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九夜目・真実は鐘を鳴らし迷い人を誘う。だが人は目を瞑り、手探りでその音の行方を追うしかないのだ。

 信じられない事、信じたくない事、似たような言葉ではあるがニュアンスは全く違う。

 前者はその意外さに驚きを覚え、後者は心情を深く抉る。

 時にその二つが同時に発生すると、人はただ、唖然としたまま、遠い現実の中に取り残される事になる。












「あのさ、ちょっと聞きたい事があるんだ」


「なんだ叱られた犬のような顔をして」


「なんで犬なのよ、いや、あたしの事は良いのよ、放っておいて。そんな事より、ちょっと確認したいんだけど」


「なんだ?改まって?」


「あのさ、あんたって……その、……もしかして」


「ああ?グダグダしてないではっきり言え」


「う、分かったわよ。……あんたってもしかして、魔王の一族?」


「あー、ちょっと待て」


「どしたの?この技展開って何?見慣れない模様」


「ここの様子が外に漏れないようにした。まぁ気にするな」


「なんでまたそんな事をわざわざ?城内は技阻害の術が施されているんでしょ?見える範囲に居なければここの様子なんて分からないわよ?っていうか、なんでここで技展開出来るのよ!」


「……馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、今までお前の目前で何度かここで技を使ってたと思うんだが」


「あっ!そういえば!」


「いや、良いんだ、お前が馬鹿で間抜けな事は骨身に染みている。問題ない」


「くっ、いつもながらむかつく……じゃなくて、ちょっと、ごまかさないで返事!」


「だから返事する為に聞かれないようにしたんだろうが?ちょっとは頭を使え、お前も」


「う、それで……どうなのよ」


「そうだ、俺はこっちの人間が魔王の一族と呼んでいる種族だ。といっても同族が全部親族とかいう感覚は無いけどな」


「やっぱりそうだったんだ」


「で、お前はなんで気付いたんだ?」


「ほら、あたしはあんたの練った精霊をしょっちゅう突っ込まれてるじゃない?」


「突っ込んでるというか叩き込んでるというか」


「やっぱりそんなつもりだったのね。ともかく、それで気付いたのよ。あたしは精霊を取り込めないけど、精霊器官は守護領主の一族らしく発達してるでしょ?だから一応精霊を感じる事は出来るの。あんたの練った精霊は他の人の精霊と全く違うんだもん。他の人がそよ風としたら、あんたのは鋼の針だわ。あまりにも違いすぎてずっと不思議に思ってた。それに、元々あんたの見付かった場所が影の大地だった事とか考えてみるとさ」


「まぁそうだな、確かにお前の立場なら気付かない方が不思議なぐらいだ。俺もお前の馬鹿さ加減に油断してたな」


「そ、それで、どうするつもりなの?」


「どうするとは?」


「え?だって、その、魔王の一族って事は、人間と敵対してるって事よね?」


「いったい誰がそんな話をした?」


「え?え?だって、あれ?……そういえば影の大地の侵食を止めるのがうちの役目って聞いてたけど、別に魔王が攻めてくるとかは聞いた事が無いわね」


「以前話したはずだぞ、影の大地の人間にとって敵は同族だと」


「そういえば、そんな話を……って共食いするって言ってなかった?」


「言ったな」


「じゃあ、あんたも同族を食べた事あるの?」


「いや、ない。お前も知っての通り、俺がお二人に保護されたのはほんの子供の頃だ。まだ隠れて生きている年頃だ」


「そ、そう、そっか、ん~、そっか、じゃあ、今まで通りって事で良いのかな?」


「お前はそれで良いのか?」


「え?だって、人と敵対しないし、同族じゃないあたしたち相手に食欲も刺激されない訳でしょ?……されないよね?そういえばあんたが保護された時に起きたっていう大侵攻って何が目的だったの?乾きの季節には魔物の襲撃があったりするし、……も、もしかしてやっぱり私たちも食べるの?」


「あの時の話をするならかなり長い話になるぞ。それで良いなら俺の知っている程度の事を話す。……だが、いいか、これから話す事だけは、他の誰にも言うんじゃないぞ。影の大地に生きる全ての生き物、いや、この世界の全ての命の根源に関わる話だ」


「そんなにおおごとなの?うん、他人に話さない約束は出来るけど、あたしなんかが聞いて良いのかな?」


「お前以外の誰かに話すつもりはない。たとえそれがお館様や次代様だとしても、だ。お前があの時差し出した手は、おそらくそれを受け取るだけの理由になると、俺は思っているからだ」


「なんか、よく、分からないな」


「お前の頭に期待はしてない」


「悪かったわね!」


「だが、お前の魂には全てを委ねる価値がある。と、俺は知っている」


「う……」


「どうした?」


「これ、小指出して」


「小指?末指の事か?」


「うん。これね、昔、あたしが生きてた場所で友達同士がやる約束の印なの」


「ほう」


「あたしはあんたの秘密を守る事を誓います。ゆびきりげんまん、嘘付いたら針千本の~ます!指切った!」


「待て、お前が秘密を破ったら俺が針を千本飲むって事なのか?意味が分からんぞ」


「違うわよ!あたしが飲むの」


「恐ろしい誓いだな」


「単なるおまじないよ、って、なんでそんな目で見るのよ?」


「チキウとは恐ろしい風習がある世界だったんだな。なるほど、苦労したんだな、お前」


「ちょっと!変な事で同情しないで!なんかもの凄い誤解だから。ねぇ、何1人で納得してるのよ、聞きなさいったら!」











 世界の秘密は影の大地にある。と、多くの先見の技者が言った。

 だが、その本質に辿り着いた者は誰もおらず、どれほどの見者でも影の大地を覗く事は叶わなかった。

 この世界は精霊の力に満ち、各々(おのおの)が技を持ち文化を生み出している。

 しかし、誰一人として、その精霊の力の本質を知る者はいないのだ。


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