おいでませ 異世界
ブクマが嬉しい今日この頃。こんにちは。
更新ペースをあげたいと考えています。実行はできるかどうか分かりません。仕方無いね。
先程、部屋でゴキブリと死闘を繰り広げました。
瞼の上には、鉛のように重たい漆黒の闇がのしかかっていた。目を開けようとしても、瞼がぴくりとも反応しない。それどころか、鼻も耳も全く感覚が無い。感じる事ができるのは身体をすり抜けてゆくような心地の良いそよ風が触れる感覚だけだった。
少年がようやく目を覚ますと、そこは、深夜に佇む住宅街でも、辺りを覆う真っ黒なアスファルトでもない、闇に慣れた目をチクチクと突き刺す、からっとした晴天の中に広がる真っ青な草々が風によって触れ合う大きな草原だった。
「…ここ、どこ?」
少年の純朴な疑問は、声にならずに消えた。声が、出ない。唸り声やかすれ声すらも、少年の喉を突いて出てくることは無い。辺りを見回そうとして気づいた。首が、腕が、足が、動かない。全身の何処もかしこも動かないのだ。耳に入ってくるはずの、草が擦り合う音が聴こえないのすらも、今、この瞬間に気が付いたようだった。
何分が経過しただろう。突然少年の耳に何かが千切れるような破裂音が飛び付いてきた。ビクッと首をすくめたときに、自らの身体の主導権がまた、自分へ帰って来たことが分かった。それと同時に、身体中から黒い煙が上がり始める。ぎょっとして手で煙を払い、充分にあたふたし終えた頃、少年は身体の異変に気付き、ただ呆然と口をあんぐりさせる他なかった。
身体が自分の物では無くなっている。正確にはアスファルトに沈んでいた頃の「藍沢 日向」の身体では無くなっている。日向自身の目にはまだ入っていないが、黒く艶も癖もない髪が、栗色の綺麗なショートカットになっている。所々毛先がハネており、若干癖毛に変化したらしいことが伝わってくる。陸に上がってくたばった魚のようだった瞳も、明るい茶色に変わった。高かった方だった自慢の身長は10センチほど縮んでしまったが、顔は小顔で美形。傍から見たら少女に間違えられても仕方無い華奢な16歳のイケメンに生まれ変わることが出来た。羨ましい。
「……もしかして、異世界?ここ」
あれ?俺の声こんな感じだったっけ?つーか、着てる服がまるっとおかしいぞ。なんでド○クエの村人みたいな服着せられてんだよ。ゴワゴワするわ、チクチク繊維が刺さるわ、最悪の着心地だ。
村人はよくまぁこんな服来て生活できるな。麻かなんかで出来てる服なのか?
視力の悪かった目を凝らして、緑の絨毯の向こうを見ると、うっすらと、親指程の大きさの丸いホールケーキのような灰色がかった建造物が目に入って来た。ちょこんと何かが縦に出っ張っているが、流石に何なのかまでは分からない。
「すごいな……マサイ族みたいな視力だ…コンタクト入れたままじゃないよな?」
何処なのかも分からない草原の上でボケーッと過ごすのは流石に危ない。今の頼りはあの灰色の建造物しかない。日向は距離の事を考え、憂鬱になりつつ草原を渡り始める。
でかい。めちゃくちゃでかい。日向の記念すべき異世界初の感想は、「馬鹿でかい。」に奪われた。夕暮れになりようやく到着した建造物は、灰色のドーム上の壁だった。正面には金属製らしき6メートル程の扉と、西洋風の甲冑を装着し、小学生一人分はある細長い剣を手にした分かり易いにも程がある騎士が二人が立っていた。
凄ぇ、ガッツリファンタジーの世界じゃん。この塀だか壁だかわからん物体の向こう側はきっとファイ○ルフ○ンタジーとかで良くあるタイプの街が展開されていること間違いナシ。もちろん突っ込む。絶対突っ込む。
浮かれ気分のまま扉の前まで駆けて行き、口を開く。
「あの…」
話しかけられた騎士は日向を見た瞬間に面倒くさそうに語った。日向の話は無論聞いていない。
「…ん、あぁ…また『探求者』か。このまま魔物に貪り食われるのもアレだし、さっさと塀の中に入ってくれ。」
あれっ、会話キャンセル!?地味にこういうのは精神的にくるからやめてくれよ…ん?なんでこの騎士のオッサン、俺の背中をぐいぐい押してくんの?やめろ、そっちは閉じたまんまの扉しかないだろ、せめて開いてから押せよ!
「すいません!まだ扉開いてないんですけどぉ!!」
「開いてるだろ、さっさと自分で歩いて入れよ」
「開いてねーよ!!扉どころかアンタの目まで閉じてるんじゃねーのか!」
あぁ、ダメだ、オッサンどう足掻いても俺を全力でプッシュしてくる!しかも無駄に力強くて逃げられねーし!潰れる!!まさか異世界でオッサンに扉に押し付けられ潰れて死ぬとは……絶対オッサン祟ってやる。夏場になったら滅茶苦茶臭いが甲冑に篭る呪いや、買ってきた野菜に絶対ナメクジがくっ付いてくる呪い掛けてやる。くそぅ…
涙目になりながら扉に押し当てられた時、日向はずっこけながらも、ぬるんと扉をすり抜けていた。
「……た、たすか、った?」あまりの出来事にしっかりとした言葉にならない。
扉の向こうからは先程の騎士達の笑い声が聞こえて来る。
「ははははっ…ひーっ、腹が痛い。無知な『探求者』ならではだな。やっぱり。」
「見たか?すり抜ける直前のあいつの顔。半べそ書いて顔真っ赤でさ……」
またもや笑い声が響いてくる。口振りからすると自分以外にも「探求者」と呼ばれている人々が居るらしい。文句を言ってやろうかと考えたが、やめておこう。今はこの世界について情報を得ることの方が大事だ。チート能力手に入れたら絶対復讐してやると、日向は思ったり思わなかったりした。
目前に広がるは、活気のある市場。多くの市民達が生活の基盤とし、日々を生き抜いている城下町だ。城下町というだけあり、奥にそびえ立つは、「馬鹿でかい」居城。なるほど、この大きさならばホールケーキの苺状態になってもおかしく無いだろう。巨人でも住んでいるのだろうか。
辺りをキョロキョロしながら、城へと向っていると自分と同じような服を着た人々が沢山いる。あながちドラ○エ村人専用服という発想は間違いでは無いかも知れない。カラフルな生地でできた庇の下には、木箱に積み上げられた真っ赤な林檎が露によって輝き、氷の敷き詰められている木箱の中では、銀色の鱗を光らせる魚達が寝転んでいる。
活気のある市場の掛け声や、村人の談笑が飛び交う中、ぼそぼそと隠れるような小声が聞こえて来る。
「……か、ニセモンの『ジョブ』が出回って………下手すりゃ……死…」
「こっちだ…て、……薬が回っ……商売上………」
…なんの話だ?『ジョブ』?ジョブっていうと、モンクだとか黒魔道士とかのやつか?この世界の言語のことは良くわからんが、聞き間違いでは無い…と思う。
声を頼りにさっきの人達を探してみるか…
日向が市場で駆け出そうとした、その時、ちょうどだった。
視界が、真紅に染まる。赤々と輝いていた太陽が、漆黒に塗り変わる。屋台も、城も人々も、異様な情景に取り込まれ、赤く照ら照らと、映し出される。
村人の活気ある声が、畏怖で塗り固められた絶叫となる。
ノイズのような、男の唸り声のような様々なものが混じり合った奇怪な音が辺りを渦巻いた時、地面から、黒い形容し難い粒子のようなものが間欠泉のように幾つも湧き出ていた。
アイザワ ヒュウガ
『藍沢 日向』
「ジョブ」:無職
体力:12
魔力:0
筋力:レベル1 耐久力:レベル1
俊敏性:レベル1
「スキル」:『器用貧乏』
やる気スイッチぼくのはどこにあるんだろう
BOY♂NEXT♂DOOR