初恋の実り
リハビリ作です。ありきたりなストーリーです。
ーー初恋、"だった"
「無理」
その一言は、私の心に棘のように突き刺さった。
ーーあれから半年
「新入生代表、水無月 薙」
はい、と几帳面そうな声と共に立ち上がった彼を思わず凝視してしまう。
「春のあたたかな日差しのなかーー」
彼の代表挨拶が脳に届くことなく耳から耳へと抜けていく。なんで…、という言葉は、声にならなかった。
気づいたときにはもう教室の席に座っていた。あれ?いつの間に?
「とりあえず、自己紹介から始めるか。一番から、と思ったが裏をかいて最後の番号から。というわけで宜しく。」
と担任?が自己紹介を促す。それと同時にクラス中の視線が私に向けられる。え?と思い後ろを振り向くとロッカーがあった。窓側に目を向けると、窓があった。いや、当たり前だけどね。窓以外がないといった方がいいだろうか。
……まさかだけど私から?
「米澤?どうした?五十音順で並んでるからお前からだぞ。」
や、やばい。え?何を言えばいいの!?と、とりあえず名前を言えばいいか。
「米澤花菜です、宜しくお願いします。」
パチパチパチと乾いた拍手が響く。初日からやらかしたかもしれない。せっかく地元から離れたのに……
はぁ、と溜め息をつきながら窓の外に目を向ける。グラウンドに人はおらず、その奥には桜が咲いていた。花びらは仄かにピンク色に色づきまるで初恋を知った乙女のよう。なんて柄にもなく思ってしまう。
「はい次、宜しく。」
「皆さん初めまして。水無月 薙と言います、よろしく。」
きゃーー!だなんて女子達が騒いでいる。対して男子は溜め息をついているようだ。女子は黄色く、男子はブルー。桜はピンクだけど、原色的には赤に近いんだっけ?まぁ、どうでもいいけど、これで信号機の色が揃ったな。
なんて現実逃避してるけど。
(私ってついてない)
初恋の人と離れたくて県外の高校に来たのに、何故。何故なの。
ーー忘れもしない中学三年の文化祭のあと。浮かれた私は学校一のイケメンに告白した。そのときの私を殴ってやりたい。クラスのカーストも高く、自分に自信を持っていた当時の私。男子から告白されたことも何度もあった。だけど、理想が高かった。
かっこよくて、頭がよくて、運動神経もある。なんでもそつなくこなして、性格もいい人。なんて、普通ならいないはずだった。だけどこの学校にはいたのだ。居てしまった。
その人こそ水無月薙だった。私の理想通りの人。だから私は告白した。だけど結果は惨敗。
「無理」の一言でバッサリ切られた。なんで?なんて聞いた私は本当に馬鹿だった。
「君とは話が合わないだろうから」
正論だった。いつも彼は教師と話していたのを憶えている。政治、経済、書籍、趣味、その話題のどれもが"大人"だった。
対して私はファッションや雑誌の話題などという身のない話題しかなかった。
"私と彼は釣り合わない"
私は彼に馬鹿にされたと感じた、愚かな私その場で逆ギレ。暴言を吐いた後、メールで友人に八つ当たりをしたのだ。
結果、私は孤立した。そりゃそうだろう、学校一のイケメンを馬鹿にしたのだ。そんな高飛車女嫌われるに決まっている。もう、散々だった。こんな学校嫌だった。そして、絶望した。高校に上がっても変わらない。近くにある高校には殆どの生徒が進学を考えている。県内に居ても、鉢合わせすることがある。耐えられなかった。両親を説得し、猛勉強して県外の高校へと進学。一人暮らしも始めて、新しい生活が始まると思っていた。
だけど、まさか彼が一緒の高校なんて思わなかった。彼はずっと、県内にあるトップクラスの高校に進学すると思っていたのに。
後悔しても遅いのは分かっていた。けれどもう、諦めるしかないのだろう。また、中学と同じことにーー
「それじゃ、HR長は入試トップの水無月に頼む。副HR長は二番の米澤でいいか?」
えっ?と思うが、時すでに遅し。それでいいんじゃね?めんどーだしねー。等という声が聞こえて、満場一致の可決。なんてことだ……どうして……
「二人とも、委員会もぱっぱと決めたいから前出てくれ」
担任からの死刑宣告が告げられる。動揺を気取られないように堂々と歩いていく。教壇の上にたつと女子生徒からの嫉妬の目線が半端ではなかった。
(ならお前達がやれよ!!)
等という心の声は誰も聞き取ってはくれない。
「じゃ、適当に頼む」
名前もわからない担任が憎らしい。水無月とどうやって話せばいいのか。いや、普通に話せばいいんだ、そう普通普通。
「水無月くん。どうしようか。」
若干声は震えたが充分普通だ、頼む普通に接してくれ。
「そうだね、挙手制にしようか。かぶったらじゃんけんで決めたらいいと思うけど。」
それでよくね?おおー!さすがだね!とか聞こえてくる。調子がいいことで、私が意見してたら決まらなかっただろうな。
「米澤さん、黒板に書くのと票をとるのどちらがいい?」
それはもちろん
「黒板で」
それからというもの、私の悪評は流れなかった。いや、中学の頃の悪評は流れることはなかったというほうが正しい。
今の悪評は水無月と一緒に活動することが多いことからくる、嫉妬による出鱈目な噂だった。
曰く、裏口入学しただの、男遊びが激しいだの、そういった根も葉もない噂だった。
そんな私を水無月は庇ってくれたらしい。聞いた話によると、彼は悪評を流した女子達に向かって
「物的証拠は?」
と言ったらしい。何故、私を庇うのか意味がわからないが表面上では、私への噂は鎮静化した。ついでに嫌がらせもなくなった。もちろん、陰口は叩かれるが。
そして、今年は文化祭だった。これが一番の問題である。クラスには、文化祭実行委員なんて役職はない。つまりHR長と副HR長が実行委員として動かなければならなかった。そのため、二人で動くことがとても多かった。
私としては出来るだけ関わりたくないのに、水無月とどうやっても関わってしまう。一人で仕事をしようとすると、どこからともなく現れて
「手伝うよ」
なんて言ってくる。私としては気まずいのに、彼はそんな素振りを見せないから余計に私が気まずくなる。
そんな忙しいときに事件は起こった。
文化祭で出店する部活から書類を受け取り何時も活動している教室に帰ろうとする最中、上から水塊が私めがけて降ってきた。
びしょ濡れになり着替えを取りに行こうと教室に戻るが、予備の体育着がない。そういえば体育館の更衣室に置いていたなと思い、更衣室に向かうがここにもない。あれ?と思い外に出ようとするがドアが開かない。もしかして、閉じ込められた?最悪の状況だった。携帯は手元にない、そもそも頼れる人がいない。
「くしゅっ!」
寒い、そういえば今年は冷夏だってニュースで言ってたな、地球温暖化が進んでいるのだから暖かくなれよとか、言ってる場合ではない。寒い寒い寒い。このままじゃ
「死ぬ…」
まさか、そんなことはない。たかだか風邪を引くくらいだろう。だけど、このまま明日の朝まで見つからなかったら?この状態で夜を越えられるのか?
答えはnoだ。
「死にたくない…」
じゃあどうするか、外に向かって叫ぶか?外に届くのか?大きな音を鳴らすか?わからない。うまく考えられない。
「…てよ」
誰か、誰か
「助けて…」
誰でもいいから
「助けてよ…」
お願い、たすけて
「みなづきくん。」
こんなときにまで私は、忘れられない思いを引き摺るのか。助けてくれるわけがないのに
「待ってて、米澤さん」
まさか、ついに幻聴が聞こえ始めたか。最後まで私の脳内はお花畑のようだ。
がちゃり。
「大丈夫!?」
体に何かがかけられる。目を、開く。
「ゆめ?」
「夢じゃないよ米澤さん。」
私の記憶は、そこで途切れた。
結局私は、風邪を引いた。私が休んでいる間、仕事はすべて彼がやっててくれた。申し訳ない。
助けてくれて、さらに代わりに仕事をしてくれた水無月くんにお礼として仕事を私に任せてくれと言ったが断られた。逆に、病み上がりなんだから無理しないで、なんて笑顔で言われて思わずときめいてしまった私は悪くないはず。
この事件の後は何事もなく文化祭を乗りきった。私を陥れた犯人は見つかってない。そもそも居なかったかもしれない。
そんな私は、学校の外れで文化祭の余韻を一人で楽しんでいた。まだ、友達が出来ていないのだ。しかし、なんだかんだクラスメイトとの仲が悪くても文化祭というノリが楽しかった。ちなみに私のクラスはファッションショーをやった。無駄に美男美女が多く、デザイナーを目指している子がいて、さらに裁縫上手な女子と何故か男子がいたからこそできた催しだった。私は製作側にまわったが、もちろん水無月くんはモデルをやった。文化祭は二日間に分けて行われたので、二日目には噂を聞き付けた近くの中高生、大学生、社会人が水無月くん目当てで詰めかけ大パニックになるハプニングもあったが、それも含めて楽しかった。
「ここにいたんだ。」
余韻に浸っていた頭が一瞬で冷める。振り替えるとそこには
「み、水無月くん?」
「ごめんね。」
え?
「なにが?」
「米澤さんを酷い形でふってしまったこと。掘り返されたくないと思うけど、謝りたかった。ごめん。」
っ!今更?
「もう、いいよ。終わったことだし。話はそれだけ?」
立ち上がり去ろうとするが手首を捕まれて引き寄せられる。
「なにをっ!……」
私は水無月くんに抱き締められた。
「はっ!?は、離して!」
「米澤さんが好きなんだ。」
なんで!なんで!
「なんで今更なの?」
「ごめん。全部、僕のわがままだから。僕なんて、君にはもったいないと思ったんだ。」
どういうこと?訳がわからない
「僕はずっと勉強しかしてこなかったんだ。だから、米澤さんとデートに行っても楽しませることができないと思ったんだ。だからあのとき、
ーー君とは話が合わないだろうから
なんて、言ってしまった。怒られるのも当然だよね。どう聞いても馬鹿にされてるようにしか聞こえない。僕が言葉足らずだったんだ」
っ!でも
「でも、なんで今さら告白したの。」
「君を守りたいと思ったんだ。……これもわがままだけど。」
ーー嬉しい、けど憎い。初恋を忘れようと思ったのに。
「友達から始めてくれないか。君が僕を嫌っているのは分かっている。けど、僕にもう一度チャンスをくれないか」
ーー狡い、そんなの狡すぎる。
「嫌だ」
「え?」
水無月くんはまるでこの世の終わりみたいな顔をしていた。
「彼女から始めたいの。友達じゃなくて」
「え?」
私は少し背伸びをして彼の唇にキスをした。
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