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転生王子と泡沫の夢


2015年元旦に活動報告でアップしました超短編です。

原作より二十年以上後のお話(?)です。





 とある館の一室。その館の主は、自室にいた。

 年が明けたばかりのその日は新雪が積もり、館の窓から見える景色を白く変えた。そんな雪景色が見える窓の側、館の主はソファの背もたれに背中を預け小さな寝息を立てている。


 館の主は青年だった。ただ二十代前半に見えるのは容姿のみで、既に三十を超えている。その淡い色の金髪が窓から降り注ぐ光を受け仄かに輝き、一流の芸術家が苦心するであろう美しく整った顔の嵌った碧の瞳は現在閉じられ、肘掛けに立て肘をついた手に頭を預け夢の世界を旅していた。


 夢の世界では懐かしき人々の笑顔が溢れ、眠っている彼の口角も自然と持ち上がる。


 そんな彼の自室にノックの音が響く。だがその部屋の主は起きる気配はない。業を煮やしたのか扉が開き、執事の壮年の男性が訪れた。彼が室内に視線を彷徨わせると、窓際に主を見つけ小さくため息を漏らす。


 執事が静かに近づくと、主の目の前のテーブルの惨状が目に止まった。銀古美の懐中時計が無造作に置かれ、三割ほどしか残っていない紅茶の入った飲みかけのカップが放置され、更には幾多の書類が散乱していた。

 しかしその書類は既に主のサインが署名されていた為、執事はその書類を集めようと手をかける。だが書類の擦れる音が響くと、数瞬遅れて主が呻いた。さらに主がうっすらと瞳を開くと、その翡翠のような碧眼が目の前の執事の姿を映し、一瞬呆けた後苦笑を漏らす。


「ああ、ごめん『黒』。ちょっと寝ちゃったよ。」

「気にするな。疲れているんだろう?」


 主に対して敬語を使わない執事。普通なら許されない事だが、既に三十年近く共にいる彼らには敬語など不要だった。それにこの主は必要な場合を除き、家臣達に堅苦しい対応されるのが苦手だった。


「……懐かしい夢をみたよ。」


 そう瞳を細め主は言う。


 その夢は遠い記憶。この国に生れ落ち、必死で駆け抜けてきた年月。

 多くの痛みを経験し、多くの悲しみを背負い、そして多くの笑顔に支えられた日々。


 主の言葉に執事は答えずただ耳を傾ける。主が言葉を必要としていないとわかったからだ。それは長年連れ添った彼だからこそ、主の心情を察することができた。


「『橙』と『白』は?」


 ふと主は自分の腹心達のことを思い出す。


「筋肉馬鹿はすぐに戻ると言って出かけて行った。魔法馬鹿は部屋で子供達に魔法を教えている。」

「そう。……『橙』には悪い事したな。」


 そう申し訳なさそうに主は呟く。本来この時期は王都の新年を祝う宴へと出かけているのだ。『白』は兎も角『橙』は王都に家族がいる為、久々の里帰りのはずだったのだ。


 しかし問題が発生した為、王都行きは中止となってしまった。彼が不在でも処理できる案件だった為、一人でも里帰りをすればいいと主は言ったが『橙』は結局主の元に残ったのだった。


「あいつが好きで残ったんだ。気にすることはない。」


 執事の言葉に主は苦笑を漏らす。この『黒』と『橙』は自分と同じくらい付き合いが長いというのに出会った当初のまま仲が悪い。お互い信用はしているだろうが。


「そういえば王都から手紙が届いていた。」


 そう言って執事が懐から取り出した手紙。主は受け取り差出人を確認する。


「ああ、兄上……陛下からか。」


 そう言って手紙を開ける。王には少々問題が起こったため欠席すると伝え、周りには体調不良ということにしといて欲しいという旨の手紙を出していた。その返事である手紙には了承した旨と労わりの手紙だった。そして中にはもう一つ手紙が入っており、それを読んだ主の顔に笑みが零れる。


「どうかしたか?」

「……ん? ああ、甥っ子からね。早く元気になって下さい。そしてお話を聞かせて下さい、だって。」


 幼い甥っ子を騙したことには少々胸が痛んだが、拙い文字で書かれた文字からは、一生懸命さと労わりの心が感じられる。


「そういえば『紅』と『青』の戻りは? 『緑』や他の皆もそろそろ?」

「今日明日には戻る予定だ。」

「わかった。戻ったら報告を聞いて対策を立てよう。」


 執事の言葉に主は頷き立ち上がる。


「我が国に手を出した事、後悔させてやろう。」


 そう主の青年は、人好きする微笑みを浮かべたのだった。






 ハーシェリクは瞳を開ける。目の前には見慣れた天井があり、珍しくクロが来る前に起床できたようだった。


(あれ、なんか夢を見ていた気がするんだけど……)


 そうハーシェリクは寝たまま首を傾げる。だが思い出そうにも、夢は泡沫うたかたのように割れて消えてしまったようだった。

 結局、ハーシェリクは思い出すことを諦めて身体を起こすと、ベッドから降りて窓に近寄る。窓の外には真っ白な雪景色が広がっていた。





以上、泡沫の夢でした。

お正月に活動報告に上げた超短編ですが、少々文章を加筆及び修正し、自分が読み返すように短編集にあげました。

作中には次回作以降に出てくるキャラを予告編的にいたりします(笑


ちなみにハーシェリクが三十代となると、シロを除く筆頭達は四十代になる計算……渋みが出ていいかもしれないですな!(笑


2015/3/28 楠 のびる

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