何も言わずにギュッと抱き締めて
私には、無口で無愛想なのに顔が整ってるのでモテている彼がいます。
今日も彼は、女の子に呼び出されて、面倒臭そうに教室を出ていきます。
私は、そんな彼の背中を見送り、戻って来るのを待つのです。
待つ理由なんて一つです。
一緒に帰るためですよ。
って言うか、彼が決めたことだから、私は待つしかないんです。
私たちが付き合うようになったのは、ほんの数日前の事。
彼に呼び出されて行けば、少し照れ臭そうな顔を見せながら真顔で告白されて、私も前から気になってたので、その場でOKして、付き合うことになりました。
付き合いだしたのに彼の態度は、いっこうに変わることなく本当に付き合ってるのって自分で、半信半疑だったりするんです。
それなりに不安に陥ってる自分がいるのに気付いて、どうしたらいいのかわからないぐらいで……。
そんな時に。
「彼と別れてよ!」
「あんたなんか、彼とは不釣り合いよ!私との方が、お似合いだと思うけど?」
「ブスが、何で彼と付き合えるの?」
「私の方が可愛いのに何で?」
って、彼に告白した女の子達が、罵声をあげながら目を吊り上げていたり、涙目で訴えてきたりするのです(多分なんですが、告白を断る毎に私の名前を言ってるんでしょう。でなければこんな事にならないと思うのですが……)。
その度に。
「そうですね。自分でもわかってるんですよ。彼とは不釣り合いなの。何時だって、"何で私なのだろう?"って、自分でも思ってるぐらいなんですから」
そう答えれば、彼女達は、無言で去っていくのです。
私は、自分の容姿に自信なんか、これっぽちも無いんです。
顔は、童顔ですし体型も寸胴と言った方がいいんで。
それに頭が良いわけでもありません。これと言って取り柄もないのに何で彼は、私に告白してきたのか、謎だったりするんです。
私は、彼の事好きですけどね(恋愛感情として)。
そんなある時。
何時ものように彼は呼び出されていました。
そして、告白後に私のところに来て罵声を浴びせに来て、何時もの言葉を返せば彼女は去っていきました。
そこまでは、何時もと変わらないこと。
少し違ってたのは、窓の外に視線を向けた時でした。
そこには、彼と知らない女の子が、腕を組んで楽しそうに笑ってる姿があったのです。
それを見た瞬間、私はカモフラージュにされてたんだと思いました。
彼女が居るから、私を表沙汰にして守ろうとしてるんだと、そう確信したとたん胸にナイフが突き刺さったみたいに痛くなりました。
こんな痛みは、初めての事でどうしたらいいか何てわからなくて、彼から視線を逸らし、自分の鞄を持って教室を出ようとしたら、入り口で彼と彼女に出くわしてしまった。
彼女は、相変わらず彼と腕を組んだままにっこりと笑顔を向けてきます(その笑顔が、スゴく可愛くて、女の私でも見惚れてしまうほどです)。
私は、どうしたらいいのかわからなくて、戸惑いそれでいて一緒に居たくなくて、顔を下に向けて彼の横を通り抜けようとしたら腕を捕まえられました。
顔を上げれば、彼が怪訝そうな顔をして。
「勝手に帰ろうとするな」
って、とても低い声で言うのです。少しビクッて体が振るえました(彼にも伝わったでしょう)。
そんな事言われても、彼女が居るんだから私が居たら、気まずいだけだろうに……。
そうは思っていても、口に出せない自分がいるんです(私は、弱いから)。
「ゴメン。今日は用事があるから……」
気付けば、そう言葉にして彼から離れようとしたんです(少しだけ鼻声になってたと思います)。
だって、いつの間にか涙が溢れてきたんですもの。そんな顔見せたくないでしょ?好きな人には、笑顔を覚えてて欲しいじゃないですか。
「俺だって、お前に用があるんだ」
だけど彼は、私の言葉を意図も簡単に無視してくれる。
「な、に……?」
私は、彼女が居るから、別れを告げられるんだと思った。
「お前さぁ、俺に言うことあるだろ?」
と聞いてきた。
私は、その言葉に首を傾げるしかなかった。
彼が、何が言いたいのか、さっぱりわからない。
私が彼を見上げれば、彼は不服そうな顔をしていて何でそんな顔をしてるのか、益々わからなくなって、困惑していれば。
「お前さぁ、俺に告白してきた子に罵声を浴びせられてるんだって?」
彼が口にした言葉に驚いた。
だって、一度も彼に言ったことなかったから。
何で知ってるの?
私が口にする前に彼が。
「その顔は、覚えがあるみたいだな。こいつが言いに来なければ、俺は知らないままだったってことか……」
真顔でそう言う。
そして、愛しそうに女の子を見る。
ズキン!
胸に痛みが広がる。
あぁ、彼女には、叶わないんだろうなぁ。
あんな顔をされては、自分はただの道化師だと言われてるみたいだよ。
「それが、どうかしたの?彼女達は、本当の事を私に告げてるだけだし、否定なんてできないよ」
私は、自分が思っていた以上に冷たい声音でそう告げた。
だって、そうでしょ。
かわいい彼女がいて、告白してくる女の子達もいる。
なのに何で私なんだろうって、ずっと思ってたから……。
今日で、はっきりとわかったんだ。
だから、これぐらいなんでも……。
「何で、俺に言わないんだよ」
そう言う彼は、心配そうな顔をしてる。
私の事、なんとも思ってないのにそんな顔して欲しくない。
「言う必要なんて無いでしょ?だって、彼女達は、本当の事を言っていくだけだし、私も自分でそう思ってるから、気にしてたら、きりがない」
私は、淡々と言葉にする。
「それに……」
私は、彼に未だ引っ付いてる彼女に目線をやり、彼を見る。
「かわいい彼女がいて、私が隠れ蓑になってるんでしょ?
その方が、あなたにとっても都合がよかったんじゃないの?」
自分で言って、虚しくなる。
自分で、傷口を広げてるようなものだ。
「じゃあ…」
私は、その場から離れよう彼に背を向けた。
…が、腕を引っ張られて後ろから抱き締められて、身動きがとれなくなった。
抱き締めてきたのは、彼で、何がなんだかわからなくなって。
「ちょ、離して!」
彼の腕の中で、暴れてはみたもののびくともしない。
「お前、自分を卑下に見すぎだから……。それに、そうやって怒るってことは、嫉妬してるのか? 俺からしたら、嬉しい限りだ」
彼は、嬉しそうな声で言うから、首を後ろに回して睨み付けた。
「そんな顔しても、怖くない。一層愛しいと思う。それとも俺を煽ってる?」
って、ちょっとこの期に及んで何言って……。大体、横に居る彼女とは意思疏通できてるんでしょ?だったら、私が居たら邪魔でしかないでしょ?
私が思ってたことが顔に出ていたのか、彼が。
「こいつは、ただの幼馴染み。まぁ、俺からしたら妹みたいなものだし。何とも思ってない奴だから」
そう説明してきたけど、信じれるわけ無いよ。
こんなかわいい娘が傍に居たら、私なんか霞んで見えてるに違いない。
「そんなの、信じられるわけ無いじゃん。いい加減に離してよ!」
私は、もう一度ジタバタと暴れてみる。
「嘘じゃない。どうしたら、信じてくれる」
彼の狼狽えた声が、耳に届く。
「……私が、不安そうにしてたら、そっと抱き締めてそれだけでいいから……」
私は、呟く様に言葉にした。
「…うん。好きだよ」
彼が、私の耳元にそっと囁く。どんな顔をして言ったのか気になるところだけど…、その一言で、安心して心が満たされていく。
彼も、不安だったのかな?
私が相談しないことで、不安にさせていたのかも……。
これは、私の憶測でしかないけどね。
彼に抱き締められてるだけで、こんなにも安心できる。この場所は自分だけのものだと言われてるみたいで……。
だから、これからもそっと抱き締めてね。
私からのお願い。