本当ですね……。今は喜びに喜べない状況ですが、もし本当に鳥がいたら大発見ですよ」
「まぁ、中で考えても仕方ないだろう。
これは、外に出る必要性が増したな。救助を待っている人もいる。できるだけ急ごう」
僕たちはできるだけ早くと、歩く速度を上げた。