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「おー辻堂。生きてたかぁ」

 母屋に戻ってきて開口一番の呑気なタギの声に、辻堂は眉を顰めた。

「投げ飛ばされて軽く脳震盪(のうしんとう)を起こしていただけだ」

 吐き捨てるように辻堂は言い、タギを睨んだ。

「何故逃がした?」

 低く押し殺したような声にタギは薄く笑う。

「そうしたかったから」

 簡潔な答えに辻堂はこれ以上ないほどに眉間にしわを寄せ、溜め息を吐いた。

「お前の仕事は何だ?」

「オトが受けた『辺境の鬼の生態調査』の手伝い」

 その答えに辻堂は舌打ちし、タギを睨めつけた。

「違うだろ? てめぇの仕事は鬼殺し、だ。(のぞみ)の娘とは関係ないところの話だ」

 辻堂の口調が荒っぽいものへと変わる。彼はネクタイを緩めながら髪をかき上げて言った。

「てめぇ、まさか今までもこういうことを繰り返してたんじゃねえだろうな」

「さて」

 どこまでも飄々としたタギの態度に業を煮やしたように辻堂は深く嘆息してから顔を上げ、早口で告げた。

「一度帝都へ戻るぞ」

「面倒だなー」

 そうは言いながらも、微笑は絶やさない。

「命令だ」

 辻堂のその冷たい声にすら、貼り付けたような笑みが崩れることはない。

「背けば大帝陛下及び国家への叛逆(はんぎゃく)の意思ありと見做(みな)す。……つい今しがたのお前の行動はお前に課せられた義務に反するものだ。至急帝都へ戻り、査問委員会(さもんいいんかい)にかかってもらう」

 そう告げた声にはどこか苦渋が滲んでいる。

 だが告げられた調本人は何も感じていないかのように軽く笑った。

「どーぞ御随意に」

 白み始めた空を眺めながらタギは冷めた声で答え、小さく呟いた。

「また、オトに怒られるなぁ」

 そして林田家のその年の赤い寒椿が落ちると共に、長く続いた家の歴史も幕を閉じた。

                                       了

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