表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

この話は単品でもお読みいただけるようになっていますが、『三ツ世巡り』、『三ツ世巡り 幕間』の続編となっています。

 石畳を規則的な足音と衣擦れの音が這ってくる。それは丁度彼の目の前で止まった。

 そして格子の向こうの男が敬礼する気配。

 だが足音の主はそれに答える気配すらない。ただ隠す様子など微塵もない怒気を全身から滲ませて見下ろしていた。

「――顔を上げなさい」

 言われるがまま顔を上げると、切れた唇や腫れた顔が痛んだ。

 そうして大きな黒い瞳と目が合う。見慣れたその顔を見ると、んだか無性に可笑しくなってきてしまい、勝手に顔が弛んだ。

 その様を見た大きな黒い目は不機嫌に細められた。

「何が可笑しいの?」

「色々?」

 茶化すような物言いが気に入らなかったらしく、彼女はますます不機嫌に顔をしかめた。

辻堂(つじどう)から聞いたわよ。莫迦(ばか)じゃないの」

「否定はしないよ」

 怒りに満ち満ちた声音だが、慣れ親しんだその声に気が安らぐ自分がいた。

 だがもちろんそれは彼女の神経を逆撫でるだけだ。彼女は届くわけもないというのに、常のように張り飛ばそうとその香り豊かな白く細い手を振り上げた。

「のっ、(のぞみ)様!」

 鉄格子の向こうの男がさすがに制止し、彼女は唇を噛みしめ手を下ろした。そして絢爛豪華な古式ゆかしい着物をまとったまま、仁王立ちして見下ろしてくる。形のよい細い眉がひそめられ、豪奢な着物が汚れた石畳につくことも厭わず彼女は格子を握り、目線を合わせてきた。

「あんたが何も持たない一介の人間だったなら、極刑ものだわ」

「そうだな」

「隙間風も吹かない、布団も畳もある牢になんて入れてもらえないのよ」

「うん。俺は運がいいな」

 口から流れるままに言葉にして答えていると、やがて彼女は絞り出すように言った。

「……その時折思い出したように死にたがる癖、何とかしなさいッ」

 その言葉にやんわりと笑むことで応えると彼女は強く鉄格子を握りしめ、また「莫迦」と呟いた。

 やがて散々彼女に無視され続けた男によってほぼ強引に追い出されていく彼女を虚ろに視界に映しながら、小さく息を吐いて目を伏せた。

 後悔はしていない。

 そう思いながらぼんやりと、自らがこの場所に至るまでの経緯を夢心地に思い返していった。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ