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十三月の物語

四月の迷子

作者: アルト

 四月は何かと迷う。

 新年度の始まり。

 新作ゲームの発売。

 冬の冷気を耐え抜いた草花の芽吹き。

 さまざまなものに目を奪われる。

 だから迷うのだ。


 肌を潤すような陽気が降り注ぎ、草木が新緑の若葉を躍らせる。

 花が咲き、蝶が舞う。

 それに目を奪われ、歩くうちに道に迷う。

 這々の体で見覚えのある場所に出れば、気を抜いてまた迷う。

 歩き回って方向感覚を失念し、挙句は警察に不審者と間違えられて職質される始末。

 意地を張って迷子では断じてない、そう言い張る。

 そして迷いながら歩く。


 しかしながら、迷うことで見つけたものもある。

 日頃のストレスの溜まる迷いとは違う迷い。

 長閑で静かで温かい春の日。

 空にかかる真っ白な雲。

 いろいろと見つけながら歩く。

 そして気づけば全く人気のない場所に……。

 迷子ではない。方向音痴でない。

 ないったらない。絶対にない……って言えない。


 ふと気づけば、黒い猫がいる。

 よく見慣れた黒猫だ。

 ついてゆこう。

 これで迷子ではなくなるだろう。


 その黒猫はときおり振り返り、まるで道案内をしてくれているようだ。

 距離が開けば立ち止まり、曲がり角で立ち止まり、細い路地で立ち止まり。

 そうして見慣れた我が家にたどり着いた。

 いい経験だった。


 そのとき見た物は後年、拙文を書く際に役立っている。

 つまりあれは迷子でなく散歩だったんだよ。

 そうなんだよ。断じて迷子ではなかったんだよ。そうに違いないんだ。


 人が本当に迷うのは進む道を決めた時じゃないんだろうか?

 本当にその道が正しかったのか、このまま進んで自分の求めるものはあるのか。

 そういうことで迷うんじゃなかろうか。

 迷うなら迷えばいいだろう。

 だって、迷ったからこそ今の自分があるのだから。

 迷子になって迷えば迷うほどに、さまざまなものが目に入って視野を広げてくれるのだ。


 だから迷うなら四月がいい。

 なにしろ、いろいろなものが新しいのだから。




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