転生王子の筆頭執事の一日
時期は憂いの大国編が終わった後一か月後くらい。
ハーシェリクの筆頭執事クロの一日のお話です。
グレイシス王国第七王子ハーシェリク・グレイシスの筆頭執事であるシュヴァルツ・ツヴァイク、主からはクロと呼ばれる彼の朝はとても早い。
ハーシェリクは朝七時頃に起床するが、その執事であるクロはそれよりも二時間以上前に起床する。寝起きにシャワーを浴び、目が覚ますとまず簡易的だが仕立ての良い身軽な服に着替え王城の調理場へと向かった。
「ツヴァイク様、おはようございます。」
調理場にクロが顔を出すと、すでに見知った若いシェフが下ごしらえを始めていた。
「おはようございます、今日もお邪魔します。」
クロは完璧な爽やかな笑顔を向け挨拶する。彼の本性を知る人間がいたら目を疑っただろう完璧な外面である。
だがそれも仕方がない。部下の行いは主への評判へと直結していると言っても過言ではないのだ。ハーシェリクの為ならばクロは猫の皮を何十枚も被る。
「料理長、本日もお邪魔させて頂きます。」
動き回る料理人達の邪魔しないよう進みクロが挨拶をしたのは、この調理場の主である料理長である。無愛想な職人気質の彼はクロに視線を向けただけで挨拶はせず、首を一度だけ縦に動かし頷いた。これが彼の挨拶であり許可と同義。クロは調理場の隅を借りハーシェリクの為の朝食を作り始める。
(メニューはオムレツと温野菜、スープにパン。後は果物をつけよう。)
朝食のメニューが決定するとクロは庖丁を握る。なぜ王族専属の料理人がいるというのにハーシェリクの食事を彼が用意をするのか。それはハーシェリクが以前こぼした言葉が原因だった。
「ちょっと、味濃いね……。」
彼が苦笑交じりに漏らした言葉。もちろんそう言っても彼は食事を残したりなどしない。ハーシェリクは年齢の割にわがままを言わないし、これが国民の血税だと理解していたし、野菜も畜産も人々が汗水流して育て、それを料理人達が丹精込めて作ってくれていると解っているからだ。だがハーシェリクは食が細く薄味を好む傾向がある。濃い味も嫌いじゃないが、朝から濃い味の朝食は辛いようだった。
一度ハーシェリクの意見で薄味の朝食となったが、それは別の王子から苦情が来たらしくハーシェリクも「僕は大丈夫だよ。それに別々の食事を作るのはみなさんの手間でしょう?」と言い引き下がった。
だが主はよくてもその執事はよくない。クロにとって主はハーシェリクだけで王家でない。極論いうなら他なんてどうでもいいのである。
そこで彼は料理長に交渉し、朝食だけは自分で用意すると申し出たのだった。初めは渋っていた料理長だったが、クロが他の料理人の邪魔はせず、彼の料理が他料理人と引けをとらない腕前だった為朝食のみ許可が降りた。しかもクロは自分の料理を進めつつ、周りの手伝いも進んでやるのだ。人柄、というよりは外面のおかげで彼らの信頼も得て重宝されている。
クロはまずスープの下準備を始める。皮のついたままの鳥肉を水の中にいれ火にかける。灰汁を丁寧に取り除き、出汁を出し切ったら肉を取り出す。そこに細かく切った香草や野菜を入れて調味料で味を調え煮込む。
(ハーシェは生野菜が苦手だからな。)
次にクロは葉野菜や根野菜を適度な大きさに切り、蒸し器に入れ温野菜のサラダの準備をする。
ハーシェリクは決して出された食べ物を残さない。だが好きな食べ物と比べて、苦手な食べ物は少し遅くなる傾向がある。それを見逃すクロではない。ハーシェリクは生野菜がどちらかといえば苦手だが、蒸したり煮たりする野菜は好きなのだ。スープの出汁として使った鶏肉を裂き温野菜の上に乗せサラダを作る。
(オムレツには玉葱、イモ、きのこを細かく刻んで、チーズも入れて焼く。)
これは以前ハーシェリクがとても好んでいたからだ。また食べたいと言っていた事を思い出し材料をもそろっていた為、本日のメインとなった。プロ顔負けのふんわりとした具入りオムレツを完成させる。
合間に他の料理人の下ごしらえの手伝いをしつつ季節の果物も用意し、全てが同時にできるように時間を調整した。もちろん小食のハーシェリク用に量を調整してある。飲み物を用意しパンだけは焼き立てを係りから受け取り、クロは朝食の載ったワゴンを押して料理場を後にした。
クロは一旦自室により素早く身形を整えて主の部屋に向かった。
主の部屋の前で立ち止まりノックをする。だが中から返答はなく、クロはため息を漏らした。
(またか……)
クロは躊躇せず扉を開け部屋に入ると、テーブルの側にワゴンを置き寝室へと向かった。
そして寝室の扉もノックせずに開け放つ。寝室は厚手のカーテンが朝日を遮り、その隙間からの光のみが室内を照らしていた為薄暗かった。クロの視線の先にはベッドの上で規則的に上下に動く小さな山だ。
「やっぱり……」
そう言って再度ため息を漏らすとクロはベッドに近づいた。彼の予想した通り、ベッドの上では彼の主がうつ伏せで寝息を立てていた。微かに零れた朝日が、彼の淡い色合いの金髪を輝かせている。そして枕元どころか、顔の下にまで書類が散乱していた。昨日あれほど注意したのに、夜更かしした証拠があちらこちらに散らかっていた。
「まったく……ハーシェ!」
「……ぁぃ。」
クロの言葉に彼の主、ハーシェリクは小さく返事する。だが一向に動かない主に、クロは何度目かわからないため息を漏らすと上下する布団の端を掴む。そして思いっきり引っぺがした。従者がするとは思えない思いっきりの良さだった。うつ伏せになって丸まる様に眠っていたハーシェリクは、広いベッドの上を思いっきり転がる。
「……ふぉ!?」
変な声を上げたハーシェリクは慌てて起き上がりあたりを見回す。そして自分の執事と目があった瞬間、ゆっくりと口角を持ち上げて誤魔化すように笑った。
「……おはようクロ。今日はいつもより早いね。」
「おはようハーシェ。いつもと同じ時間だ。夜は調べ事はほどほどにして早く寝ろといつも言っているだろう?」
クロの咎める言葉にハーシェリクは視線を泳がせる。
「……寝たよ?」
視線を逸らしあらぬ方向を見てハーシェリクは言う。その言葉にクロは無言で鏡を彼に向ける。
ハーシェリクが鏡をみると自分の顔が映っていた。鏡の自分の頬には複写された書類の文字もばっちりと映している。
「……ごめんなさい、もう寝坊はしません。」
「そのセリフも何度目だか。寝坊よりも早く寝ることに気を使え。ほら早く顔を洗ってこい。食べる時間がなくなるぞ。」
クロの言葉に欠伸を噛み殺しながらハーシェリクは返事をしたのだった。
ハーシェリクはクロ特製の朝食を満足し終えた後、時間を置いて自室で教師を招いて勉強の時間に入る。
その間クロはハーシェリクの食事の片づけをし、自分の遅い朝食を済ませ自室で事務仕事をこなす。主が使用する備品の申請や届いた手紙の選別等の正規の執事の仕事から、裏で集めた情報の精査や書類の整理まで内容は多岐にわたる。
そうこうしている内に昼が近づきハーシェリクの勉強時間も終わが近づいた為、クロは厨房へハーシェリクの昼食をとりに向かった。
「ツヴァイク様!」
厨房に向かうクロを女性の声が引きとめる。
「これはモナさんこんにちは。今日も素敵ですね。」
呼び止めた女性にクロはにっこりと微笑む。普通の人間が言ったなら引くような気障なセリフも猫の皮を何重にも被ったクロが言うと様になる。その証拠に、クロの微笑みに当てられた後宮で働く侍女であるモナは頬を紅く染め、それを隠すように頬に手を当てた。
「あの、よかったらこれをどうぞ……」
そう言ってモナが差し出したのは綺麗に包装された袋だった。微かに香る匂いから焼き菓子が入っているのだろうとクロは予想する。だがあえてクロは首を傾げてみせた。
「私に、ですか?」
「はい、先日焼き菓子を多く作ってしまったもので……ツヴァイク様に食べて頂けると嬉しいです。」
頬を真っ赤に染めていう彼女。誰が見てもクロの為に作ったことがわかるが、あえてクロは何も言わず微笑んでその袋を受け取る。
「ありがとうございます、後で頂きますね。また今度お礼にお茶でもいかがですか?」
「えっ?」
クロの言葉に、期待で瞳を輝かすモナ。クロはその笑顔のまま言葉を続けた。
「珍しい茶を手に入れたので、皆さんにおすそ分けしようと思っていたんです。そちらの皆さんもいかがですか?」
クロの視線の先をモナが追うと、同じ職場の友人達がこちらを見ていた。その眼にはありありと怒りが籠っていて、モナは自分の血の気が引いていくのがわかった。
クロは筆頭執事に就任してから、侍女達の間で人気が急上昇中である。容姿もさることながら有能であり、性格も紳士的だ。貴族の末席だがツヴァイク子爵家に連なる者であり、末王子の筆頭執事であり、王の唯一の側近であるルークの覚えも目出度い結婚相手として超優良株である。地位を除いてもその容姿と紳士的な態度の中に見え隠れするミステリアスな雰囲気は、侍女達の乙女心を擽るには十分だった。
後宮で働く侍女達は子爵や男爵の令嬢が多い。花嫁修業がてら将来有望な花婿を探すことも目的としている。クロは彼女達にとって有力な旦那様候補の一人なのだ。
最初の頃は遠目で見ていた彼女達も、時が経つに連れアプローチを開始した。食べ物でつってみたり色仕掛けをしてみたり。だがそれをクロは逆手にとり、逆に女性達を虜にしていく。そのおかげで侍女達の間では抜け駆け禁止の暗黙の了解が出来、モナのように目を盗んで近づこうものなら制裁が発令するのだ。
その状態をもしハーシェリクが見ていたのなら「ホストだ、ナンバーワンホストが……夜の帝王がいる!」と叫んでいただろう。クロにとってその手管は密偵活動の一環で手に入れた能力にすぎないが。
「今度、休憩室にお邪魔しますね。またみなさんのお喋りに混ぜて下さい。」
そう言ってクロは礼をするとその場を後にした。こう言っておけば彼女達は自分を楽しませる為に城内外問わず、いろんな情報を仕入れておいてくれるだろう、と予想してだ。
ただモナに関してはこの後少々ひどい目にあうだろうが、クロは感知しないこととする。女達の戦いに男は口だししない事に限るのである。
ハーシェリクは昼食を終えると、午後は町へ行くと言いだした。
「今日はルイさんに会いにいく約束だったし。」
その一言で午後は城下町にお忍びで出かけることが決定する。
以前、なぜハーシェリクにわざわざ城下町に出かけるのかクロは問うたことがある。周知されていないがハーシェリクはこの国の王子であり、常識的に考えて幼児の一人歩きは危険だ。初めて城下町で見かけた時は、驚きすぎて呼吸困難になりかけたほどだ。勉強だけなら城でも出来る。危険を冒してまで城の外に出る必要はない、とクロはハーシェリクに言った。
クロの言葉にハーシェリクはうーんと考えた後こう答えた。
「知識と現実は違うと思うんだよね。私が学ばなくちゃいけないことは城の中だけじゃなく外にもある。」
ま、城の外も楽しいしね、と冗談めかしていうハーシェリクに、クロは渋々主が外出することを渋々了承したのだった。ただし外出する時は自分を伴うことを条件としたが。
それでもこの主は何度か執事の目を掻い潜り外出しては、配下であるはずの執事に説教をされているが。
王子の望み通り午後は主の護衛兼果物屋の力仕事要員をこなしたクロは、城に戻るとハーシェリクの夕食と風呂の準備をする。
「俺は出かけるが夕食と風呂を済ませたら早く寝ろよ。」
「わかった。クロ気を付けてね。」
ハーシェリクのわかったという返事ほど当てにならないものはないが、クロは食事をする主に見送られ部屋を後にする。自室に戻ると執事の服から平服に着替え、窓から外へと飛び降りた。三階から飛び降りたにも関わらず、怪我どころか音も立てることもなかったのはクロの力量だろう。
そのまま王城を覆う巨大な結界の、隙間からクロは夜の町へと出かけて行った。
今夜の行先は酒場だ。様々な会話が飛び交うその場所は、情報収集にはうってつけだった。
情報収集と言っても明確な目的があるわけではない。酒で口が軽くなった人々の噂話や愚痴の類を集め、その情報を元に国の権力者達の後ろ暗いことを調べ上げたり、地方の情勢を知ったりすることが目的だ。
火のないところに煙は立たないというが、後ろ暗いことがなければ変な噂はたつことはないし、噂本人に後ろ暗いことがなくてもその噂を故意に流した人物はかなり怪しい、というハーシェリクの言葉だ。ハーシェリクの言葉通り、貴族の館に勤める使用人や城の兵士達が愚痴を言い合う酒場や花街では、いくつもの噂話や愚痴という情報が行きかっていた。
これまでにも酒場や花街で仕入れた情報で、不正をしている貴族や官僚を発見したこともある。その者達については「時が来たら必ず……逃がしはしない。」と彼の主は言っていた。
ということでクロは今日も情報を集める為に、酒場の隅に目立たぬよう陣取り、酒を傾けつつ、客たちの会話に聞き耳を立てていた。
店に入って一時間ほど経った頃、一人の男が彼に近づいてきた。
「よお『影の』、わしの店の酒はどうだ?」
にやりと口角を上げながら陽気に話しかけてきた恰幅のいい五十代手前の男はこの店のマスターであり、裏ギルドに所属していたクロの元同業者だ。
人には言えないような仕事を斡旋する裏ギルドは、全てのことが金で片付くギルドだ。ギルドに敵対しない限り、高額な金さえ払えばギルドを脱退し彼のように表の職業につくことが出来る。ただギルドの情報を漏らした人間は、哀れな末路を辿ることとなるが。クロ自身もハーシェリクの筆頭執事になった時に手切れ金としてギルドに高額な金を支払っている。
クロは裏ギルドに所属はしていたが、そこに仲間と呼べる人間はいない。彼を利用しようと近づいてくる者はいたが、全てを文字通り力づくで黙らせた為、彼はいつも一匹狼だった。
だがこの酒場のマスターとクロの関係は少し違う。
クロがこの国に流れ着いた時、彼が裏ギルドを紹介してくれたのだ。彼はクロがギルドに入って少し経つと裏稼業から足を洗いこの酒場と言う自分の城を手に入れた。その酒場は酒と料理が美味く、多くの人々が集まっている。
「いつも通りだ。」
そう簡素な答えを返しクロは酒に口をつける。その様子に面白そうに酒場のマスターは彼を見る。
「聞いたぞ。ついに『影の牙』が死んだって。ここ最近ギルドに顔を出さないからそんな噂が立っていたがやはりデマだったか。」
「俺には関係のない話だ。」
「……その様子だと居場所を見つけたみたいだな。」
マスターの言葉にクロの視線が鋭くなる。
「……どういう意味だ?」
そう言うクロの片手にはナイフが握られていた。ただ机の影だった為、他の客達が気がつくことはない。クロの視線を受けたマスターはやんわりと首を横に振って見せる。
「深い意味はない。ただわしはお前があんなところに収まるような人間だとは思っていなかった。あの頃は死んだような目をしていたのに、今日久々にみたお前は別人のようだ。」
オーナーは手に持っていた焼かれた肉を置く。この店名物の極上肉に特製のソースがかかった逸品だ。
「また食事しにこい。」
その言葉を残しマスターは厨房へと戻っていく。
「ふん……」
クロは一度鼻を鳴らすと肉にフォークを突き刺して口に入れる。名物の逸品らしく、肉は舌で蕩け酒にもよくあう味付けをしてある。
昔、ギルドでマスターの噂を聞いたことがあった。
彼は病気の息子を助ける為に裏ギルドに身を置いていた。裏ギルドの仕事は危険な仕事が多いが、その分高額な報酬が出る。息子の病気には多額な治療費が必要で、彼は裏ギルドの仕事をしていた。だが結局息子は死に、ギルドを脱退する為の金を払っても多くの金だけは残り、その金を資金にしこの店を開いたのだった。
クロと彼が出会ったのは、クロがこの国にきて路頭に迷っていた頃であり、彼の息子が死んだ後だった。素性の怪しい自分は冒険者ギルドなど正規のギルドに入ることはできなかった為、いっそのこと売春宿で男娼として身体でも売ろうかと思っていた時に彼に出会い裏ギルドを紹介された。
(彼に会わなかったら俺はハーシェと出会うこともなかっただろうな。)
そう思いクロは情報収集しつつも酒と食事を楽しんだ。
情報収集を終えクロは暗い廊下を音立てず進む。既に深夜を回った城内は明かりもなく、静寂が支配していた。
主の部屋にこっそり侵入すると、主はベッドにいた。ベッド脇に備え付けられた灯りは灯ったままだった。
クロがゆっくりベッドに近づくと既にハーシェリクは枕に突っ伏して寝息を立てている。その枕の周辺にはクロが午前中にまとめた資料とさらに彼が集めたのであろう資料が散乱していた。
(またか……)
クロは内心ため息を漏らす。状況からみて察するに、また遅くまで資料を集めたり読みふけっていたりしたのだろう。クロは手早く資料をベッドから撤収し、うつ伏せでは首が痛いだろうとハーシェリクを仰向けにしようと手をかける。
「ん……」
ハーシェリクが小さく呻き、瞳を開ける。そして思わず動きを止めた自分の執事に眠気眼だが微笑んでみせた。
「……クロ、おかえり。無事でよかった。」
それだけ言ったハーシェリクは、落ちてくる瞼には逆らえず眠りへと意識を沈めた。その様子にクロはほっと安堵しハーシェリクに布団をかけると部屋を後にした。
主を確認し暗闇の中自室へと向かうクロは、ふと過去を思い出す。
(あの頃はこうなるとは思わなかったな。)
既に遠くなってしまった過去。まだ別の国にいたあの頃はいつもこのような暗闇の中を歩いていたような覚えがある。
『この役立たずがッ』
そう投げつけられた言葉。絶対的な存在だと信じていた者に裏切れた瞬間だった。
(あの頃はもう誰にも仕えることはないと思っていたが。)
思わず微笑を漏らす。もし昼間の侍女達が見ていたら、歓声を上げていただろう。
クロの運命はハーシェリクに出会って変わった。
日陰で生き闇の中で骸となると思っていた自分が、今は日の当たる場所で生きている。
クロはずっと求めていた。自分の全てを捧げてもいいと思える人物を。それが彼だったと今なら確信持って言える。
ハーシェリクは完璧な人間ではない。だが多くの人々を見てきたクロにとって、彼はまさに大器だった。
その彼がこれからどんな風に成長し、世界を変えていくのか、すぐ側の一等席で見ていたかった。見るだけでなく、助け支えたかった。
あの頃とはちがう、自分の意志でそう思うことができた。
「さて明日の朝食はどうしようか……」
きっと彼は何を作っても美味しいというだろうが、と心の中で付け加え彼は自室へと向かうのだった。
短編、世話焼きクロさんの一日でした。
クロさんの過去に関しては本編ではあまり触れてないので、結構疑問な点が多いと思います。
なぜ彼があんなに密偵として優秀なのか、ハーシェリクに忠義を尽くすのか等は彼の過去に原因があるのですが、それはまた本編に出せたらと思ってます。
バレバレかもしれませんが、予想はそっと心にしまっといてくださいね(笑
それでは!
2014/10/12 楠 のびる