たべもの
ディアンは食卓にある光景を見て盛大に顔をしかめた。
ステーキにハンバーグにビーフシチュー・・・考えつく限りの肉料理に申し訳なさそうにパンが数個。
野菜など一枚も見当たらない肉肉しい光景は体に悪そうだ。
色どりなんて知るものか!とばかりに茶色一色に染まったテーブルにまだまだ料理を追加する二人。
数分して料理が出揃うとぼうっと立っているディアンに気づいたのか、二人してにやにやとディアンの顔色をうかがう。
そんな二人の目を無視してディアンは食卓に着いた。
レオンもユノもそれに従い、ナイフとフォークを扱うディアンの手をじっと見る。が、その手はあまり動かされることはなく、すぐに食器はかちゃんと置かれてしまった。
それから動こうともしないディアンにユノはむっとしながら、レオンはいつもの笑顔で首をかしげながらそれぞれ口を開く。
「なによ、何か問題でも?」
「好き嫌いはいけまセンヨー?」
「好き嫌いはしていない」
はあと息をついてディアンが言う。その割にはあまり食事に手をつけてはいない。
ぐいとミルクを飲みほすとさっさと席を立ってしまう。
「作業に戻る」
「ちょっと、まだ食事は終わってないわよ!」
「そうデスヨー。ちゃんと食べないと体力持ちまセンヨ?」
にこにこと笑ってレオンがディアンの行く手を阻む。ディアンはレオンの前に立ち止まるとその鋭い眼光を光らせた。
「そこをどいてくれないか・・・?」
「断りマス」
むうとした表情のディアン。にっこりと笑うレオン。だが各自背負うオーラは猛々しい。片方では肉食獣が唸り、もう片方では犬が牙をむく。
「いいデスカ、食事のバランスは大切なものなのデスヨ?確かに野菜も大切デス。しかしお肉を欠かしてしまうと血が少なくなっタリ、筋肉が衰えてしまって大好きな本も読めなくなりマスヨ?」
「・・・それは困る」
ちょっと躊躇したディアンの片腕をユノが引っ張り、食卓へと導こうとする。肉食獣のオーラが薄まった。
「そうよ、それに二人で頑張って作ったのよ?食べてくれないともったいないじゃない!」
「むぅ・・・」
真剣にディアンの体を心配してくれていることはわかる。ディアンもそこまで鈍感ではない。
ほかほかと湯気を立てている料理は確かに美味しそうだが、ディアンはそれでも首を横に振った。
「やっぱりいらない」
「どうしてよ!」
「気に入る料理がありませんデシタカ?レシピを教えてもらえばがんばって作りマスガ・・・」
食いさがる二人にディアンは迷いながら口を開く。
「えーと・・・実は肉料理を食べると持病の癪がうずいて・・・」
「なによそれ。そんなの聞いたことないわよ」
「そもそも癪は食べ物とは関係ありマセン」
目を泳がしながらいうディアンにユノとレオンはじとっとした目を向けた。
嘘くさい。
「それなら・・・肉料理は母の敵で絶対に食べないと決めていて」
「なによ母の敵って。食中毒?」
「料理のせいにするのは頂けまセンネ。恨むなら料理人デス」
顔にいくつか汗を浮かび始めたディアンにさらに二人は詰め寄った。
そんな言葉でだませるとでも思ったのか。
「じゃあ肉料理を食べてはいけないと死んだ父からの遺言で」
「じゃあってなによじゃあって」
「遺言ナラ・・・仕方ないデスネ・・・」
「!!?」
どう聞いてもいいわけにしか聞こえない言葉にレオンが納得したことに驚いたユノはレオンを見やる。
しかし、レオンは心の底からその言葉を信用したらしい。腕を組み、うんうんと頷いている。
納得しきれないユノはディアンを問い詰めようとディアンに向き合ったが、時遅く、すでにばたんと扉が閉まられていた。
「ちょっと、なに納得してんのよ!」
ユノはディアンを止められなかった気持ち少々、あんな言葉を信用したレオンを攻める気持ち多数でレオンに詰め寄った。
そんなユノをどうどうと押しとどめながらレオンは言う。
「ダッテ、遺言は絶対守らなければならないのデスヨ?さぁユノサン、冷めないうちに食べてしまいまショウ」
「食べるけど!ディアンのために作ったものなのに・・・」
ユノは力なく足元に視線を落とした。
肝心の本人にあそこまで食べることを拒否されてしまうとさすがのユノも悲しい。作っている最中の楽しさがどこかに吹き飛んでしまった。
そんなユノにレオンがやさしく言葉を掛ける。
「そうですね、でもディアンさんも作ってくれて嬉しかったと思いマスヨ?だってほんの少しとはいえ食べてくれたじゃないデスカ」
「そうだけど・・・」
ディアンが手をつけた肉料理と言えばハンバークの端っこの端っこ。
肉と言えるのかどうかわからないほど少量だ。それを食べたというのかユノには分からない。けれどレオンにとってそれで充分なのだろう。
「それにあそこまで拒否するのには何か理由があると思いマス。ユノさんにああまで言われても拒否したくらいですカラ」
「理由ね・・・そうよね・・・でもそれって私達にも言えないこと?」
「人にはいろいろ秘密があるんデス。そういうものデショウ?」
レオンはそういうとさぁサァと言ってユノを椅子に座らせた。
「とにかく俺たちがやるべきことはこの料理をいかにして無くすことデスヨ。この量は迫力がありマス」
「いざとなったら家に持って帰るけど・・・多いわね。食べきれるかしら?」
「食べなかったら料理と素材に申し訳ないデス。残さず食べまショウ」
「そうね、では神と食物に祈りを捧げて」
「いただきマス」
かちゃかちゃと食器の音が鳴り始めたのを扉越しに聞いてディアンは胸をなでおろした。
あれ以上はきっと胃が受け付けない。
何故自分が肉を食べられないのかは分からない。魚なら食べれるのに。
ディアンは頭を掻き、どさくさにまぎれて持ってきたミルクの瓶のふたをぱかりと開けた。
たまに活動報告のほうで設定ともいえないような何かを呟いているので気になる方はどうぞ!
亀のテンションが気持ち悪いことになっていますが!