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第3話:私 in 王都!

 気がつくと、遠くの方から賑やかな喧騒が聞こえてきた。先ほどまでは無かった心地よい風が頬を撫で、春の香りが鼻をくすぐる。


「ん……」


 恐る恐る目を開けると、私は草原に立っていた。すぐそこには何かを囲むように建てられた高く伸びる塀と、そこに開いた一つの門があり、その奥には街と思しき景色が見えた。


 あそこが王都、なのかな……?


 その塀が囲む街のあまりの大きさに圧倒されつつ近づいていくと、門のところに槍を持った兵士と思しき人が立っているのがわかった。

 その人は私に気がつくと一瞬ためらった様子を見せつつも声を掛けてきた。


「君、街に入るのかい?」

「ええ、是非とも入らせて頂きましょう」

「お、おう。じゃあ身分を証明できるものとかってあるか?」


 身分証がいるんかい! ユナちゃーんまた問題発生ですよー⁉︎

 ……ま、まあ無い人も居ると思うし、ね?

 とりあえず表情は崩さずに答える。


「おっと、小さな村から出てきたもので、持っておりませんね。その場合は入れてもらえないのですかな?」

「いや、方法はいくつかあるんだが……。嬢ちゃん、どこかのギルドに所属する予定はあるかい?」


 ギルド! ゲームとかラノベとかそういうのによくあるやつじゃあないですか! 


「ほほう? して、そのギルドとやらはどのような物なのですかな?」

「ギルドってのは国営の組織でな。そこに加入するならここでは面倒な手続きを省略できるんだ」


 おお、面倒な手続きを踏まなくていいのはいいね!


「ほほぉ、詳しく聞かせてくださいな?」

「ああ、ギルドは全部で6種類。サービス業を含めた商売組織の商業ギルド、医術・回復魔法を専門とした医療ギルド、建築や土木工事の大工業ギルド、

 それから小物を作る生産ギルドと食事を提供する料理ギルド、あと魔物討伐や護衛・その他のなんでも屋みたいな役割の冒険者ギルドがある」


 多っ! 覚えるの面倒っ! ま、まあ定番の冒険者ギルドでいいね。うん、たぶん、きっと。


「では冒険者ギルドとやらに登録しようと思います。そうなると私は何をすれば?」

「ああ、この紙を所属したいギルドに提出してくれればいい」



 おお、これは羊皮紙というやつじゃないですか!? おー、初めての感触。なんか感動。あとこの一杯書かれてる模様ってやっぱり魔法に関するなにかなのかな!? 胸が躍るよ!


「それを提出してギルドに登録しないと宿屋に泊まったりはできないはずだから気をつけてな」

「わかりました!」


 それから冒険者ギルドの場所を聞いて門を後にした。


 ——いやぁ凄い‼ まさに圧巻だね。


 目の前に広がるのはいくつも建ち並ぶ赤い三角屋根の建造物と、その間を通る石畳の道。中世ヨーロッパを思わせる街並みだ。しかし汚かったり臭かったりということは一切なくとても綺麗に整備されていて、その大通りには露店がいくつも並び活気が溢れている。


 あー興奮が止まらねえ……。なんだこの世界、現代のロマンにあふれてるじゃねえか。魔法にも期待が高まりますねえ。……いや、たしかにVR世界で見慣れてるけど、リアルとゲームじゃ全く違うもんなんだ。


 そうこうしてるうちに冒険者ギルドにもう着いてたよ。……いやあ、これまた造形にロマンが溢れてるね……。街中に大きく構える煉瓦造りの横長のその姿! 他と変わらない三角屋根もまた風景にマッチしていい感じ! あースクショしたい。VR世界なら間違いなくスクショ撮るのに‼


 さあそして今、かなかな選手ワクワク感を押しとどめて冒険者ギルドに足を……踏み入れたぁっ! ってひゃあっ⁉︎


 入ったら一瞬だけだけど凄い視線集まったよ。ちょっと、強面の人多くない⁉︎


 中を軽く見渡すと、右奥にカウンター(多分受付だろう)があり、左の方には机と椅子が並んでいるのが見えた。なんていうかル〇ーダの酒場っぽい。


 さっきの視線はその酒場に座ってた人達だね……。そしてよくよく見ると少ないけれど女性の人も数人いるっぽい。あっ、ダメ、みんなちょっと怖い顔してるよ! 何余所モンが来てんだコラァくらい言いそうな雰囲気漂ってるよちょっと!


 左の方からたまに飛んでくる視線に内心ビクビクしながら、それでも顔には小さく笑みを浮かべたまま右奥の受付らしきところへ向かい、カウンターの前に座っている女性に話しかける。


「ギルドへの登録ってここでできます? あとこの紙を渡せって門にいた兵士さんに言われまして」


 そう言いつつ紙を渡すと、受付の人はにこりと笑って、その紙をそのままこちらに見せてきた。


「かしこまりました。登録ですね。でしたらこの紙に必要事項を記入してください。魔力ペンで大丈夫ですよ」


 ……ちょっと待ったぁっ! えっ、なに? 今の羊皮紙って自分の名前とか書いて提出するみたいな奴だったの⁉︎ 待って、じゃああのヘンテコな模様って文字だったの!? まさか私、20を過ぎて文字すら読めないお馬鹿さんですか!?

 くっ、どうすればええって言うんじゃ………………はっ! 私って今何歳? 元々背が低い私がさらに縮んでる今、何も知らない子供で通せるんじゃないか!? 大丈夫、私ならできる!


「あのっ、わたし、文字が読めなくて……代筆を、お願いできませんか?」


 精一杯の上目遣い+おどおどとした愛らしさを醸し出してやったぜっ! どやどや?


「ええ、大丈夫ですよ。でしたら部屋にお通ししますね」


 微笑ましいものを見る温かい目! この勝負、勝ったな!(確信)

 そしてその受付の女の人の案内に従って個室へと行く。広めのテーブルの両側に椅子が2つずつ。その椅子の一つに、可愛いらしい女の子が座っていた。


「では、そちらに座ってください。臨時ギルド職員のマリネが代筆させていただきます。マリネちゃん、よろしくね」

「はい、わかりました」


 赤い短髪に整った容姿。髪と同じ色のクリっとしててまーるい瞳。とても可愛い幼女マリネちゃん、ね。見た目はユナちゃんより少し幼い気がするし、12か13歳くらいって感じかな?

 そんな風に考えているとマリネちゃんが椅子から立ち上がって口を開いた。


「ご紹介にあずかりました。臨時ギルド職員のマリネです。今年12歳になります。以後お見知りおき下さい。……それでは代筆させていただきますので、そちらの椅子にどうぞ。私の質問に正しく答えてくださいね」


 それから暫くかけて書類の必要事項をひとつひとつ埋めていった。戦闘経験の有無だとか武器は使ったことあるかとか魔法はどの程度使えるのかとか……いやぁ、どれも私には鬼畜なことこの上ない質問の数々。最後の質問を終えるときには「来るギルドを間違えてないか?」という疑問を抱かずにはいられなかったよ。


 ちなみに私の年齢、マリネちゃんに「何歳だと思う?」って聞いたら、「年上、ですよね? ええと、13歳くらいでしょうか?」って言われたので、今年で14歳ということになりました。なんと、ユナちゃんとはタメだった!?

 ……いや仕方ないじゃん、始めに死ぬ前の年齢(20歳)を名乗ったら即時却下されたんだから。まあ年齢なんてそんなに関係ないし大丈夫よね!


 とまあ、そんなこんなで質問を終えるとマリネちゃんは「少々お待ちください」といって出ていった。


 ……マリネちゃん、ホント小さいのにかなりしっかりしてるね。まだ小さいのに、小さ…………小さい? あれ、私と胸の大きさはあまり変わらないんじゃ、いやむしろマリネちゃんの方が大き……?

 一抹の不安が(よぎ)った瞬間、入り口の扉が開いてマリネちゃんが戻ってきた。


「お待たせいたしました。……どうかしましたか?」


 さあどうだ、とマリネちゃんの頭のてっぺんから足の先まで軽く見て、それから視線を下げて自分のモノを確認。

 これは……大丈夫。ギリ勝ってるよたぶん!

 ってことでとりあえず年上のお姉さん的な余裕の笑みを浮かべて言葉を返す。


「いえ、なんでもありませんよ」

「ならいいんですが……。では基本情報を登録させていただきましたので、次にギルドカードを作成します。こちらの板に魔力を流してください」


 そう言いながらマリネちゃんが差し出したのは、トランプくらいの大きさの角が丸まった長方形の青い金属板。

 やばい、手に持っただけですごいワクワクするんだけど!? それで、これに魔力をググっと押しこめばいいのね? じゃあ早速、ググーっと……。


 すると板が一瞬ピカッと光り、見る見るうちにその板に文字が刻まれていく。……なんか魔力で表面が溶けてるみたい。なにこの興奮で胸が鳴りやまない異世界技術! ああ、私はたったいま異世界を感じているよっ! ユナちゃんありがとう!


 しばらく魔力を流し続けると、やがて変化は止まった。


「ちゃんとギルドカードが作成できましたね。それではこちらの内容を登録しますので、少々お待ちください」


 そう言うとマリネちゃんは文字の刻まれたカードを私から受け取って足早に扉から出ていった。

 うん、とりあえずこれでギルドでやることは終わりなのかな? 全部終わったら魔法を習えるところがどこにあるかは聞いてみようか、それとオススメの宿屋もね。


 あと……お金の稼ぎ方も調べなきゃだし、その前にこの世界のお金の単位すら知らないし、それどころかこの国の名前すら知らないし……うわー、調べること山積みだ。あと他にもまだ…………。


 そんな風に暫く考えていると、扉が開いてマリネちゃんが戻ってきた…………あの、なんか偉そうなおじさんがマリネちゃんの後ろに付いてるんだけど、……大丈夫なんだよね? 別に私やましいことなんて一つもないよ? ちょっとアマネちゃんの胸を揉みたいとか思ったくらいだよ? あと可愛くて自分のモノにできないかなーとかちょっと考えただけだよ? ……あれ、本当に大丈夫か私? 


 不安を感じつつびくびくしていると、始めに口を開いたのはマリネちゃんだった。


「……えっと、ではこちらがギルドカードになります。身分証明にもなりますので、出歩くときは持ち歩くようお願いします。それと、ギルドカードを失くした場合、再発行には500トーラが掛かることもご承知おき下さい」


 そう言いながら先ほどの青色の板を差し出してきたので「わかりました」と答えて受け取る。

 トーラはたぶんお金の単位かなーと思うけど、……流石にこの緊張感漂う空気の中で聞く勇気はないかなー。 

 それで……まだ解放ってわけじゃないのかい? ああ、説明が残ってるのか。そういうことだよね、まだ聞いてないもの。マリネちゃんの後ろに立ってる白髭のおじさんは関係な……。


「それでその、こちらが冒険者ギルドのギルド長、ガラフス様です……」

「ああ、ギルド長を務めているガラフスだ。それで、君のギルドカードの内容について、いくつか聞きたいことがあるんだ」


 ふっ、さすがギルドの長。いつか闇の力を()べ、世界の中立者となる私の力に気が付きましたか。ふふ、ふふふふふふ…………………………本当に、悪い夢を見ているような気がしてならないね。はっ、まさか……⁉︎


 そう思ってこっそり机の下で太ももをつねってみたら、なんと———————!!


 ——————めっちゃ、痛かった。

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