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1話 宇宙船1

 ヴーヴーと薄暗い宇宙船内に警告音が響いていた。

 普段は明るい白い金属の廊下も今では薄暗くてよく見えない。

 僕は、廊下に等間隔で設置されている赤いランプを頼りに、オペレーションルームへと急いだ。

 

 一体何が起こっているのか。走りながら考える。

 宇宙船ではあまりやることがなく、自分にあてがわれていた部屋にいた。ゆっくりとしているところに急に警告音が鳴り出し、呼び出されたのだ。

 オペレーションルームに向かっている最中に、突然明かりが消えた時は驚いた。

  

 とりあえず急ごう。

 僕は走る速度を上げた。


 オペレーションルームの前に着くと、扉の横にあるスクリーンに指を当てた。

 機械が僕の指紋を認証し、扉が壁に吸い込まれるように開いていく。

 急な明るい光に目をすぼめながらも、僕は飛び込むように部屋へと入った。


 「おせぇぞ!ソラタ!」


 「すみません、船長。それより、何があったんですか?」


 強面の船長に怒鳴られながらも、状況が理解できていないので、素早く質問をした。


 「燃料漏れだ。急いで復旧作業をしているが、対応が遅くなっちまって、結構なエネルギーがなくなっちまった」


 船長は、くそっ!と拳を振り上げて続けた。


 「原因は分からねぇが、燃料が勝手に漏れ出すわけがねぇし、この船だ。不備でも故障でもないだろう」


 「つまり、人為的なものだと?」

 

 この船は高度な技術で作られており、故障など絶対にありえない。

 つまり船長は人為的なものと考えているようだ。


 「あぁ……」


 船長は苦虫を嚙み潰したような表情でうなずいた。


 目の前の強面のおっさんは、この宇宙船の船長であるゴードンだ。

 いつもポジティブで人のいい男だが、そんな男がこんな悲壮感あふれる顔をしているのは初めて見る。それだけ、つらいのだろう。


 「……船内の人間の仕業で間違いないだろうな」

 

 先ほどまで必死に機械を操作していた乗組員たちが、一斉にこちらを見て息をのんだ。

 僕も唇をかんで、大きな窓から真っ黒な外を見る。

 船長は歯をきりきりと噛みしめ言った。


 「とりあえず局に指示を仰ぐ。何の成果もなく地球に戻るのは心苦しいが、燃料がなきゃ仕方ない」


 乗組員達はそれを聞いて、地球と連絡を取るための準備を始めた。


 「ソラタ、お前を呼んだのは」


 「わかってます。緊急時用の連絡回線を使うには僕の声が必要ですから」


 僕は、船長の言葉を遮っていった。


 この宇宙船は元々父の作ったものであり、色々な制限を解除するのに、僕の声での声紋認証が必要だった。


 「父のことを思い出させるようで悪いが、動かせるのはお前しかいない。頼む」


 「大丈夫ですよ。もう結構時間経ってますから。それに、こういう時のために、僕はこの船に乗ったので」


 「いや、これは政府の失錯だ。国がもっとうまくやれればよかったんだけどな。今回の任務は重要だから、本当に父の船を使わせてもらえて助かってる」


 「いえ……、もうこの宇宙船は国のものなので」

 

 僕は首を横に振った。


 「それより、早くやりましょう」


 「そうだな」


 船長は首を縦に振ると、乗組員を手伝いにいった。


 僕は遠くできらめく星を見ながら、宇宙船に乗ることになった理由を確認するように思い出した。


 3002年、メラノス星となずけられた惑星にて、地球外で初めて生命の反応を観測した。

 しかし、反応はとても微弱なのもで、もっと詳しい調査が必要となった。

 僕の父は、この宇宙船を作った製造者であり、所有者でもあった。さらに、優秀な宇宙調査員でもあったので、父にその調査の依頼がきたのだ。

 地球外の生物という未知に対して、嬉々として調査をしていた父であったが、3年間の調査の後、何者かによって殺害される。

 高度な技術で作られた宇宙船を国は欲しがり、所有権を主張した。そして、半強制的な形で国のものとなった。

 

 だが、ここで問題が起こる。

 いくつかの重要な機能が、父の指紋や声がなければ使用できなかったのだ。

 国は解析を進めたが、結局使うことはできなかった。

 あきらめかけたところで、僕の指紋と声で使うことができると判明。


 今回の任務は、地球外生命体との接触という、地球規模で行われる極めて重要な任務だ。

 そこで、宇宙飛行士でもあり、宇宙船の機能を解除できる僕に白羽の矢が立った。


 そして、今に至る。


 僕が外から視線を外し、宇宙船を操作するための機械を見たところで、ちょうど準備が終わったようで、船長が僕を見た。


 「さぁ、始めるぞ。ソラタ、頼む!」


 「はい」


 そういって機械の前に立った。


 「コード1001。オーダー、緊急時連絡用超光速回線」


 僕の声を聴いて、オペレーションルームにある機械すべてが一斉に、幾何学的な模様の光を放った。


 「声紋、認証しました。綿矢空大(わたやそらた)様を認識。これより、第1フェーズを始めます」


 オペレーションルームに女性の滑らかな声が響く。

 そして、機械が流動的に光始めた。


 乗組員たちはみんな口を開けていた。


 「エネルギー漏れを感知。地球への安全な帰還を考慮すると、この回線は一度しか使用できません。……第2フェーズに入ります」


 僕は船長と顔を見合わせた。


 「一度しか使用できないか……。もしものことを考えて、残しておきたかったが」


 「まぁ、仕方ないですね。今が一番のもしもの時なので。後のことは後で考えましょう」


 「仕方ないか……」


 この機能を使うのは初めてだったので知らなかったが、大量のエネルギーを必要とするらしい。

 考えてみると、それもそのはずだった。

 緊急時連絡用超光速回線、略して「ECOL」は、地球と宇宙船間で光速を超えた速度での連絡を可能にする。

 2992年、父がアインシュタインの説を否定するまでは、光の速度を超えるものはないと言われていたが、父は説を否定するだけでなく、利用することまで成し遂げた。


 しかし……、本当に父さんはすごいな。

 僕にも血が流れてるわけだし、少しでも才能を受け継いでいればいいけど。


 「第2フェーズを終了します」


 僕と船長は、顔を上げた。


 「最終フェーズを開始します。このフェーズが終わり次第、地球と連絡が取れます。最終フェーズの終了は、約30秒後です」


 あと30秒後に地球と繋がるのか。

 話すことは、エネルギー漏れによる地球への帰還要請だ。

 船長が話すことになると思うから大丈夫だと思うけど、何を聞かれてもすぐ答えられるようにだけ、心構えはしておこう。


 ちらっと船長を見ると、真剣な表情で虚空を見つめていた。


 「10秒後に回線がつながります。3……2……1……」


 スピーカーからザーザーと音が出始めたのを聞いて、船長は大きな声で言った。


 「こちら宇宙船キュリオン号!地球時間3010(さんまるいちまる)()(よん)、18時57分に、燃料の漏出を確認。このまま任務の続行は不可能です!地球への帰還を申請します!」


 一際大きくノイズが走ると、スピーカーがくぐもった男の声を出した。


 「……許可しない。任務を続けろ」


 「連絡回線が中断されました」


 あまりのあっけなさに、その場にいたみんなが、きょとんとする。


 は?切られた?

 任務を続けろだって?


 僕は状況のおかしさに、考えが追い付かない。


 このまま調査を続けたら、地球に帰れなくなるんだぞ。

 何も持ち帰れないのに、何で帰還が許可されないんだ。

 局は一体何を考えてる?


 形式上、局に帰還の申請をして、許可を得るためだけの連絡だった。

 そのつもりだったのだ。

 任務の続行は誰も考えてすらいなかった。


 「……局は一体何を考えてる?」


 船長も同じことを考えていたようで、固まったまま口だけを動かした。


 乗組員たちはやっと自分たちの状況を理解し始め、口々に騒ぎ始めた。


 「静まれ!!局の意向は分からないが、地球へ帰還する!責任は俺が持つ!帰還の準備をしろ!!」


 どうやら、地球への帰還を独断で決定したらしい。

 英断だ。ここで命を捨てるなんてしたくない。




 

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