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四夜目・荒野に歌を響かせる

 世界には精霊と呼ばれる力が廻っている。

 地球世界で私がなんとなく知っていたそれは、幽霊とか神様とかに近い感じの物だったと思うけど、この世界のそれは純粋に力だ。

 多くの生物はこの精霊を取り込み、体内で変換して放出する事で様々な奇跡のような技を行う。

 だけど、なぜか私にはこの精霊を取り込むという行為が全く出来ず、奇跡の技を持つ事は叶わなかった。

 別に全ての人がこの技を持つという訳ではないけれど、戦いに赴くには無ければ話にならない力だ。

 なぜなら魔物は全てこの“技”を使えるからだ。

 影の大地は激動の地であり、彼らは生き延びる為にそんな能力を身に付けたのだ。









「ちょっと!」


「なんだ?」


「あのさ、……ええっと」


「どうした、何か悪いものでも食ったか?」


「あたしさ、あの、騎士団の、守護乙女になっちゃったじゃない?」


「ああ、満場一致だったな。人気があって何よりだ」


「ううっ……、そ、その事なんだけど、その、守護乙女って騎士団と行動を共にするじゃない?」


「いや、それは違うぞ」


「え?だって伝承の本に」


「それは伝説的乙女の事だろ?守護乙女ってのはいうなれば騎士にとってのお守りなんだ。出立の時ににっこり笑って送り出してやるのが本来の仕事だ。なんだ、お館様からお聞きしなかったのか?」


「そうなんだ、でもさ、伝承にあるって事は、本当は付いていった方が良いって事よね?」


「あ?お前、騎士団に付いて行く気なのか?馬鹿か?足手まとい以外の何ものでもないだろうが」


「そこよ!」


「どこだ?」


「ちょ、何後ろ振り向いてるのよ、わざとらしい!違うわよ、その、足手まといって事よ」


「仕方ないだろ、技を持たない人間は戦いにおいて邪魔以外の何ものでもないのは事実だ」


「あんた、グサグサ来るわね。どうせあたしはうちの一族の落ちこぼれよ、……って、何珍しい物見るように眺めてるのよ?」


「いや、へこんでいるお前を見れる事はめったに無いから忘れないように目に焼き付けようと」


「じゃかあしいわ!こんのボケ男が!」


「また分からない言葉を」


「あんたと話してると核心がどんどんズレていくのよ、そうじゃなくて、技が使えない人間って本当に無力なの?それを聞きたいの」


「そりゃあな、相手はドカドカ技を放ってくるんだ。最低でも守護結界を自分で張れなければ、他人がお前まで纏めて守らなきゃならなくなる。それだけで戦力はガタ落ちだ」


「あのさ、精霊球ってあるじゃない?」


「ああ、物に精霊の力を込めた道具だな」


「あれを使えば自分の力は使えなくてもいけるんじゃないかな?」


「馬鹿を言え、あれは消耗品だぞ?使えば無くなる物だ。何か?無くなる度に取りに戻るとかか?」


「リサイクルって言ってさ」


「ああ?肥料リサイクール?畑でも作る気か?」


「違うって!リサイクルっていう言葉があるのよ、私が昔生きていた世界に」


「ああ、また産まれる前の話か、……はいはい」


「ハイハイ言うな!リサイクルってのは一度使った物をもう一度再生して使うって意味なの。あの精霊球ってさ、要するに精霊の力を物に込めただけなんでしょ?また詰め直して使う訳にはいかないの?」


「いいか、技を使うには意思が必要なんだ。だが物には意思が無い。だから割ったりぶつけたりして力を開放して使用するしかない。そうすれば当然物は壊れる。もう一度使うにはそれを技持ちのやつに直してもらうしかないが、そうするとまた無駄に力を使う事になる」


「うう、……だってあんたはほぼ無尽蔵に精霊の力を使えるじゃない、それなら物を再生したりするのも大丈夫じゃないの?」


「俺には再生の技は使えない。相性が悪いんだ」


「あ~、いかにもって感じよね」


「……跳ねろ」


「ぐぇっ!……ちょ、何するの、服が泥だらけになったじゃない」


「ここの土は良い土だからな、ちゃんと戻しておくんだぞ」


「土の心配か!そもそもはあんたがいらんことしなきゃ良かったんじゃない」


「とにかく諦めろ、騎士達も迷惑だ」


「でも、何か方法があるんじゃないの?義務があるのにそれを成さないなんて辺境領主の血族のやる事じゃないでしょ」


「ん?そうだ、一つ良い方法が無くもないぞ」


「え?ナニナニ?」


「要するにだ、道具に意思があれば問題は解決するんだ」


「そうね、確かに」


「お前だ」


「へ?」


「お前だよ、空っぽの意思ある道具。自分で集められないなら俺が詰め込めば良いんじゃないかと、今思い付いた」


「ほう、今ですか?このこびり付いた泥を眺めていたのは関係するのかな?」


「俺が詰め込むからお前は照準を合わせて撃ち出せば良い。そうすれば火力が増える。騎士団のお荷物にならなくて済むぞ」


「確かに、……確かにそれは良い案かもしれないけど、何故かしら、私、人として扱われて無い気がするんだけど」


「そうと決まれば、照準合わせと撃ち出し感覚の訓練をするか。これで正面斉射攻撃が面で展開出来るぞ」


「ね、あたし、もしかして武器扱い?便利な武器って感じなの?」


「騎士団と一緒に戦いたいって言ったのはお前だろ、俺じゃないぞ」


「うん、そうだけど。でもちょっと、最初思い描いてたのとかなり違う感じになりそうで、今更後悔しそうな感じが……詰め込むって、詰め込むって、大砲かなんかなの?あたし」








 乾きの季節。

 それは飢えの季節でもある。

 理性を無くした魔物が、人間の集落を目指して怒涛のように襲い来るという被害が少なからず起きる。

 その為、騎士団はこの季節、領域の集落を回り、連戦する。

 騎士団は、それぞれその象徴たる主(城主)と乙女を持つものだが、彼らは単に騎士団の象徴であり、自身は本拠にて祈りを捧げるのが主な仕事だ。

 しかし、歴代数人の守護の乙女は騎士団と共に戦いに参加した。

 乙女が参加した遠征は必ず勝利するというジンクスもあり、騎士団の士気も上がる為、勇敢なる技持ちの乙女はこの過酷な責務をむしろ誇りとする傾向があった。

 しかし、この時代。初めて技を持たない乙女が騎士団の戦いに同行した。

 そう、かの有名な“癒しの姫”である。

 彼女は、常に部隊の先頭に立ち、魔物の勢いを削ぐ露払いをしたという。

 技が使えないはずの彼女がどうやって戦っていたのかは定かでは無いが、一説には光の精霊の加護であろうと言われている。


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