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地方伯爵の軌跡

グリム伯爵の短編です。

時期は憂いの大国から白虹の賢者の最初迄で、光の英雄読後を推奨します。

※英雄は読んでいなくても大丈夫な気がしますが……

※主人公はほとんど出てきません。



 旧ルゼリア伯爵領、現グリム伯爵領の領主の屋敷の一室。

 その書斎で領主であるモーガン・グリム伯爵は血の気が引いたような青い顔色のまま、机の上にあった書類や本、万年筆を思いのまま地面に叩き落した。インク瓶が絨毯の上を転がり、職人が丹精込めて仕上げた模様に斑な黒い模様を新たに加えたが、屋敷の主は気にも止めず、机に握った両拳を叩きつける。


「くそうッ!」


 そう口から怨嗟の籠った声が漏れる。


 事の始まりは、領地に第七王子が訪れたことだった。使いの者の話では、彼の乳母が帰郷する為、その共ということだった。四歳という幼児だが国王と寵姫の間の子供で、先を見通して丁重にもてなした。


 しかし、その王子はこの地の元領主で、モーガンとこの国の大臣バルバッセによる策略で他国と通じた罪を着せられ死刑となったクラウス・ルゼリアと繋がっていた。


 罪の発覚を恐れたモーガンは、事故と見せかけ王子暗殺を企てたが、結果は失敗に終わり、逆に幼い王子から脅されている状態である。


「どうすれば、どうすればいいんだ……」


 王子の提示した条件は三つ。領民の為に公正な統治をすること、売国行為をすぐにやめ、相手とはすぐ手を切ること、そして大臣一派の情報を自分に流すこと。


 伯爵と言う地位と領土を手に入れ好き勝手できるという目論見も、やっとのこと手に入れた他国との伝手も全てが無駄となった。その上、大臣との情報を流すなど、自ら処刑台にあがるようなものだ。


「閣下に……」


 ふとモーガンの脳裏に、ルゼリア伯爵を嵌めた時のように、王子のこともバルバッセ大臣に頼ろうかと考えがよぎる。しかしその考えは己の中で否定した。


(いや、だめだ。そうなったら消されるのは私のほうだ。)


 ルゼリア伯爵の時も既に大臣を頼っている。この上、末席とは言え王族に手を出したとが知れれば、大臣の中での自分の価値は下がり、自分が処分されかねないとモーガンは思い至った。


(なら、やれることは……)


 己の身は己で守るしかない、そうモーガンは決断する。幸いにもまだこの失態は大臣にはばれていない。王子も自分が怪しい動きをしない限り、処分はしないだろう。なら表向きでも、王子との取引を飲んでいた方がいい。


 そうと決まればやることは決まっていた。


 モーガンは絨毯の上に投げ出された資料から、昨年の領地に関する資料を、そして書棚からは昨年よりも前の資料を取り出し机の上に広げる。そして一通りの資料を見た後、さきほどとは別の意味で顔色が悪くなった。


「なんだ、これは……」


(土地面積の割には収入が少ない。)


 今までは領民の収入など考えず、税を課していたから気にもとめなかったが、これでは税金の払いが悪いはずだ。


(だが税金は払わねばならない。)


 領地を持つ貴族は、国へと税を納めなければいけない。それが領地を持つ貴族の務めだからだ


(税金を滞納すれば私の評価も下がる。もしそれが殿下の耳に入ったら……!)


 それはまずい、とてもまずいとモーガンの顔色は青を通り越して白くなる。


「誰かいないか!」


 そう怒鳴るとすぐに執事が入室し深々と礼をする。モーガンは書類から目を離さないまま、言った。


「明日、領地を巡回に行く。用意しておけ。」

「は?」


 その言葉に執事の目が点となる。この領主はこの地に来てから一度も領地巡回などしていないからだ。青天の霹靂の如く発言に、思考が停止した執事だったが、反応のない彼に業を煮やしたモーガンは苛立たしげに言葉を叩きつける


「聞こえなかったのか!? 明日領地を回ると言っているんだ!」

「……か、かしこまりました。」


 そう執事は深々と頭を下げ部屋を退出すると、至急明日の為の準備に奔走するのであった。






 翌日、近隣の領地巡回から戻ってきたモーガンは、書斎のソファにどっしりと疲労が蓄積され、脂肪も蓄積されている身体を預けつつ、禿げた頭を悩ませていた。


(このままじゃだめだ。)


 土地が痩せているから作物が育たない。だから収益が見込めず税金が払えない。その上元手がないから土壌改善も出来ない。結果土地はやせ衰え、さらに収入は減り、一度天災が起ればいわずもがな。まさに負の連鎖が起っている現状だ。


 領民に聞けば、それが平常のようないいようだった。収入が少なければその中で質素倹約をする。そういった生活をこの地の人間はしてきたのだ。


「……あの男はなぜここまで放っておいたんだ!」


 自分が嵌めて消した男、ルゼリア伯爵にモーガンは毒づく。


 モーガンは領地を持つ前から、他国の商人と交易する商社を手掛けていた。その取引を有利にするために、国内外に多くの伝手を持っている為、大臣からも重宝されているわけだが、その経営手腕も買われていた。その経験から見ても、この領地の経営状況はひどいのだ。


 前領主のルゼリア伯爵は、民に飢えさせることもなく、土地や治水管理も飢饉への備えも完璧だった。しかしそれでは現状維持は出来ても発展は出来ない。より多くの利益を求める商人から見たらひどい状況なのだ。


 今までは気にも止めなかった、ただ搾取するだけのはずだった地。利用するだけ利用し、全てと毟り取ろうと思っていたが、モーガンは自分の命の為に必死になっていた。


「まずは土壌改善か……たしか公国の商人にいい肥料があると聞いたことがあるな。」


 農業の知識に関しては付け焼刃だ。だがそれでも土の良し悪しが作物の出来を左右するということくらいは解る。


「土だけじゃなく、もっと痩せた土地でも育つ作物をみつけたほうがいいのか?」


 モーガンはぶつぶつと呟きつつ、関連書物を読み漁る。どちらにしても領民の懐事情を改善しなければならなかった。


 もし領民が王子に、自分に対する不満を伝えようものなら、己の命はないのだから。

 







 王都で行われた第七王子の五歳の宴をなんとか終えたモーガン。無垢に見えて悪魔のような王子と、無害に見えて冷血な執事の無言の圧力に耐え、大臣からの不審な視線をなんとか回避し、領地に戻った。


 グリム伯爵領は、領主の伝手と私財を駆使して領地の改善は行われていた。それが功を奏し、少しずつだが領地内の環境は改善されつつあった。


 今日も書類とにらめっこをしているモーガン。ここ最近激務と心労のせいか、出ていた腹の贅肉は減りつつある。


 ふとモーガンは、屋敷の外から聞こえる声に眉を潜めた。


「何事だ?」


 側で書類の整理を手伝っていた執事が主の言葉に反応した。すぐ確認の為部屋を出て行き、戻ってくると、主に報告をする。


「いえ、どうやら領民が押し掛けているようで……」

「なんだと!?」


 声は荒げつつも青くなるモーガン。まさか不満を持つ者が押し掛けてきたとだろうかと懸念した。だが執事はそんな主の心情を察することは出来ず、深々と頭を下げる。


「申し訳ありません、すぐに追い返します。」


 執事の言葉にモーガンは血の気が引いた。


(もし王子の耳に入ったら、私は……!)


「馬鹿なことをいうな!」


 その言葉と同時にモーガンは大股で書斎を後にし、執事は以前のように目が点になったが、すぐさま主の後を追いかけた。

 モーガンが屋敷の外へ出ると、使用人達と領民の男が言い争っているようだった。


「なにごとだ!」

「領主様! 助けて下さい!」


 モーガンの姿を認めた男が、使用人達の制止を聞かずに、モーガンに駆け寄ると、地に膝を付く。そしてモーガンの足に今にも縋りつきそうな勢いで口を開いた。


「妻が、妻が妊娠しているのですが予定日よりもはやいらしく、しかも難産で……医者を呼ぼうにも、医者のいる町とここでは往復するには一日以上かかってしまい、それでは妻が……! どうか助けて下さい!」


 男が額を地面に擦り付けるかのように頭を垂れる。


 この近くには医者はいない。その上男の身形から馬車など持っていないことがわかった。だから男は藁に縋る思いで、領主の館を訪れたことが執事も使用人達もわかった。しかし相手は人情の欠片もないグリム伯爵。ここ最近はなぜか領地経営に没頭しているが、それでもたった一人の平民の為に、なにかをしてやるような男ではない、そう誰しもが思っていた。しかし、その周囲の予想をモーガンは裏切る。


「おい、馬車を用意しろ。」


 予想しなかった言葉に使用人達は反応できずに固まる。すぐに動かない使用人達にモーガンは眉を潜めた。


「何をぼうっとしている! そいつとその妻を医者のいる町まで運べと言っている!」

「かしこまりました!」


 そこから使用人達がバタバタと動き始めたのを見送り、モーガンは踵を返す。


「もしこれで王子の耳に領民を蔑にしていると届いたら、私の命がないではないか……しかし、医者がいないのは問題だな……」


 次は医療問題だと一人呟くモーガン。その背中に、妻を助けてもらえると、遅れながら理解した男は再度額を地面に擦り付けた。


「領主様、ありがとうございます、ありがとうございます!」


 その言葉にモーガンは一度足を止め、背中越しに彼を見た後、何も言わずに屋敷の中へと戻った。


 そしていつも通り書斎のソファに座る。ふと脳裏に映ったのは、お礼を言う男だった。


「ありがとう、か。」


 それはモーガンが久方ぶりに言われた言葉だった。なぜかその言葉がモーガンの耳から離れなかった。








 今日も書斎で仕事に没頭するモーガン。今日は領地に来てくれる医者を探すための書状をしたためていた。何分ここは地方の為、薬も医療器具も手に入りにくい。そんな場所に来てくれる物好きな医者はいるかはわからぬが、やらぬよりはマシだろうと考えての行動だった。

 そんなモーガンの元に執事が訪れる。


「先日の者が参っております。」

「……なんだと?」


 その言葉にモーガンは眉を潜めた。先日の者とは馬車を貸し与えた者のことで、なにか苦情を言いにきたかと思ったのだ。もし文句を言われたとしても、うまくごまかさなければ、それが王子に伝わることだけは阻止せねば。モーガンはため息を漏らし立ち上がった。


 だが屋敷の外でその男と面会したモーガンの予想は外れた。


「領主様!」


 そう駆け寄ってきた男の表情は明るく、モーガンに勢いよく頭を下げた。


「ありがとうございました! 無事に出産出来まして、妻も子もあのように無事でした! 本当にありがとうございます!」


 モーガンが視線を動かせば、屋敷の敷地内の外に止めてある、平民がよく使う貸馬車には、赤子を抱いた女がいて、そちらも深々と頭を下げていた。


「……それは、よかったな。」


 なんといっていいか解らず、モーガンは狼狽えつつ月並みな言葉しかでなかった。そんなモーガンに男は野菜の入った籠を差し出す。


「これは少ないですがお礼です!」

「これは……」

「うちの畑で採れた野菜です。領主様が肥料や新しい作物を支給して頂けたおかげで、今年は豊作なんです。是非食べて下さい!」


 そう言って男は野菜を使用人に預け、何度も頭を下げながら貸馬車に乗って帰っていた。それを呆然と見送り、動けないでいる主に、執事は話しかける。


「本日はいかがなさいますか。」

「……そう、だな。久しぶりに領地の巡回へ出かけよう。」


 そういえば、このところ書斎に引き籠ってばかりで、領地巡回をしていなかったと思いだし、モーガンは言った。

 そして馬車で向かう先々で、モーガンは己の目と耳を疑うことになる。


「あ、領主様!」

「こんにちは、領主様!」

「領主様、今年は豊作です。」

「今年の冬も無事にこせます!」


 行く先々でモーガンは領民に囲まれた。王子が来る前までは、散々虐げていた領民達に、口々にお礼を言われたのだ。去る時も領民達は皆、手を振り見送った。誰も作られた笑顔ではない、媚びた表情でもない、本物の笑顔で。


 呆けたまま、領地巡回から屋敷に戻ったモーガンは、夕食にならんだ食事を見る。執事曰く今日男が持ってきた野菜をメインにした料理の数々だ。


 スープを掬い口に運ぶ。


「……うまい。」


 モーガンの口から言葉が零れた。


 元々肉を好むモーガンだったが、王子に会ってから食が細くなった。おかげで肥満体怪我改善されつつあったが、食事を美味しいと感じることがなかった。

 食事を終え仕事をする気が起きず、モーガンは一人居間にいた。ソファに座り、執事が用意した酒を飲みながら、思考の海に潜っていた。


(なぜだ?)


 そう自分に問いかける。


(金も増えないし、苦労ばかりしているはずなのに……)


 あの男を貶めて手に入れた地位と富。この領地を手に入れた時の高揚感は忘れてはいない。


 だが、苦労しつつも領地を改善し、結果領民達には笑顔に触れ、利益も増えている今は、あの時の高揚感よりも感じるものがあった。まるで乾いた大地が水で潤うが如く、心が満たされていた。


「……わからない。」


 なぜ今になってそう感じたのか、モーガンは理解が出来なかった。


 だが理解できずともグリムのやるべきことは決まっていた。


 翌日からもモーガンは領民達の為に知恵を絞り、伝手を駆使し、領地を豊かするため奔走した。時には領民達と共に鍬を持ち畑を耕した。国内では手に入りにくい珍しい作物を領地で育て特産としたり、隣町への道を整備したりした。

 同時に大臣にばれぬよううまく上納金を工面しつつ、他国への裏取引をうまく拒否した。


 うまくいかないこともあったが、努力した分だけ少しずつだが成果はでた。


 気が付くとハーシェリクと取引をしてから二年近くがすぎようとしていた。






 パチリ、と暖炉の炎が音を鳴らす。明日には新年を祝う宴へと出席する為、出立せねばならないが、寝つけず居間で暖炉の揺れる炎を見ていたモーガン。そんな彼に、彼の妻が話しかけた。


「あなた。」

「おまえか。」


 視線を動かし妻の姿を認めたモーガンは少々目を見張る。妻から話しかけてくることは珍しかったのだ。王都で育った貴族の彼女は、なにもない地方に来ることを最初から拒んでいた。しかし王都に一人残すことも出来ず、無理やり連れてきたため、家庭内別居の冷戦状態だった。


「休まないのですか?」

「ああ、少しな……」


 妻の言葉にモーガンは答えつつ、少し悩んだ後、口を開いた。


「おまえ、離婚をしよう。」


 その言葉に妻が息を飲んだのがわかったが、モーガンは言葉を続ける。


「私は、罪を犯した。」


 それはかつて、罪を罪だと感じなかった己への断罪でもあった。


「無実の者を貶めて、己の利益だけを考えて生きてきた。」


 己だけの利益を追求し、法を犯し、権力者を利用した。それがあの頃は当たり前だった。


『この世界は強き者、賢き者が生き残るんだ。他の愚かな者は使われて死ぬか、反抗して死ぬかのどちらかだ!』


 かつてそれはルゼリア伯爵に叩きつけた言葉だった。


「でもそれは間違っていた。」


 王子に脅されて自分の命の為に領民に尽くした。全ては自分の為だった。だが今では、領民の為に、この地を豊かにしたいと思えた。同時に、彼らからルゼリア伯爵を奪ったという罪の意識が、モーガンを責めた。


 すぐにでも罪を告白したかった。裁かれたかった。だがそれでは、己の罪に気づかせてくれたあの王子の不利になるとも理解をしていた。あの大臣は、そういうところを見逃すことはしない。下手に動けは自分だけなく、王子をも巻き込みかねない。


 もし自分が罪を告白出来る時がくるのは、あの王子が大臣の罪を暴くまで、それまでは己のできる事をしようと決めていた。


 しかしそれは己の罪であって、妻や使用人達の罪ではない。巻き込むべきではない。


「私達には幸い子供はいない。一生困らぬよう金は渡す。だから……」

「嫌でございます。」


 モーガンの言葉を妻は落ち着いた声音で拒否した。


「わたくしは、結婚した当初、あなたの事は嫌いでした。」

「……知っている。」


 妻は元々名家の貴族令嬢だ。だが名家とは言っても名ばかりの貴族で、財政は右肩下がり。そこでモーガンは資金援助の見返りに、名家という家柄を手に入れる為に彼女と結婚したのだった。そんな経緯だからこそ、彼女に嫌悪感を持たれていたのは知っていたし、愛情など求めていなかった。


 頷くモーガンに妻は言葉を続ける。


「わたくしの事は貴族の娘という家柄だけで結婚して、いつもお金や名声ばかり求めていた、まるで飢えた獣のようなあなたが嫌いでした」


 当時の事を思い出し、眉を潜める妻。一呼吸おいて言葉を続ける。


「ですが、わたくしも同じです。あなたと結婚すれば、少なくとも貧困に喘ぐことはないと思っていましたから。」


 そしてふと表情を緩める。


「でも最近、あなたのことはきらいではなくなりました。」

「なくなった?」


 瞳を見開く夫に、妻は言葉を続けた。


「ええ、だってあなた、最近とても生き生きと働いておりますもの。表情も昔と比べ随分穏やかになりました。屋敷内の使用人達からも評判はいいのですよ。」


 屋敷内を取り仕切るのは妻の役目だった。昔は夫の評判はよくなかった。傲慢で不遜、使用人を物のように扱っていたからだ。それでも貴族の屋敷で働けば、一般人よりは多い収入が得られる為、耐えて勤める使用人が多かった。


 だがここ最近は夫の評判はよく、さらには最近思い出したようにふさぎ込む主の心配をする声も聞こえた。


「それに前に一度領地を馬車で通った時、領民達はみな、わたくしの乗った馬車に向かってお辞儀をしたのです……きっとこれはあなたが行ってきた結果なのでしょう。」


 昔と違い、夫がいい方向へと変わったことは明白だった。


「わたくしは領地経営もなにもわからない女で、あなたの助けにはなりません。だから最後まで一緒にいるくらいしかできません。」


 本来なら夫を諌めるのは妻の役目だった。だがそれを破棄し、豊かな生活だけを求め、見て見ぬ振りしたのは己の罪だと感じていた。


「だからわたくしは死ぬまで、あなたの妻です。」

「……ありがとう。」


 妻の言葉にモーガンは目尻を押える。そうでもしなければ、涙が零れしまいそうだったからだ。そんな夫に妻は微笑みを浮かべる。


「あら、はじめてお礼を言われましたわ。」


 ほほほ、と上品に笑いを浮かべ、夫に休むよういいつつ部屋を後にする。ふと今を出る直前、未だに動けないでいる夫に妻は言った。


「あと一つ、太っているより痩せている今のほうがいいですわ。」


 その言葉にモーガンはつい、泣き笑いしてしまった。







 新年の宴の席、モーガン・グリムは人を探していた。そして目立たぬ壁際の、その人物を見つけ、モーガンは己の中に歓喜にも似た感情が込み上げる。

 漆黒の髪の執事と、黄昏色の髪の騎士を両脇に控えさせ、淡い色の金髪を揺らし談笑する、初めて会った時より年月を重ね成長した王子、ハーシェリク。


「殿下! ハーシェリク殿下!」


 自分の高ぶる気持ちを抑えることが出来ず、モーガンはその尊き名を呼びながら駆け出した。





以上、グリム伯爵が改心するまでのお話でした。

ハーシェリクに怯える→領民にチクられたくないから一生懸命働く→改心する、という流れです。


グリム伯爵は初期の頃は抹殺予定だったんですが、いろいろ話を詰めていくととりあえずは殺さない方向になり、最後は改心しちゃったというのは裏話です。


ちなみに光の英雄編で彼は領民に己の罪を全て話しています。

その上で領民は彼を許したということは、かれは短編に書ききれなかった以上に、領民に償いも含めて尽くしたことでしょう。


2015/5/5 楠 のびる

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