蛇を拾った人間の気持ち
一瞬の閃光。
目の前には見上げる程に巨大な竜。
り ゅ う だ と
右を見て。
左を見て。
また、右を見る。
うん。明らかに戸惑ってマスネ。
『下等な人間め。よくぞここまで来たな(戦う気マンマン)』と言うよりは、『あれ?あれ?ここ……どこ?』と言う感じなのがよく分かる。
もしかして。
何らかの事故か、召喚系の魔法の暴走か?
こちらへの敵意よりも明らかな戸惑いを感じて、身体に懸かった瞬間冷凍はやっと溶け始めた。
「ぴぃぴぃ、きゅうぅ」
「ぴぴぃ、ぴぃ」
おや。
思ったより可愛い声だね。もっと、こう『ゴアアアアァァ』みたいなの想像してました。
こちらへ向かって何かを一生懸命話してはくれているのだが。
「うん、全然分からん」
その声を聞いた竜は───こちらの言葉は分かるらしい──リアルorz状態です。
うん。
竜のorzなんて、珍しいもの見たね。
とその時。
ふと目に入った左の袖口からは、いつもの──姿が見えなかった。
いない。
いつも左腕に巻き付いていた小さな白蛇が。
どこいった!?
魔獣と一緒に吹き飛んだのか?
竜の召喚魔法の反転作用に巻き込まれたのか?
それとも。
まさか。
竜の し た じ き に
真っ青になって右往左往したけど。
まさか。そんなこと思わないだろ?!
あんなに小さな蛇が、竜になってるだなんて。
見上げるほどにでかい身体。
神剣を使っても傷ひとつ付けられないような鱗。
それが、あの、ちびだなんて。
こっちを見るうるうるの眼。
ぽたぽた流れる涙。
うん。
そんなにじーっと見なくていいから。
もふもふに夢中になって、置いていったりしないからっ。
だから、瞬きをしてくれっ。
めぢからが強すぎて、正直コワイです。
でも、まさか、街へは連れて行けない。
降りるとこに困ると言うのもあるけど。
一回、何も考えずに連れて行ってヒドイ目に合いました。
街の中は上を下への大騒ぎ。
よく考えたら、当たり前だ。伝説の──お伽噺にしか出てこないような存在が、目の前に。
不思議なことに、ただの一人も『偽物だ』とか『幻に決まってる』とか言うやつはいなかった。
本物を見たことがあるやつなんて、いないのに。
お伽噺の挿し絵だってひとつひとつ違うはずなのに。
みんな見た瞬間に『竜だっ』って思ったらしい。
──もちろん、あとで聞いた話(噂)だけどね。