一夜目・足元に気を付けて走りだせ
毎日更新に憧れて、軽く書けるものをと思って始めたお話です。でも、毎日更新出来るかどうかは怪しい限り。
最期のその時に思ったのは、後悔だった。
元々引っ込み思案だった私は他人との付き合いが苦手で、子供時代にそれが元でイジメに遭い。更に人付き合いが苦手になった。
だけど、別に私は人嫌いじゃなかった。
人の輪に加わりたかったのにその勇気が持てなかっただけ。
ほんの一歩、ほんの一言を躊躇って、先へ進めず躓いた。
勇気が無かったのだ。と、
そう思う事さえ、自分を守る為の言い訳だった気がする。
自分を変えようと決意して、今度こそと友達を作る事を誓い。高校入学を間近に控えたある日の深夜。
私はインフルエンザをこじらせて、あっさりと未来を失った。
「という夢を見たのよ」
「そうか、いかにもお前らしい独創的な夢だな」
「それはどういう意味かしら?」
「ん?誤解されるような難しい事を言ったか?俺は」
「……まぁいいわ、折を見てこのムカつきの礼はさせてもらうから」
「ああ、是非とも退屈な日常を吹き飛ばしてくれよ」
「その性格で“天上の光の君”とか、笑わせるわね」
「いいか、世間は誤解と錯覚で構成されている。そこを更にちょっとつつけば誤解は肥大化の一途を辿る」
「肥大化させるな!というか、アンタそのギャップをどうするつもりなのよ!」
「落差というものは人を錯覚させるものだ」
「もうアンタの話は良いわよ、人生に絶望しそうになるから。私の言いたいのは、この夢の記憶のせいであんたなんかとうっかり友達になっちゃって後悔してるって事なのよ」
「なんだ?最近の話じゃなかったのか?随分大人びた夢を見たものだな。あの頃君は確か5歳かそこらじゃなかったかな?」
「……3歳よ」
「ほう、そうすると君はかつて無い天才かもしれないぞ!3歳でそんな夢を見る人間は他にいないだろう」
「だからただの夢じゃなくて、昔の記憶じゃないかと思うの」
「……。」
「ちょっと!その手は何よ。熱は無いわよ」
「いいか、3歳児の昔というと果てしなく幼児だ」
「だから、生まれる前よ!」
「そんな人としてダメっぽい記憶が天上での記憶だっていうのか?」
「人としてダメで悪かったわね!アンタになんかどうせ分からないわよ!それに天上の記憶なんかじゃありません。地球って星の日本という国での記憶です」
「なんだって?樽詰めと胴長草がどうした?」
「地球の日本よ!何かその組み合わせ、沼にハマった時の事を思い出すから嫌」
「あの時は酷かったな、沼の底のヘドロ塗れで、辺境に出るという深泥鬼もかくやという……」
「死ね!今すぐ死ね!!お前なんか見張り台から落としてやるから!」
「あそこは物見櫓って言うんだよ、城主の娘がそんな事では下の者が付いて来ないぞ」
「うっさい、馬鹿!あんたなんか、あんたなんか!どうしても友達が欲しいとか馬鹿な事思ってなければ!あの時笑いかけたりしなかったのに!!」
「いいかい、人生は誤解と錯覚で……」
「さっき似たような事聞いたわよ!どんだけ世間をごまかして生きてるのよ、このオタンコナス!」
人の生きる光源の地と魔物の生きる影の大地を隔てる深淵の森。
その縁を守る東の王国の城塞都市を治める城主には息子が一人、娘が三人いた。
末の娘は癒しの姫と呼ばれ、優しい微笑みと妙なる声を持ち、常にその半身とも言うべき天上の光の君、奇跡の御手と讃えられる守り手と在りしと、後の世まで伝えられる。
世界は常に侵食の危機に晒されていたが、何時の世も彼らのような英雄がそれを阻んで来たのであろう。と、後世に書かれた本の末尾にはそう綴られていた。