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最終夜・最も暗い夜こそが、夜明けを呼ぶのだと小鳥は歌う。

 私は考える。

 どうして終わった生を抱えたまま、新たな生を始めてしまったのだろう?

 以前の私の人生は決して幸せでは無かったし、なにより自分に失望していた。

 もう一度最初からやり直したい。そう切実に思っていた。

 もしかしたらそのせいだったのだろうか?

 だとしたら、私は今を望みの通りに生きているのか?

 ただ前の生の反省ばかりで、その反対に生きようとだけしていたのではないのだろうか?

 いつもいつもずっと迷ってばかり、いっそ前の事など知らないまま生きていれば良かったと思った事も何度もある。

 でも、その度に考える。

 その記憶が無かったら、私はこの手を差し出しただろうか?あの言葉を発しただろうか?思った事をはっきりと告げようと務めただろうか?


 もし、この人生を与えてくれた何ものかがいるのだとしたら、きっと私はお礼を言ってしまうだろう。

 それが悔しいと思ってしまう自分に少し笑ってしまうけれど。














「魔物や魔王の一族は子供を育てないと、前に言ったな」


「うん」


「魔物や魔王は最初、そうだな、卵、いや、食べかすの塊として吐き出される」


「え……食べかすって……」


「他に適当な例えが見当たらないからな。要するに吸収出来なかった同属の一部がそいつの腹の中で固まって出来た塊だ。それが一定の大きさになると、ある場所に行ってそれを吐き出す」


「ある場所って?」


「樹だ」


「樹?」


「そうだ、影の大地の中央に巨大な樹がある。あまりにも巨大なのでそれ1本で森のようになっている特別な樹だ」


「それは、凄いわね。見てみたいな」


「前に言った通り、お前なら見に行けるかもしれないぞ」


「う、……魔王の一族って事は、あんたも当然平気なんだよね?まぁ一緒に行って欲しいって言うんなら行ってあげても良いけど」


「なんで俺が主体になってるんだ?まぁ良い。行きたいならいつか行くか?」


「う……ん?……あ!嘘嘘!!駄目よ!あっちで他の同族に会ったら食べられちゃうんでしょ!?駄目駄目」


「ほう?俺の心配をしてくれるのか?だが、逆に俺がそいつを食って、強大な魔王になるかもしれないぞ」


「どっちにしろ駄目よ!それとも……やっぱり食べたいものなの?だって、主食なんでしょ?」


「さあ?俺自身はまだその“餓え”を経験した事は無いからなんとも言えないが、なんとなく美味いらしいという事は分かる。実際他の何を食べても俺は味を感じないからな」


「えっ!?そうだったの?どうりでいつもつまらなさそうにご飯を食べてると思ってた」


「まぁ俺にはそれが当たり前だから、別にどうでも良いけどな」


「どうでも良くないわよ!ご飯が美味しくないなんて大変な事じゃない!なんとかならないのかな?魔物の肉とかどうなんだろう?あれって人にはきつすぎて毒だからって全部焼いてるけど、あれならあんたも美味しく食べれるんじゃない?」


「……考えた事も無かったが、魔物の肉なんかどう言い訳して使う気だ?良いから気にするな、最初から無い物は欲しいとは思わないものだ」


「良く無いって!味覚を感じられないって事では無いんでしょう?せっかく毎日食事するんだもの、そこに楽しみを見つけられる可能性は探ってしかるべきだわ」


「ほんとに面白いな、お前」


「あ!そういえば話の続きは?影の大地の真ん中にある樹がどうしたの?」


「思考が遠回りした末に元に戻ったのか?恐るべき思考回路だ」


「ちょっと、変な感心はしなくて良いから!」


「……樹の根元に産み落とされた“それ”はその樹の根に侵食され、一体となって根のコブのようなものになる。やがてそれからそれぞれの姿をした魔物が生まれる。区別するのが面倒だから、魔王の一族も魔物として話すぞ、基本は一緒だし」


「う、うん」


「その子供はある程度大きくなるまで樹から栄養を貰う。そして、自分で生きていける程に成長すると、自然と樹と繋がっている部分が枯れて1人立ちする訳だ」


「そんな風になってるんだ。不思議な樹だね」


「お前の感想はそれだけか?」


「え?……えっと、じゃあ、あんたにとってその樹ってお母さんみたいな感じなのかな?」


「……まぁそうだな。俺だけじゃなく、殆ど何にもこだわりを持たず気ままに生きる魔物が、唯一、生まれながらに強い愛情を感じる相手がその樹だ。そして、それが昔の大侵攻に関係してくる」


「あ、ちゃんと繋がるんだ」


「何の説明だと思ってたんだ」


「なんかいつの間にかあんたの身の上話になってたのかと思って」


「お前じゃあるまいし、そんな脱線をするか」


「むっ、私の方がもっと直接的に話すから、あんたのように分かり難く無いわよ」


「見解の相違だな」


「とにかく、それがどう大侵攻に繋がるの?」


「後から知った事だが、あの時、こちらの人間は新たな村を開拓しようとして森を切り開いていた。おそらくその時に、例の樹の若樹を伐ってしまったんだろう。その母なる樹が怒りの“声”を上げたんだ」


「声?樹が声を出すの?ってか、若樹ってなに?」


「声と言っても俺達が使うような声とは違う、それに音による物なら範囲も狭いだろうが、あれは全ての“子供”に届いた。それを感じた魔物がその村に殺到したんだ。そして若樹だが、文字通り我等の母なる樹の子供だ。といっても母体と違って精霊の力は薄い。基本的にはそこらにある樹と同じだな。ただ、母なる樹とは感覚が繋がっているらしい」


「それが大侵攻の原因……」


「そうだ」


「沢山人が死んだのよね」


「ああ、魔物も随分死んだだろうけどな」


「あんたが見付かったのは、その後原因を調べに影の大地に入り込んだ父様と兄様に、だったわよね。お二人はあのゴタゴタで親を亡くした子供だと思ってあんたを引き取った」


「そうだ、俺は1人立ちしたばかりで、痩せてまだふらふらしてたから、襲われて森に逃げ込んだ子供と思われたんだ」


「どうして?」


「ん?」


「どうしてあんたは父様と兄様にあんなに恩を感じてるの?故郷から知らない土地に連れてこられた訳でしょう?」


「あの場所は正真正銘の弱肉強食の世界だ。子供の殆どは、ただ餌になる為にいるようなものだ。よほど運が良い個体以外は、ただ強力な同族に食われるだけの運命が待っている。お二人はその俺に違う道を示してくださったんだ。正真正銘俺にとって命の恩人だ」


「そうなんだ、そうか、じゃあ、ここに来て良かった?」


「ああ、思いも掛けず友も出来たしな」


「あたしの事?」


「そうだ」


「そっか、うん、良かったね」


「良いばかりじゃないけどな、その相手はとんでもなく馬鹿で間抜けで無茶ばかりする」


「あんただってしょっちゅうあたしを振り回してるじゃない!人を道具扱いしてるくせに」


「元々はお前がやりたいって言ったんだろうが」


「それにしたって、なんか必要以上に目一杯叩かれてる気がする」


「それは気のせいじゃない、事実だな」


「気のせいじゃないんだ……そうなんだ、ふ~ん、……このばか!しね!」


「だから蹴るなと、いや、殴れという意味じゃない」


「はーっ、……それにしても不思議な樹があるもんだね、やっぱり影の大地って不思議」


「そもそも精霊の元がその樹なんだ」


「ふえっ?」


「どんな声だ」


「ち、ちょっと驚いただけよ、それより、どういう事よ、それ」


「どういう事も何も、そのままだ。あの母なる樹が精霊の源だ。あの樹が精霊を放出してるのさ。だから影の大地では濃厚で外に広がると共に薄まっているんだ」


「そうなんだ。それは、凄い事だね。こっちの人が知ったらびっくりするだろうな」


「ああ、そして良からぬ事をたくらむ愚か者も出てくるだろうな」


「ん?ああ、そうか、それで他人には話しちゃいけないのね」


「そういう事だな」


「でもさ、んっと、あんたにとってどっちかというと父様や兄様の方が大事な相手じゃない?なのになんであのお二人じゃなくてあたしなの?」


「お前が言ったんだ。友達なんだから本音で話そうって。だから俺はいつだってお前に俺の本当を告げている。何を聞かれてもごまかしたりはしない。お館様と次代様には恩義を感じているが、それは出来得る限りそれに報いたいという思いだ。だが、お前は違う。どんな貸し借りも無しに俺と対等に付き合いたいと望んだ。そして俺はそれに応えた。お前が俺にとって対等の相手である限り、俺はお前に対等を返す。友達とはそういうものだと思うからだ」


「……そっか、うん、友達は対等だもんね。本音には本音で返す。当たり前の事か」


「なんだ、どうした?」


「う、うん、違うの。あたしったら、馬鹿だったなぁと思ってさ。そんな簡単な事、二回も生きなきゃ分からなかったなんて。……自分が相手に本気で応じなきゃ、相手だって本気で応じてくれないんだ。そんな当たり前で大事な事、なんであの頃気付かなかったんだろう」


「まぁ馬鹿だからな」


「う、気軽に馬鹿馬鹿言うな!」


「自分で言ったんだろう」


「他人に言われると腹が立つのよ!」


「身勝手なやつだ」


「あんたは本音を吐き過ぎよ、もうちょっと抑えなさいよ。友達相手にだって、最低限の礼儀というものがあるのよ」


「礼儀?……くっ」


「軽く笑うな!ボケ!」


「お前、他人相手に間違ってその言葉遣いやるんじゃないぞ」


「いや、いくらなんでもそれはナイ」


「この間客人に向かってしかめっ面をしていたのをお館様に見付かっていただろう」


「あ、あれは言葉遣いとはなんの関係も……」


「城下の子供達相手に男のような口を利いていたな」


「っ!いったいどこで見てたの?撒いたと思ってたのに」


「お前なんかに撒かれる訳がないだろ」


「くっ、このストーカー野郎!」


「なんだその、下品な言葉は、乙女なら恥ずかしくて口に出せないはずだぞ」


「へっ?えっと、ストーカーって言葉、こっちにあったっけ?」


「……ちょっと耳を貸せ、いいか?……で…だ」


「う……ぐっ」













 時が過ぎ、人々の営みはやがて過ぎた歴史へと変わる。

 伝説的な英雄としてではなく、愛すべき守護者として彼等は常に語られた。

 癒しの乙女と天上の光の君。

 母の語る夜辺の物語、子供達が歌う童歌の中で、彼等は生き生きと駆け回る。

 そして、我等記録を記す者。識の技者は更に知るのだ。

 彼等こそ、影と光の境界を設けた者達であった事を。

 そしてそれこそが、魔と呼ばれた者達との穏やかな共生の時代の幕開けとなった事を。




毎日更新という物に憧れて、なんとなく始めた物語でしたが、楽しんでいただけたでしょうか?

会話方式なのは、時間が無い中で毎日書くにはこれしかないと思ったからです。


この世界の人間達にも愛着があったのに、作者の我がままのせいであんまりちゃんと書けなくて申し訳ない思いもありますが、この物語はこれでおしまいです。

最後までお読みいただいた酔狂なあなた。本当にありがとうございました。

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