眠れぬ羊
「ひとーつ、ふたーつ、みっつー………」
「なに言ってんの、おまえ」
ベッドに寝転び天井見上げて数えてたら
呆れたように言われました。
「知らないの? 眠れない夜は羊を数えるのよ」
「あほ。羊はひとつじゃなくて一匹だろ」
「あ、そっか……」
あはは、と笑う彼が憎い。
間違えたのは自分だけど憎たらしい。
だってあたし、バカにされてるのに嫌いになれない。
笑った顔も可愛いなんて思っちゃう。
もーー!
あんたのせいなのよ、わかってよ。
ほんっとにこの男は……。
「おい。なに怒ってんだよ」
「さぁね」
「ご機嫌ななめですか」
「ご機嫌ななめ上ですよ」
「はぁ?」
あんたと一緒にいるんだから気分は上昇。
でもね。
いつもなら飛行機みたいに、
ぐいーーんっと上がってくのに今日はのろのろ右肩上がりです。
「眠れないのか」
「うん」
素直に答えたらまた笑った。
ああ悔しい。
なんであたし、こんなにあんたのこと好きなんだろう。
「一緒に寝れなくてごめんな」
ううん、いいの。
謝らないで。
お仕事忙しいの知ってる。
あたしは幼稚園教師だから春休みがあるけど、
サラリーマンは三月っていったら一番忙しいときだもんね。
わかるよ。
毎日夜中まで残業して朝早く出かけてく。
デートも出来ないしプライベートな時間まで仕事仕事仕事………。
先にベッド入ってて、と言われて。
でも、小さな灯りの下でパソコンに向かってる
彼を見て眠れるわけがない。
その背中に頑張って、と言うことしか、あたしには出来ない。
ひとつ、ふたつ、みっつ………
ああ、違った。一匹だっけ。
って、もうそんなのどうでもいい。
羊でも蛙でもイワシでも、なんだっていいわ。
淋しいから眠りたい。
早く朝が来てほしい。
暑い太陽を感じたい…………と、思ったら、
「やっぱオレも寝よっと」
「へ?」
隣に温もりが現れて、
あっという間にその腕の中に落ちてった。
「し、仕事は!?」
「ん。ただいま充電中」
「電源切れちゃったの?」
「うん。オレの、な」
バッテリーも壊れて動かない。
蓄えゼロになってどうもようもない。
だから、
「……おまえ補充させて」
抱きしめて瞳を閉じる彼。
ぎゅぅーーんと上がってくる気持ち。
あなたの彼女は世界で一番やきもち妬きで、
先生やってるけど子どもみたいで、
あなたのこと大好きで大好きで……
「だいすき……」
「オレも」
「すっごい好き」
「オレも」
眠れる? 眠れない
言い合って笑った。
蕩けるように酔いしれて、羊は今夜も眠れない。