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第2問 見分けられた双子

【問題2 殺されたメッセンジャー】

 ある男Aが友人である男Bの死を、妻であるCに伝えに行った。

 ところがBの死を伝えに行った途端、AはCに殺されてしまった。

 一体何故か?



「たのもー!」

 勢いよく部室のドアを開けて入ってくる一人の女子生徒。

「白神ユリア! 今日こそ決着をつけてあげる! 出てきなさい!」

「……どちら様?」

「……あんたこそ誰?」

 肩まで伸びた綺麗な黒髪に、大きなピンク色のリボンが可愛らしい、そしてその容姿も白神先輩に負けず劣らずの美人。こんな可愛い子がうちの学校にいたのか?

「俺は二年の流石、この部の部員だよ」

「えー!? パズル研究会って部員いたの!? てっきり白神ユリア一人かと思ってたのに、意外……」

「まあこないだ入ったばかりだけど。そんで、あんたこそ誰?」

「一年の夢幻レオナ! 身長155センチ体重は秘密、血液型はB型、スリーサイズは上から85・57・86、って何言わせんのよ!」

「名前以外自分で言っただろうが」

 どうにも絡みづらそうな奴が来てしまった。顔は美人だけど性格悪いパターンだ、こりゃ絶対……。夢幻って名字、珍しいけどどこかで聞いたような……?

「で、その夢幻さんがうちの先輩に何の御用?」

「決まってるでしょ?」

「わからないから聞いてんだけど……」

「水平思考パズルゲーム勝負よ!」

 ビシッと人差し指を俺に向け、威勢良く言い放つ。

「……何キミ、入部希望者?」

「違うわよ! この部の部長、白神ユリアと私は、共に水平思考の達人を師匠に持つ者。その達人たちから伝統を引き継いだ弟子同士で、どちらが優れているかを白黒ハッキリさせようとしているのよ。っていうか、あんたには関係ないでしょ!? 私がどうしてここを訪ねたかなんて教えるに値しないわ」

 もうしっかり聞かせてもらったが……。隠したいことをベラベラ喋ってくれる子だな。

「達人って? 水平思考パズルの家元とかでもいるのか?」

「あなた知らないの? 部員のクセに」

「だから入ったばかりなんだって」

「全く……白神ユリアはパズル作家・不死原聖龍の、私は探偵・夢幻ひろしを師匠に持つことも知らないなんて……。まあ知らないならイチイチ教えてあげる義理もないわね」

 いや、また全部喋っちゃってますが……。

「夢幻ひろしって、そういえば不死原聖龍の著書の夢幻博士シリーズに出てくる夢幻博士と同じ名字だな」

「あ、あんた、どうして私の師匠の名前を!?」

「今自分で言っただろうが!」

 絡みづらい……実に絡みづらい、こいつ。

「同じで当然よ。夢幻博士ってのは私のお爺ちゃん、夢幻ひろしが元になったキャラクターだもの。ちなみに〝ひろし〟は感じで〝博士〟って書くんだけどね」

「へえ~、そうなのか」

 つまりまんまこの夢幻レオナのお爺さんがモデルってことなのか。

「白神先輩が不死原聖龍の弟子ってのは?」

「聞かされたことないの? 不死原聖龍はマスコミ嫌いで滅多に人前に姿を現さないけど、その不死原が唯一心を開く存在が養女の白神ユリアよ」

「養女!?」

 初耳だ……。先輩と不死原聖龍にそんな関係が……。何で先輩は教えてくれなかったんだろう? あまり人に話したくないことなのかな?

「白神ユリアは元は天涯孤独の身だったらしいわ。不死原の養女になるまでの経緯は知らないけど、いろいろあったみたいよ。って、いつまで無駄話させるのよ! 早く白神ユリアを出しなさい!」

 ほとんどノリツッコミである。しかもコテコテの。面倒くさい女だな、こいつ……。

「いないよ、先輩は。昨日から休んでるんだ、学校も」

「えっ!? そんな……散々私から情報を引き出しといて探してる相手がいないなんて……あんた私をバカにしてるわね!?」

「はあ?」

「許さない……水平思考パズルで勝負よ!」

「何でじゃああああああああー!」

 逆ギレされ、しかも何故か水平思考パズル勝負に持ち込まれてしまう。本当になんなんだこいつは……。

「いくわよ! あんたも部員ならルールくらい知ってるわよね? お互いに問題を出し合って、質問数が少ない数で正解を当てた方の勝ち。じゃああんたから出しなさい!」

「ええっ!? いきなりそんなこと言われたって……!」

 問題を出すには、まず問題を考えなければならないわけだろ……。そんなの咄嗟に浮かぶはずもないし……。

「じゃ、じゃあ『ある男Aが友人である男Bの死を、妻であるCに伝えに行った。ところがBの死を伝えに行った途端、AはCに殺されてしまった。一体何故か?』」

 この間読んだ、夢幻博士シリーズ最新号に載っていた二問目の問題だ。こいつも読んで正解を知っていたらその時点でアウトだが。

「むっ……なかなかいい問題を出すわね。じゃあ質問するわよ」

 どうやら知らないようだ。とりあえずゲームは成立しそうだ。っていうか、何で俺まともに相手してやってんだろう……? 強引に勝負に持ち込まれたけど。

「質問一、〝Cは前からAに殺意を抱いていた?〟」

「え~っと……〝いいえ〟だ」

 俺は正解を知っているわけだから、ちゃんと質問には正しく答えなければならない。出題者になるのは初めてだから、何か緊張する。

「〝CはBの死を聞かされてAに殺意を抱いた?〟」

「〝はい〟」

「〝BはAに殺された?〟」

 そう来たか……。当然の質問だよな。でも……。

「〝いいえ〟」

「……! へえ~……なかなかやるわね」

 それなら単純すぎて問題にはならない。俺が考えた問題じゃないのだ。あの(よく知らないが)ベストセラー作家である不死原聖龍が考えた問題なのだ。一筋縄ではいかないようになっている。

「じゃあ〝Bの死は他殺である?〟」

「〝いいえ〟」

「〝Bの死は病死である?〟」

「〝いいえ〟」

「〝Bの死は事故死である?〟」

「〝いいえ〟」

 Bの死を重点的に絞り始めたか。いい線ついてるな、さすが自称水平思考パズルの達人の弟子(言いづらい)ってことか。

「〝Bの死は自殺である〟」

「〝はい〟」

「……? 自殺なのに、AがCにそれを伝えたら殺されたってこと?」

 混乱しているな。そりゃそうだろう、結果だけ聞くと理由がわからず思考の迷路に迷い込むのがこの問題の面白さだ。

「Bの自殺の理由に秘密があるってことね、そしたら……」

 おっ、すぐそこに気がつくとは、やるなぁ。

「〝Bが自殺したのはAのせいである?〟」

「……! 〝はい〟」

「ふふん」

 勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべる。まずいな……大分真相に近づいてきたぞ。まあこのゲーム、質問を続ければいつかは必ず正解にたどり着けるようにはなっているんだが。よっぽど的外れな質問でもしてない限り。

「い、一応この問題、Aの職業も暴くようにって書いてあるからな、注釈に」

「書いてあるからなって、何あんた? この問題不死原聖龍の本から取ったの?」

「しょうがねえだろ? 俺にすぐこんな問題作れるわけねえんだからさ」

「全く……。いいわ、じゃあ〝Aは刑事である?〟」

「! い、一発で……」

「何? 〝はい〟なの? はっきり答えてよね?」

「うぐ……は、〝はい〟」

「よし、わかったわ。じゃあ正解を言うわよ。〝Aは刑事、BはAの友人でありながら犯罪者。BはAに自分の罪を暴かれ、観念して自殺した。Cは死の真相を知って、逆恨みしたAを殺した〟でどう?」

「せ、正解……」

「やったー!」

 か、完璧すぎる……。っていうか、何でAの職業のくだりですぐ刑事だなんて思いついたんだ? その後のBの正体が犯罪者ってのも。俺はこの問題自分で解いたとき、ここを詰めるのに一時間は要したのに。

「何ですぐわかったんだよ、Aが刑事だって?」

「人が自殺したことで恨みを買いそうな職業なんて金貸しか刑事くらいなもんよ。他にもあるかもしれないけど、こういう問題に出てくる職業って言ったらそんなもんだから。職業が刑事ってわかれば、そしてそれがキーになることがわかれば、Bが自殺した理由がAのせいなのなら、Bが犯罪者だって答えはすぐ導き出せる答えよね?」

 こいつ……変な女って思ってたけど、すげえ!

 水平思考パズルの勝負を持ちかけるだけあって、その腕前には絶対の自信と実力を持ってるわけか……。

「じゃあ攻守交替ね。今度は私が問題を出すわ」

「え~っと、今の問題に費やした質問は……九個か。じゃあ俺は八個以内に答えなきゃいけないわけだな」

 たった九個しか質問してなかったのか、あの問題で……。俺は先輩と解いたとき、数えてないけど五十個近く質問した気がする。

「問題、『ある部屋で人が殺された。ドアや窓には鍵がかかっていて、人が出入りすることはできない。部屋の鍵は殺された人物が握っていた。果たして犯人はどうやって部屋から脱出したのか?』」

 密室の問題か。また密室……この間の事件を思い出す。

「さ、どんどん質問どうぞ」

「う~ん……」

 なにせ八個しか質問できないのだ。無駄な質問は一切許されない。何から聞けばいいやら、迷ってしまう。

「じゃあ……〝部屋の合鍵が存在する?〟」

「〝いいえ〟」

「〝部屋の外から男に鍵を渡して握らせる方法が存在する?〟」

「〝いいえ〟」

 この二問でとりあえずその部屋が完全な密室だってことはわかった。ならば次に詰めるべきは……。

「〝男は犯人に、部屋の外から殺された?〟」

「〝いいえ〟。犯人は殺害時に被害者と同室していたわ」

 ってことは、この間の事件の毒物の類の殺害方法じゃないってことか。これで三問消費。

「〝犯人は死体が発見された時、部屋のどこかに隠れていた?〟」

「〝いいえ〟」

 これも駄目か……。死体発見時、部屋のどこかに隠れていて、発見者が立ち去った後に脱出すれば、発見者たちにとっては密室の謎はそのままになるが……。

「さ~、どうしたの~? もう半分使っちゃったよ、質問」

「くっ……なら〝部屋のどこかに秘密の抜け穴がある?〟」

「〝いいえ〟」

「〝鍵を使わずに外から鍵をかける方法がある?〟」

「〝いいえ〟」

「〝殺された人物が犯人が部屋から脱出後、虫の息になりながら部屋に鍵をかけてその後に死んだ?〟」

「〝いいえ〟」

「ぬおおおおおおおおおお~!」

 なんだよそれ!? まるっきり出口のない本物の密室じゃねえか。

「うふふふふふふ……どうしたのかしら~? 手も足も出ないって感じだけど~?」

 嬉しそうな顔を俺に見せつけてくる夢幻レオナ。腹立つ……。でもさすが水平思考パズルの達人ってか。出題も難問を考えてきやがる。

「さあ、これで最後よ。次で当てられなかったらあなたの勝ちはなくなるわ」

「う……ぐぐぐぐぐぐ……!」

 引き分けドローに持ち込むにしてもあと二問で正解を出さなければならない。正直この感じでは無理だろう。正解の糸口すらつかめないのだ。俺に勝ち目なんてあるわけがない。

「さあ、さあ! 質問どうぞ!? どうせ無駄だけどね~?」

 こいつ……生粋のドSだな、絶対。

 もういいさ……どうせ当るわけないんだから、適当に答えよう。そもそもこんな勝負に真剣になりすぎて、俺もどうかしている。

「じゃあ……〝部屋には天井がなくて、壁をよじ登って犯人は脱出した?〟」

 言ってる自分で馬鹿馬鹿しくなってくる回答だ。

「……! せ……正解」

「なぬうううううううううー!?」

 なんと……適当に言った答えがまさかの大正解!?

「ま……まさかこの問題を当てるなんて……」

「何だよそりゃ!? インチキにも程があるだろ!? 密室殺人でも何でもないじゃねえか!」

「だって私、一回も密室だなんて言ってないでしょ?」

「あ……」

 そういえば……。

「問題のミスリードに引っかかって、勝手にあんたが密室殺人って思い込んでただけでしょ? まあそうなるように考えた問題だけどね。意外な角度から物事を見る、これこそ水平思考パズルの本質」

「それにしたって正解の内容がお粗末すぎるだろ? 何だよ、天井のない部屋って? どんな部屋だ?」

「うるさいわねえ! あんた、マジックショーを見に行った時、マジックの答えを聞いてガッカリしたら、マジックのタネにクレームつけるタイプなの!? 違うでしょ!?」

「何だ、そのド下手な例えは?」

「難問に見えるものほど、答えを知るとガッカリするものだったりするのよ! いちいちケチつけるんじゃないの!」

 自分で考えた問題だろうに、ガッカリな答えとか言っちゃったら身も蓋もない。

「くやしいいいいいいいいいいいいいいいい! 私が……この私がこんな奴に負けるなんてえええええええええ~!」

 髪をかき乱して全身で悔しさを表現する夢幻レオナ。(一応)負けたことがよほど悔しいらしい。

「……あんた、名前は?」

「名乗っただろ、さっき」

「覚えてないからもう一回言いなさい!」

「流石騎士」

「ナイトね、覚えておくわ」

「先輩をつけろよ、一応年上なんだから」

「ふん! このリベンジは必ずするから、覚えてなさい!」

 そう捨て台詞を残して、夢幻レオナはさっさと部室を出て行ってしまった。なんだったんだ、あいつ……?



 結局部室で待ち続けたものの、白神先輩は現れなかった。ケータイにかけても繋がらないし、大丈夫かなぁ……?

 そう心配しながら帰る途中、民家にパトカーが一台停まっているのを見つける。最近何かと警察と絡む機会が多いだけに、何か嫌な予感がした。

「おお、君は!?」

 このナルシスト感全開の声は……。

「白神ユリア嬢の付き人Aくんじゃないかね! また奇遇だね、こんなところで会うとは」

「誰が付き人Aですか……」

 的外刑事だった。家の玄関から俺を見つけるなり駆け寄ってくる。

「あれ……? ユリア嬢はどうしたのかね? 君がいるということは彼女もいると思って期待したのに」

「そんな付き合い長いわけでも一緒にいるわけでもないので。それよりどうしたんですか? また事件ですか?」

「その通り。だがいつもながらこの私が受け持つ以上、単純明快な事件になることは必然。もうほぼ解決しかけているところだよ」

「はあ……」

 本当に単純明快なのか……? この人の頭脳ならあらゆる事件を迷宮入りさせることができるだろうに。一応聞いてみたほうがいいかもしれない。

「で、どんな事件なんですか?」

「うむ……それがだね……」

「あー!」

 耳を劈く大きな声。家の中から聞こえたその声。見ると玄関から出てくるのはさっきの賑やか娘……夢幻レオナだった。

「あんたはさっきの……え~っと、マント!」

「ナイトだ! トしか合ってねえじゃねえか!」

「何であんたがこんなところにいるのよ!? はは~ん、ひょっとしてあんたが事件の犯人?」

「何でそうなるんだよ!?」

「犯人は必ず犯行現場に戻ってくるものよ。つまり流石ニート、あんたが双生仁そうせいじん氏を殺害した真犯人ね!」

「ナイトだっての!」

「おやおや、レオナ嬢と知り合いかね?」

「っていうか、刑事さんこそどういう関係ですか?」

「私はレオナ嬢の運命の人であり前世からの肉体関係であり……」

「高校生探偵、夢幻レオナ。お爺ちゃんの仕事を継いで、これまで数々の難事件を解決してきたのよ。的外刑事とは探偵と刑事のよくあるパートナーの関係」

 高校生探偵……また随分と漫画チックな。現実の探偵はこんな殺人事件なんかに首を突っ込ませてもらえないぞ、普通。そこは的外刑事だからか。

「自分で言うか? 数々の難事件を解決してきたとか」

「だって、でないとちゃんと説明してくれないもん、この人が」

「フッ……したじゃないか、私と君との間に秘められた関係を」

「はいはい。で、本当に何であんたここにいるのよ?」

 的外刑事の悪ふざけをさらりとかわして俺に質問してくるレオナ。

「たまたま通りかかっただけだよ。そしたら顔見知りの刑事さんがいたから」

「ふ~ん、あんたも的外刑事と知り合いだったんだ。ま、でもこの事件、あんたの出る幕はないけどね」

 別に出る幕が欲しいなんて思ってないけど……。

「あの……じゃあさっきの質問に戻りますけど、的外刑事。どんな事件なんですか? 子の家で起こった事件って」

「うむ、まあ単なる保険金目当ての殺人事件なんだけどね。殺されたのはこの家の家主、双生仁氏、35歳。双子の弟、双生守そうせいまもる氏とともに生命保険に加入して多額の保険金がかかっていた。そして……兄弟それぞれ事業に失敗し、莫大な借金も背負っていた」

「で、もう犯人は割り出されてるわ。さっきも言ったけどあんたの出番はないのよ。もう事件は解決しかかってるんだから」

「はあ……で、その犯人って?」

「現在行方不明の弟、守氏さ。凶器の包丁に守氏の指紋がベッタリ、加えて目撃証言もあるからね」

「目撃証言?」

 すると家の中から今度は中年の男性が警官に連れられてやってきた。

「では貴重な証言ありがとうございました。今日のところはこれぐらいで、後日またご連絡させていただくことになると思います」

「わかりました……。必ず守を捕まえてやってください、刑事さん。あいつには早く罪を償って欲しい……」

「津田山氏」

「ああ、刑事さん」

「守氏は必ず私共が逮捕しますので、どうぞご安心を」

「お願いします……」

「……あの人が目撃者?」

「ええ、双生兄弟の親友、津田山正宗さんよ。津田山さんが家を訪ねたら、ちょうど庭から逃げ出していく守さんの姿を見たんだって」

「ふ~ん……」

 指紋も残っていて、目撃証言もあればこの事件は本当に解決したも同然か。あとは双生守が見つかるのを待つだけだもんな。

「ま、そういうことだから、あんたは早く帰りなさいよ。んじゃね」

 そう言ってレオナはまた家の中に入っていく。何だあいつ……? 何か慌ててたように見えたけど。

 気になって俺も家に入らせてもらう。部外者が事件現場に入るなんてもってのほかだが、軽い的外刑事はあっさり承諾してくれた。

 家の中に入ると居間でタンスを勝手に開けてアルバムを物色しているレオナを見つける。写真を見ながらちょくちょく自分のケータイもいじっている。なんか忙しい奴だな。

「……何やってんの、お前?」

「きゃああ! ビックリさせないでよ!」

 驚きすぎだろ……。イチイチ反応がオーバーな奴。

「それ、この家のアルバムか? そんなもん見てどうするんだよ?」

「どうだっていいでしょ? ほっといてよ」

「……何か隠してるだろ、お前?」

「な、何よ……」

「正直に言えよ、見りゃわかるぞ。本当に解決しかかってるのか、この事件?」

 レオナを問い詰める。なかなか口を割らないレオナだが、ようやく話してくれる。

「……気になることがあるのよ」

「気になること?」

「これ見て」

 そう言ってレオナはアルバムを見せてくる。そこには事件の被害者と容疑者と思われる、双子の兄弟が写った写真が何枚も収められている。やっぱ瓜二つだよな……。いくら双子とはいえ、これだけそっくりな人間が並ぶとなんだか気味が悪い。

「そっくりでしょ、この二人?」

「当たり前だろ、双子なんだから」

「どっちがどっちかわかる? 名前はこの際置いておくとして、二人の違いが見つかるかってこと」

「わかるわけねえじゃん。これだけ似てたら肉親か親友でもない限り無理だろ」

 ましてや俺なんか初見なのだから。それにしても本当に何から何まで一緒だな……。髪型も背格好も、顔の形も。服まで一緒だぞ? さすがに変えろよ、そこは。

「仲のいい兄弟で、服も全部同じものを持っていたんだって。そして顔や体系は当然ながら全く同じ。普通の双子ならちょっとした髪型の違いとか、例えばホクロの位置とかで見分けられるものだけど……この二人は鏡に映ったかのようにそのまま同じなのよ」

「一緒の服って、姉妹ならともかく、男兄弟でそれは気持ち悪いな……」

「どう思う? これを」

「どうって……生命の神秘って凄いなぁって……」

「そんな感想じゃなくて! 不思議に思わない? どうして『あの人』は双子の兄弟を見分けられるのか?」

「あの人?」

「目撃者の津田山さん。あの人、警察に通報した時にまずこう言ったんですって、『守が仁を刺し殺した』って。私、死体も確認したけど……死体に仁さんの方だって確認できる目印なんて見当たらなかったわ」

「そこはさすが一発で見分けられるんだな、親友だし」

「いくら親友だからって、ここまで奇跡的にそっくりな兄弟を見分けられる? ちょっと強引過ぎない?」

 お前の推理の方が強引だよ……。そう言いたかったが、言っても喧嘩になりそうなので、ここは堪えて別の手段に出ることにする。

「わかった。お前がそこまで言うなら……」

 俺は白神先輩から預かった例のペンダントを取り出す。探求パズル……本当は無闇に使いたくないのだが、こういう奴は結論の出にくいことでも白黒はっきりさせないと気がすまないタイプだろうから。

「何……それ?」

「まあ見てなって。『何から何までそっくりな双子の兄が殺された。目撃者の男は兄を刺し殺して逃げる弟を目撃したと言うが、何故男は双子を一瞬の間に見分けられたのか?』」

 こんな感じでいいのかな……? なんせ初めて使うからな。

 俺の声に反応し、パズルがピカッと光る。

「こいつが全部答えを教えてくれるよ。青く光ればイエス、赤く光ればノー。お前の大好きな水平思考パズルではっきりさせようぜ」

「そんなオモチャが答えを教えてくれるっての?」

「そういうこと」

「馬鹿馬鹿しい……何を言い出すかと思えば」

「グダグダ言ってないでいくぞ。津田山さんが双生兄弟を見分ける術があったのかなかったのか、一発で結論が出る質問だ。〝双子の兄弟には見分ける目印が体や服装のどこかにあった?〟」

 パズルが赤く光る。

「!?」

「……これって……いいえってことよね?」

「ど、どういうことだよ?」

「これ……本当に真実を教えてくれるの?」

「じゃ、じゃあ〝男は普段から双子の兄弟をすぐ見分けることができた?〟」

 またもパズルが赤く光る。そんな……そんな馬鹿な!

「どうなってんだ!? 本当にレオナの言う通り……?」

「双子を見分ける術はないってことなのね? なら今度は、どうして津田山さんがこの時に限り一瞬で双子を見分けられたのかって疑問が出てくるわね」

「なら……〝事件時に限り、双子にはどっちがどっちか見分けられる決定的な目印があった?〟」

 パズルは赤く光った。これもノーかよ。

「もっと突き詰めた方がいいんじゃない? 双生兄弟の見分け方について」

「じゃあ……〝双子は自分たちから名乗り出る以外に見分ける方法があった?〟」

 パズルが赤く光る。

「つまり……双生兄弟は自分たちから名乗り出ない限りは誰からもどっちがどっちか見分けられないってことね」

 なんちゅう兄弟だ。そんなの色んな犯罪に利用し放題の設定じゃないか。似てるってことは本来なら素晴らしい奇跡なのかもしれないが、似すぎてるってのも考え物である。

「次の質問は? どんどん聞いてこうよ」

「待てって。これは二十個しか質問ができないんだ。質問の内容はよく考えなきゃならない」

 津田山正宗は双子を見分ける術を持たなかったにも関わらず、事件が起きたときは一瞬でどっちがどっちか区別することができた。この矛盾はなんなんだ?

「……死体が双生仁なのは間違いないんだよな?」

「そう言われると……DNA鑑定したところで、双子のDNAは一緒だから、どっちのものかは区別つかないわけだし……」

 凶器の指紋なんてもっと当てにならない。ならば……。

「〝死んだのは間違いなく兄の方である?〟」

 パズルが青く光る。

「イエスね?」

「ああ、どうやらそこは間違いないみたいだ」

 だったら余計に謎のままだ。津田山はどうやって二人を……?

「……待てよ?」

「どうしたの?」

「津田山……まだ帰ってないよな?」

 俺は急いで玄関へ戻る。レオナも俺について来る。

「的外刑事!」

「おお、付き人君。どうしたのかね?」

 運良く津田山はまだそこにいた。どうやら的外刑事の長話につき合わされたようだ。ナイス、的外刑事! こういうときだけ役に立つ。

「事件の真相……双生兄弟を見分けられたのと同じくらいはっきりさせましょうか、津田山さん」

「……」

 津田山は俺に敵意のある視線を向けてくる。俺の考えていることに気づいたらしい。やっぱりな……あの表情、間違いない。

「どういうことだい、付き人君? 真相も何も、もうこの事件はすでにハッキリして……」

「どうして津田山さんは、双生兄弟を見分けることができたんですか? 二人を見分ける術は誰にもありゃしないのに」

「……はっは、何を言い出すんだい、君は? 私は長年彼らと付き合いがあるんだ。どっちがどっちかくらい、見ればすぐにわかるんだよ」

「じゃあ試してみましょうか?」

 レオナがそう言ってさっきのアルバムから抜き取った写真を見せる。

「この写真……どっちがどっちか当ててみてくださいよ」

「なっ……? ふ、ふん、簡単さ。右が仁、左が守だろう?」

「はずれ~! 右が守さん、左が仁さんでした」

「くっ……ま、まあたまにはこんなこともあるさ。確かにそういえば、右は守のほうだったな、見間違えていた」

「あれ~? 随分あやふやですね? 本当は右が仁さんで正解ですよ? ほら」

 レオナはアルバムを見せ、写真を抜き出したページの写真が入っていたところを見せる。写真が入っていたところの下にマジックで『右・仁、左・守』と書いてある。親もさすがにどっちがどっちかわからなくて書いたのだろう。

「ぐっ……お前……!」

「そんなあやふやじゃきっと目撃した一瞬で見分けるなんてとてもできなかったと思うんですけど、どうして津田山さんははっきり守さんが仁さんを殺したって断定できたんですか?」

 上手いやり方だ……。俺の持っている探求パズルはあくまでも物的証拠にはなりえない。真実を教えてはくれてもそれを警察に話したところで、証明するものがなければ何にもならないのだ。

 それをレオナは、見事に津田山が双生兄弟を見分けられないことを証明してくれた。これならいける……。あとは俺と俺の持つパズルの力次第……。

「その答えは次の通りですよ。〝津田山さんが殺されている双子を見分けられたのは、殺したのは津田山さん本人だからである?〟」

 パズルが青く光る。大正解だった。

「な、なんだ〝である?〟って! 俺は殺していない! 何で俺が仁を!」

「双生兄弟を見分ける方法は、本人たちに名乗ってもらうことのみ。ならばどっちが死んでいるのかを判別できるのは、殺された方に名乗ってもらった人物……つまり犯人ってことですよ!」

「な、何だそのメチャクチャな推理は!? 刑事さん、何とか言ってください! このガキども、俺を落としいれようとしてますよ!」

 メチャクチャな推理はごもっともだが、全て事実……。水平思考パズルがそれを証明している。

「ふう……付き人君、では聞くが……津田山氏が仁氏を殺す動機は? 彼らは親友だったんだよ?」

「それに関しては私から説明しましょう。津田山さんは最近、双生兄弟とある『協定』を結んだそうですね?」

 レオナが話してくれる。俺も動機については実はさっぱりだったので、実にいいアシストをしてくれるとホッとする。

「協定?」

「……」

 何のことかわからない的外刑事に対し、顔色が青ざめていく津田山。

「それは親友三人とも、それぞれの事情で多額の借金を背負ってしまい、三人とも生命保険に入り、万が一、三人のうち誰かが死んだら、降りてきた保険金を残った二人で分け合って借金の返済に使わせてもらう。そういう協定ですよ。親友同士で相手を何とか助けたいと思いやる友情の約束……のはずだったんですよね?」

「お、お前……どこでその話を……?」

「私は探偵ですよ。舐めないで下さい、情報の早さは警察以上ですから」

 本当にどこでそんな情報を……? そういえばさっき、家の中でいじっていたケータイ、あれが関係あるのか……?

「その話が本当なら……十分動機になりうる話ですよね? 保険金目当てで双生仁さんを殺した。親友にも関わらず、自分の借金のために……」

「し、しかし待ってくれ。津田山氏が仁氏を殺したのなら、守氏は今どこにいるのだね? どうして行方をくらませているんだい?」

「多分……これは俺の想像ですけど、〝双子の弟もすでに殺されている?〟」

 パズルが青く光る。やっぱりな……酷い事実だぜ。

「な、何だって!?」

「死体は埋めたか海にでも捨てたか。どっちにしろ守さんに罪を着せるために、殺して見つからないように細工したはずです。ひょっとして後々遺書が見つかって、兄を殺した罪の意識に耐え切れず自殺したなんてシナリオも用意してあったんじゃないですか?」

 またもパズルが青く光る。パズルに問いかけたつもりはなかったのに、相手の思惑まで見透かしてしまうのか、こいつは……。

「で、デタラメだ! 証拠なんて一つもない! 俺は無実だ! 助けてくださいよ、刑事さん!」

「む、むう……確かに証拠は何もないのだ。私たちはあなたを疑うことはできても逮捕することはできないから……」

「そ、そうでしょう!? ざまあみろ、ガキども! 学生の分際で探偵を気取りやがって! てめえら訴えてやるからな! 見ておけよ!」

「う……」

 津田山の気迫にたじたじになるレオナ。対する俺は、一向に動じることなく冷静でいられた。

「ど、どうするのさ、ライト?」

「人が死ぬノートは持ってねえよ」

「凄い怒ってるよ……。やっぱり証拠がないと、あいつが犯人でも追い詰められないよ」

「そんなことないさ。俺は探偵じゃないんでね……正攻法で事件を解決しようなんて思ってない」

「えっ……?」

 俺は一歩二歩、前に歩み出て、パズルを津田山に向けてかざす。

「何だ……何の真似だ?」

「真相は暴かれた。全てを暴いた時、こいつは真犯人に対して、一つの力を発揮する……。行くぜ、最後の質問だ!


〝双生兄弟を殺したのは、津田山正宗、お前だ!〟」


 パズルが銀色に光り、津田山に向かって光の矢を放つ。光の直撃を受ける津田山。周りの警官たちや的外刑事、レオナも何が何だかわからず呆気にとられて見ていた。

「……はい、私が殺しました」

「!?」

「私が……犯人です、ぐっ……どうしたってんだ!? 口が勝手に動き……保険金目当てで親友を裏切り、殺したんです。おおおお、俺が、ぐぐぐ、殺したんだああああああああああああああああ!」

 絶叫する津田山。その告白はその場にいた全ての者にはっきりと聞こえた。

 こうして事件は……犯人の自白をもって解決した。



 真犯人、津田山正宗が捕まり、一件落着となる。的外刑事は犯人逮捕できたにもかかわらず、何故か悔しそうな顔をしながら署に戻っていった。

 行方不明の守さんの捜索も続けられる。もう殺されていることは確定だが、それでも見つけないわけにはいかない。しっかり供養してあげるためにも……。まあ津田山が死体を埋めた場所も吐いたから、すぐに見つけられるだろうが。

「……あんた、何者なの?」

 レオナは真剣な表情で俺に聞いてくる。

「ただの高校生だよ、パズル好きのな……」

 そう……俺には何の力もない。推理力だって人並みにしかない。事件を解決できたのはこいつの……白神先輩からもらった探求パズルのお陰。

「そのパズルに秘密があるのね?」

「ああ、白神先輩から預かってるんだ」

「そう……なら、そのパズルの力で調べた方がいいかもよ、白神ユリアのこと」

「えっ?」

「白神ユリアは……一昨日の夕方以降、誰にも目撃されてないわ。私の情報網で掴んだことよ。つまり……行方不明なのよ」

「何だって……!?」

 白神先輩が行方不明……? 家にも帰ってないってのか?

「ま、まさか、きっと風邪かなんかで寝込んで、ずっと家から出てないだけだろ? 行方不明とかそんな大げさなもんじゃ……」

「じゃあ聞いてみなさいよ、そのパズルに聞けばハッキリするんでしょ?」

「わ、わかったよ……」

 少しムッとしてパズルを取り出す。全く、何でもかんでも事件にする気か、こいつは……。

「え~っと、なんてインプットすればいいんだ……? 個人名とかでも大丈夫なんだよな? 〝白神ユリアが一昨日の夕方以降、誰にも目撃されていない。何故か?〟」

 パズルが光る。インプット完了したようだ。水平思考パズルでも何でもないけどな、もう……。

「じゃあまず……〝白神ユリアは風邪で寝込んでいる?〟」

 もはやプライベートを暴くストーカーグッズである。パズルは赤く光る。

「違うってのか? じゃあ……」

「白神ユリアは何かの事件に巻き込まれている」

 レオナが言う。パズルは特に反応しない。インプットした俺の声でないと反応しないのだ。

「それを聞けってのか?」

「そうよ」

「ったく……〝白神ユリアは何かの事件に巻き込まれている?〟」

 パズルは青く光る。

「な……何だって?」

「そう……やっぱりね」

「やっぱりってどういうことだよ? 確かに先輩はよく事件に出くわしやすいみたいだけど……」

「あんた、本当に何も知らないのね、ナイト」

「……!」

 やっと本名を呼んでくれたことなんてこの際どうでもよかった。それよりも……レオナに軽蔑されている気がしてならなかった。どうして俺が軽蔑されなきゃならない? 俺は先輩とそんな付き合いが長いわけでも、深い関係でもないってのに……。

「まあいいわ。それより次の質問よ。〝白神ユリアはまだ生きている?〟」

「……! てめえ、どういうつもりだよ!?」

「どういうつもりも何も、それを聞かなきゃ始まらないでしょうが。事件に巻き込まれているなら真っ先に気にするのが生死。まだ生きているなら悪人に捕まってどこかに監禁されているかもしれないし、助けにもいかなきゃいけないでしょ? あんたの気持ちもわかるけど、白神ユリアのことを思うならもっと冷静に物事を考えなさい」

「ぐっ……!」

 年下に説教されてしまう。だがぐうの音も出なかった。確かに言われてみればその通りだ。このパズルの力があれば、そういう緊急事態だっていち早く察知できるのに、それを俺の危機意識が足らないばかりに怠るのは愚の骨頂だ。

「……わかった。〝白神ユリアはまだ生きている?〟」

 その質問に対し……パズルは……赤く光を放った。

「!」

「……!」

「そ、そんな……」

 ノーだって……? じゃあ先輩は……先輩はもう……。

「……なんてこと……」

「うっ……うおあああああああああああああああああああああ! 嘘だああああああああああああああああああああああああああ!」

 もうすっかり夜もふけた空に向かって俺の絶叫が悲しく響く。俺がこうしている現時点で、白神先輩は……先輩はもう……死んでいるなんて……。

「どうして!? 何で!? くそおおおおおお、教えてくれよ! なあ、なあ!?」

 取り乱し、探求パズルに向かって問い続ける。イエスかノーしか答えられず、それ以外の言葉など語りかけてくれるはずもないのに。

 何故先輩は死んでしまったのか? 事件に巻き込まれたということは誰かに殺されたのか? それをまず確かめるべきなのに、冷静さを欠いた今の俺にそれを思いつく手立てはなかった……。

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