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ひととけもの  作者: 亀山
にちじょう編
6/28

おしゃべりもの

「19・・・・・・?」

「ええ、ハイ。19です」



ユノは驚愕で目を開いた。


目の前でそんなに俺若く見えますかネェ・・・と苦笑しているレオンの体つきはどう見ても19歳のそれではない。なんか細いし、身長もあまり高くはないし・・・とはいえユノよりは20トルほど高いのだが。(※トル 長さの単位)

19歳というのは大人の仲間入りをしているものなのではないのか。もっとがっしりしていているものではないのか。

なにより


「え・・・うそまさかそれでノクス兄さんと同い年なのっ!!」

「それでってなんですかそれでッテ・・・」


おののくユノにがっくりするレオン。


「というかお兄さんいたんデスカ。家にはいませんでしたヨネ?」

「ああ、うん。今家いないから・・・王宮で働いてるの」


ミルクを受け取ってまた二人は歩きだす。時刻はもうすぐお昼を過ぎようとしていた。

館についたらレオンが何か作ってくれるというので、ユノは期待を胸に両手いっぱいに買い物袋を抱えなおした。


「王宮・・・デスカ?それってすごいことなんジャァ・・・」

「そうなんだけど。でもなんか下っ端の仕事しかもらってないみたいよ。」


レオンがユノの方を向く。片手でユノが持っているものよりも大きい紙袋を抱え、もう片方の手は二つの手提げで埋まっている。重そうだが、レオン曰くまだまだいけるとのこと。


「そうデスカ。どんな仕事ヲ?」

「なんでも動物探してるんだってー。今の王様の5番目の王子様が探してるとかなんとか」

「ほゥ・・・ペットでも逃げたんですカネ?」

「ね・・・そんなことで他人を動かすのはどうかとも思うけど」


ユノはふうと息を吐いた。手の中の荷物が重い。


「でも私いいなぁって思うの」

「何がデスカ?」

「ノクス兄さん。学校行けてそのあとも下っ端とはいえ働けるんだもん」

「あれ、ユノさんは学校にはいってないんデスカ?」

「いってないよーっていうか学校行けるのは男だけだし」


ユノは苦笑しながら言った。レオンが意味がわからないといった顔つきをしている。他国では制度が違うのだろう。ユノはこの国の教育制度について話し始めた。


「あのね、9歳以上の男の子は学校行くのを許されるの。それから確か18歳まで勉強していろんなところで働くの。ノクス兄さんみたいにね。女の子は読み書きもできないのが普通なんですって。あ、貴族の子は家庭教師とかつけられるらしいけど」

「エ・・・でもユノさん、読み書きできるじゃないデスカ」

「簡単なところはノクス兄さんが羨ましくって駄々をこねて教えてもらってたの。でもそのうちノクス兄さんは学校が忙しくなって教えてくれなくなったし、母さんはシュリンとノリンに大忙し」

「あ、シュリンとノリンってあの双子ノ?シュリンが男の子でノリンが女の子ノ」

「そう、そっくりでわけわかんないでしょ」

「エエ、もう見分けがつかないから名前あまり呼んでない気がシマス・・・」

「賢明な判断だと思う。あの子たちお互いに一緒にいるのが好きなんだけど自分がもう一人と間違えられるのは嫌いだから」


ユノはもうじき8歳になる可愛い兄妹を思い出してくすりと笑った。そのうちシュリンが学校へ行ってしまってノリンがぐずるのは確実だ。


「女の子は学校に行けないんデスカ・・・不公平デスネ」

「しょうがないわよ、家事とかやることはいっぱいあるんだから。子どもがみんな行ってしまったら家の中では人手が足りないわ」

「そうですケド・・・」

「でも私はあきらめなかった」

「え、ちょっとなんか雲行きが怪しくなってきたんデスケド」


ふふふ、と笑うユノにレオンが数歩下がる。それにも関らずユノは口を開いた。


「私がなんで館に行くことになったか知ってる?」

「エエ。ディアンさんから聞きました。なんでもボールが館の中に入ってきてそれを取りに来てからずっといついてるとかナントカ・・・」

「そうそう、初対面で『消えろ』とか言われたのよ。ひどくない?」

「まぁそれは確カニ」


でもディアンさんならいいそうだと納得顔のレオンにユノは楽しそうに言う。


「そのときね、怖くてたまらなかったけどまた次の日行ったのよ、食べ物もって」

「アア、それはディアンさんも不思議に思ってたみたいデスネ。なんでなんデスカ?」

「本よ」

「・・・・・・へ?」

「少しでも読める本があるのを見つけてしまったのよね、私。それからいてもたってもいられなくなって、食べ物持って館に行ったの。あそこ、本だけは腐るほどあったから。ほとんどけもの関係だったけど」

「つまり学校で習わないかわりに館の本で学んダト・・・」

「そう。まあじきに飽きたんだけど最初は本めあてであそこに通っていたわね」


懐かしい、と目を細めるユノ。しかしレオンはあれ、と何かに思い当ってそのままユノに質問した。


「最初ッテ・・・じゃあ後からめあてが別のものになったんデスカ?」

「ああ・・・わからない?」

「まったくわかりまセン」

「ディアンよ。あのダメ人間加減には子どもながらに心配になったのよね。気を使って食べ物持っていってもほとんど手をつけないし、声かけないと寝ないし。しかもお肉食べないのよあいつ」

「・・・・・・・・・納得デス・・・」

「いつも野菜とミルクしか消えてなくって、メインディッシュのはずのお肉が『あれ・・・?なんでぼくまだここにいるの・・・』と言わんばかりに残されてるのを見た時には愕然としたわよ」

「それは体に悪いデスネ!というか食べ物を残すという行動自体が許しがたいデス!」

「そうよ、作った人の気分になればいいんだわ!」

「そうデスヨ!よし、今夜のメニューは決まりデスネ・・・」

「なに?なんなの?」


レオンはにっこりとして言った。

「お肉のフルコースデス。ふふふ・・・腕が鳴りマスネ・・・」

「やだそれおいしそう!私も食べていっていい?」

「どうぞドウゾ。ディアンさんに食べさせるには骨が折れそうですカラ」


どうやら今日帰るのは遅くなりそうだ。ユノは嬉々として館の門をくぐりぬけた。






館の門の前で『ディアンの好き嫌いをなくし隊』が結成されたとはつゆ知らず、ディアンはただ黙々と本に向かっていた。

たまにカリカリとペンを走らす音が部屋に響く。その静けさが今はむなしいと感じてしまう己にディアンは頭を振った。

どうもあの子どもたちに毒されてきている。それとも自分の集中力がなくなってしまったか。

無理やり視線を本に戻すとある一節が目の中に飛び込んできた。


『いまでもおうさまはけものをさがしています』


ただの童話の話。ここから隠されている事実を読み解くのがディアンの仕事だ。

失った記憶を取り戻すために。


館の中が騒がしくなってきた。ディアンは今日の仕事はこれ以上進まなさそうだとため息をついた。





タイトルは大抵最後に「~もの」と付けるのが決まりなので(私の中で)無理矢理感が漂いますが軽くスルーしてやってください。



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