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二夜目・息を潜め、影のようにあれ

 雲低く大気の凍てつき始めたある日、東の城塞都市に預言者が訪れた。

 彼はやがて押し寄せる災禍を語り、冷夜を暖炉の火の力でやり過ごしながら陽光の時期を待つ事となる。












 全くもってイライラする。

 あの自称予言者とかいう不審人物と来たら、細かい事に一々目くじらを立てて愚痴愚痴煩いったらないし。

 そりゃあ、家族の中じゃあたしが一番時間が空いてるけどさ、なんであんなのに付きあわなきゃならないのよ?

 大体預言者って何よ、ノストラダムスかってぇの!





 やっと預言者とか言う癇癪持ちのじじいから開放されて、疲れた体を引き摺りながらお気に入りの庭の四阿に向かって歩いていると、目の前の大気が音を立てて裂けるのを感じた。

 慌てて振り向くと、そこに奴がいた。




「何やってるのよ?」


「何って、今年最後のラクルの実を割ったところだ」


「あんたは果物割るのに真空斬りを使うんかい!危うくあたしの鼻まで削げる所だったでしょう!」


「俺がそんなヘマをやると思うのか?っと、ほれ」


「ちょ、投げるな、……んっ、ウマい……けどさ」


「もうすぐ新鮮な果物は食えなくなるからな」


「あ、違う、そうじゃない!あんた!どこ雲隠れしてたのよ、おかげであたし一人であの偏屈預言者の相手する羽目になったじゃないの」


「騎士団の訓練だ」


「あんたあたしの護衛士に任官してるから騎士団の訓練参加は義務じゃないでしょ、あからさまに逃げたんじゃないの!あんたが信奉者に囲まれてちやほやされてる間に、あたしがどんな目に遭ったと思う?」


「そうだな、さぞかしネチネチと絡まれたんだろうな、想像がつく」


「なに?あんたあの預言者と知り合い?」


「そんなはずないだろ」


「ならなんでそんな事が分かるのよ?」


「予言というのは膨大な情報を得る手段を持ち、それを分析する繊細さを兼ね、そこから導き出される答えを選択する断固とした頑迷さが必要なんだ。そんな物を生業にしている人間がどんなやつだか容易に想像はつくさ」


「え?予言って“能力”じゃないの?」


「“能力”は情報取得がそうだ。予言はそれを利用した技術に過ぎない。お前、ちゃんと勉強してないだろ」


「そんな細かい事習わなかったわよ。そもそも“能力”は個々に全部違うんでしょ?そんなの調べ切れる訳ないじゃない」


「それは枝葉を見るからだ、その木の幹を見れば真の性質は知れる」


「意味が分からないわ、ううん、そんな話してたんじゃないでしょう?なんであたしだけ人身御供にしてんのよ!あんたはあたしの護衛士なんじゃないの?」


「危険なんか欠片も無かっただろ?」


「精神的な危機だったわよ!」


「大丈夫、君の精神は頑丈だ」


「っ!」


「繊細な女はいきなり男を蹴ったりしないものだぞ」


「軽く交わしておいてよく言うわね」


「予言は確かに有用な情報だが、俺に言わせればあれは単なるさぼりの手段だな」


「さぼりって何よ」


「自分で考える事をさぼるって事さ。予言に従うというのはそういう事だろ」


「兄様はそんな事したりしないわ」


「……なんだって?」


「だから兄様はそんな、考えるのを止めたりしないって」


「おい、あの腐れ預言者は、お忙しい次代様のお耳を汚したのか?」


「……あんたのその態度の違いっぷりに引くわ」


「答えろよ」


「そうよ、お忙しい兄様にねじ込んで対面を叶えて頂いただけでは飽きたらず、時間を浪費してペラペラとしゃべりまくったわよ」


「呪われるべきだな」


「それに関しては同感ね」


「ところでこの本だが」


「あ!それ持ち出し禁止の本でしょ、枠取りが赤いもの。ちょっと何持ち出してるのよ!」


「やかましい女だな。持ち出して無いだろ、ここはまだ城の敷地内だ」


「どこの屁理屈よ」


「これは呪術大全と言ってだな、古今東西のあらゆる呪いが記載されている物だ」


「あんた、それを何に使おうと思って読んでたのよ?怖いわ!」


「俺はこれを是非試してみたい」


「!」


「で、どうする?」


「……あたし、実は凄く試したい薬があったんだけど、あんまりにも苦いんで誰も飲んでくれなかったんだよね。ひと舐めしただけで喉を掻き毟りながらのた打ち回られてさ」


「知識を求めるのは大事な事だな」


「そうね、なぜかしら、今日はなんだかあんたと話が合うわ」









 後に預言者は語った。

 果ての地は稀有なる土地。偉大なる男達と心優しき女達の住まう地であった。と。

 しかし、かの預言者はその生涯において二度とその稀有なる土地へ赴く事は無かったと言う。

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