3,仲介は天使に任せましょう
「お前たちは何を騒いでいるんだ」
威厳たっぷりにそう言ったのは、リオンとさして変わらない(というか双子だ)年齢の少年……相澤 誠一だった。
満月を思わせる美しい瞳が獣の如くギラリと煌めく。
騒がしかった大人二人はサァッ…と、一瞬で顔色を真っ青に染め上げて凍り付いた。
「誠くん…すみません。
ボクも一緒になってはしゃいでしまって…」
「リオのせいじゃないよ。悪いのはこいつらだろう? 大丈夫、分かってるから」
そう言ってニコリと笑う誠一。
心底いい笑みである。
…正直、贔屓ではあるのだが、誠一の言葉は正論であり、何より二人の中に、リオに不利になることをする、なんていう選択肢はない。
故に二人は何も言い返さず、言い返せなくもあった。
相変わらず青い顔をしたまま、リオを仰ぎ見る二人は、さながら判決を待つ重罪人のようである。
「榻虎くん、」
「っ、リオ……」
「ボクが聞いてしまったせいで……すみません」
「ばっ、ちげぇよ…! アレは俺が…早く答えてれば…」
「…榻虎くん……」
「…だから、リオのせいじゃねぇ。
俺の方が…ごめん」
「……いえ、ありがとうございます」
こつん、と額同士を合わせる二人。
それを当然ながら見ていた誠一の空気が一瞬凍った気がした。
…………気のせいだ、とたっぷり時間をとって榻虎は何も言わなかった。
【最凶の暗殺者】の異名を持つ彼だって命は惜しい。
どう考えても子供とは思えない殺気を持つ誠一に逆らいたいだなんて思わない、というのが正直なところである。
「汐井くん」
「……リー…ちゃん………ご、めん…ごめんねっ…!!」
こちらは泣きそうな顔、というよりモロ泣きしてしまっている。
というか鼻水が垂れている。
ああ、折角格好いいのにな、と残念に思いつつ、リオは柔らかく微笑む。
「……すみません、巻き込んでしまって…」
「ち、そ、そそそそんな!!! 違うよ!!! 元はといえば俺が! 余計なこといったのが原因だし…」
「それでもボクも榻虎くんにしつこかったです。…おあいこ、です」
「リーちゃんまじ天使っっ……!!!」
こてり、と首を傾けて笑うリオに、完全ノックアウトの優木。
鮮やかな手腕で大人の喧騒を収める可愛い可愛い弟に、ふぅ…と小さくため息をついて、誠一も笑んだ。
「…リオは本当に優しいな」
「…そんなことないです」
「ううん、そんなことあるよ。
……ああ、本当にリオは可愛い。優しいな」
すり、とリオに擦り寄る誠一は、何も知らない者からすれば癒し光景である。
愛らしい____まぁ、一人は怖いけど____双子の姿に、自然と大人陣の頬も緩む。
……が、数秒後。
「今回はリオに免じて許すけど……次は、ないからね」
二人の表情が凍り付く。
ああ誰だこんな恐ろしい子供を癒しだなんて言ったのは。
さすが誠一、魔王である。
「返事は?」
「「ハイィィィイ!!!」」
にこりと笑う誠一に、二人は返した。
変なところで息ぴったりである。