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五夜目・眼差しを上げよ、そこに答えはある

 昼なお暗い森の中に三条の光が走る。

 光はしばし留まって、闇を駆ける獣を照らし出した。

 その影が消えぬ内に、今度は白銀の炎が二つ浮かび、互いを追いながら獣へと挑みかかる。

 陽光注ぐ外の光よりも眩い光が瞬時に広がり、全ての者が動きを止めた。

 いや、光を呑む影を纏って、地をかすめ飛ぶように走る幾人かの者達は、身動きを忘れた獲物に殺到して行く。


 成果を上げても歓声一つ上げず、その集団は密やかに流れるように作業を進めた。

 彼らが奪った縄張りを誇示するかのように地面に線を描き、獲物を解体し、得物を手入れする。

 先程とは違う、温もりを放つ赤い炎が、供物として捧げられた丸い燃料を呑んで広がり、人間達の空間を照らし出した。














「凄い匂いね、運動部の、特に柔道部や剣道部なんかの防具や稽古着が酷いって聞いてたけど、こんな感じなのかな?」


「またお前は分からん事をブツブツと、精神を病んだ乙女を掲げる騎士団の身にもなってみろ」


「病んでません!……ちょっと匂いには病みそうだけど、ううっ」


「愚痴愚痴言うなら城まで飛ばすぞ?」


「ちょ、やめてよ、正直な感想を言っただけでしょ、それにあんた以外に言うつもりもないわよ。あたしだって自分の立場ぐらいわきまえてるわ」


「大丈夫だ、匂いなど今に全身に染み付いて逆に気にならなくなる」


「あうう、やめて!毎日お風呂に入りたいとか言わないけど、自分が異臭を放ってると考えると悲しくなって来るんだから」


「そんな事より、あれはどういうつもりだ?」


「あれ?」


「炎舞の事だ」


「ああ、青白い火の事ね、あれって実際威力としてはどうなの?びっくりさせるだけなの?」


「お前また目を瞑ってただろ」


「あ~、うん、だって魔物を直視すると怖くって体が硬直しちゃうから、それなら目を瞑ってしまった方が良いかな?と」


「馬鹿か、攻撃の時に目を閉じるとか聞いた事もないぞ、そこらの子供でもお前よりまともだ」


「うっ、だって、あの攻撃、あんたの撃った弾を追尾するんでしょう?別に目を閉じていたって」


「だからお前は馬鹿だというんだ、さんざんやった訓練は何のためだ?言ったよな、技の放出には意思が必要だと」


「えっ、どういう事?」


「そもそも一塊になって飛ばすなら2個でも1個でも変わりは無い。互いに違う方向、違うタイミングで動いて最後に火力を集中させる。その事に意味があるんだ。あれに追尾が付いているのはその最後の火力の集中の為であって、仲良く並んで飛ばす為じゃないんだよ」


「くぅ、く、悔しい、あんたに何も反論出来ないなんて、なんという不覚」


「ふ、未熟者が」


「お、おのれ、覚えてろよ」


「口だけならなんとでもほざけるよな」


「う、何よ?」


「負け属性持ちは惨めだと言ってるんだ。大体、お前は昔を引き摺りすぎているからそんなふうなのさ。昔々といつまでも終わった話をグダグダ引っ張って、考えてもみろ、そんな話を次代様やお館様、お前の家族に聞かれたら、お前にとって今の家族は仮物で本当の家族はそのチキュウとやらにいるとのでは?と心を痛められるだろうな」


「む、昔の話は、確かに気にしすぎだとあたしも思うけどさ、それとこれとは違うでしょ」


「そうか?本当に?その魅力の無い胸に手を当てて考えてみろ?魔物を直視出来ない?怖いから?そんなもの誰もが生まれた時から身に染みて知っている事だ。怖いから目を瞑る?それは逃げているからだろ?今を生きている者なら分かっているはずだ。戦いで目を瞑る者は死ぬ。過去に戻れるのではなくただ惨めに死ぬのさ」


「それは違うよ。いくらなんでもあたしはそこまで駄目じゃない。今の家族をないがしろになんかした事もないよ!確かに昔を気にし過ぎてるとは思う。だって、失敗したまま終わったんだもの、気にするでしょ?後悔するじゃない!でもそれは今を見てないって事じゃない、違う!」


「へぇ、口でならなんとでも言えるよな?本当に?逃げずに戦えるのか?」


「戦えるよ!見てなさい、あんたなんかより上手くあの火の弾を飛ばしてやるんだからね!」


「まぁ1個ぐらい子供でも簡単に飛ばせるからな、そんな事を自慢しても恥ずかしいだけだが」


「はっ!100個でも1000個でも飛ばしてみせるわよ」


「よし、良く言った。うんうん、乱れ飛ぶ炎、縦横無尽に降り注ぐ攻撃。やはり魔技戦はそうでなくてはな」


「……あんた、そういえば戦闘バトル馬鹿ジャンキーだったわね」


「そんな単純な物と一緒にするな、俺がこの世にもたらしたいのは最高の魔技の戦いだ。せっかく生きた魔道具を手に入れた事だし、せいぜい派手に楽しもうじゃないか」


「ちょっと待て!その魔“道具”ってあたしの事か?物扱いか!」


「赤い炎も良いよな、ちょっと威力は落ちるけど、地中から瓦礫と一緒に噴出させるとかすれば威力も稼げるかもしれないな」


「ちょっと、え?もしかしてあんたマジで魔弾を100個とかコントロールしろって言うの?有り得ないでしょ?」


「何言ってるんだ?1000でも良いと言っただろうが」


「いや、あれは勢いで。ああ、あたしって、どうしてこう、後先考えない性格になっちゃったんだろう。いくら前世で決断出来なくて失敗したからって真逆をやることは無いのに、……ああもう、決めたわ、もう過去は振り向かない。前向きな女になるわよ」


「お?飯が出来たようだぞ」


「ちょっと、話聞きなさいよ」
















 闇を拓く光。

 人々がかの人に見たのは恐らくはそれであっただろう。

 彼らは軽々と光を呼び込み、人々を導いた。

 詩人は長く後世までも歌う。癒しの姫と天上の光の君の、他に並ぶ者の無きその鮮やかな輝きの軌跡を。


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