2,日常の喧騒
「結局あの男、死んだみたいだね」
「…あの男? ………それって、あの路地裏で殺された人ですか?」
綺麗な緑の瞳をうっそりと細めて、男…汐井優木は話しかけた。
その相手…相澤リオンはまだ子供だ。
幼い顔立ちを不思議そうな表情に変えて、リオンはこてりと頭をかしげた。
優木は、そんなリオンを見て更にその切れ長の目を細め、そッスよ、と笑った。
「刺したの、浮気相手の女なんだよ。
もう気の毒とも言えないッスよね~」
「テメェだって他人事じゃねぇだろ」
アホか、と言ってため息をつく男は、人間では有り得ない動きで木から窓へと跳び移って家の中へ侵入した。
男の名を、榻虎と言う。
「今みてぇな生活続けてっと、マジでいつか刺されるぜ、汐井」
「うっわー! 虎サン、そんなことゆーんスねー。 ……リーちゃんの前で」
ジト目の優木がぼそっと呟く。
端整な顔立ちを凶悪犯のように歪めた榻虎があ”ぁ”…?と威嚇する。
____前に。
「……榻虎くん、榻虎くん」
くい、と榻虎の服の袖を引っ張る白い手の存在があった。
「…んだよ、リオ」
「……榻虎くん、それ、本当ですか…?」
「……うっ」
言葉につかえ、あーだのうーだの言いつつも肯定はしない。というか、出来よう筈もない。
榻虎は存外、この少年に弱いのだ。
「榻虎くん、本当ですか…?」
「あ~……っ、おいこら汐井ィ!!」
「何でここで俺!? 理不尽!!」
「うっせーよ! 黙れ汐井ィ!!!」
「____何なんだ、騒々しい」
騒がしくなってきた二人の喧騒は、その声でピタリと止まった。
「……お前たち、リオの前で何をしている…?」
…………あ、ヤバイ。
騒がしい二人の心の声が、綺麗に重なった。