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ひととけもの  作者: 亀山
にちじょう編
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すみつくもの

問題です。


犬と肉食動物がかちあいました。



どうなるでしょう?





「でこの文章はけものがただの獣ではないということを表すのだとおもうのデスガ!!」


「いや、ここに『けものはひかるいわをくだいた』とあるだろう。光る岩・・・つまり宝石だな。推測でしかないが、『とても堅い』と強調されているからにはおそらくダイヤだろう。よって光る岩=ダイヤの塊と思われる。さらにダイヤは権力の象徴だ。その塊ということだから貴族、それもかなりの地位にあるものだろう。それを砕いたということは・・・」




結果:慣れ合いました。



ユノは椅子に深く腰掛けてはぁとため息をついた。

二人が議論を交わしているのはこの国に古くから伝わる童話だ。

美しい獣が人間に追われて神様に人間にしてもらうというよくある物語。

だが神様に会うまでの話、人間になってからの獣の冒険が面白く、子供にも大人にも愛される話だ。

ユノも好きな童話だが、彼らほどではない。


ディアンがこの物語について研究しているのは知っていた。なにしろこの館にある本のほとんどはけもの関係らしいから。

でもまさかレオンまでその変人の仲間だとは思わなかった。


「ねえ二人とも・・・」

「ではここの『けものはせかいのとびらをくぐって』とはどういう意味だとディアンさんはいうのデスカ?」

「世界の扉というのがよくはわからない。だが身分の差があまりにもあることを住む世界が違うというだろう。そのことを指しているのでは、と俺は思っている。つまり貴族へ獣はなったんじゃないか」

「・・・・・・・・・」


ここに住む世界が違うと実感している人間がここに一人いますよー

といいだしたくともユノは言えなかった。


にしても、とユノは思う。

こんなに饒舌なディアンを久しぶりに見た。

前に見たときはうっかりディアンにけものの話を振ってしまったためひどい目にあったのだ。

よく話が合うものだ。ちょっとレオンに嫉妬してしまう。


ユノから不穏な空気を感じたのか、レオンの方がびくりと跳ね、ディアンはというと今気づいたように椅子に膝を抱え込んで座っているユノをみる。

鋭い視線にユノはぷいと顔を背ける。・・・すねている。


ディアンは怪訝そうにユノを見てすたすたと近寄ってくる。ユノは威嚇するようにより自身を引き寄せて縮こまった。

まるで肉食動物に怯える猫のようだとレオンは思う。

しかも肉食動物は猫の扱いに慣れていないようでどうにか猫をあやそうとしてはいるが、効果はない。


「・・・・・・・・・何よ」

「食わないのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

野菜丸ごと渡しても逆効果だろう。


「・・・・・・・・・・・・だから何よ」

「飲まないのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

そしてなんでそこでミルクを渡す。


レオンはによによと二人の様子をうかがった。とユノがそんなレオンに気づいた。やばい。

「・・・・・・レオン」

「ハイ?なんデスカ?」

じとっとした目をしたユノに睨まれる。がレオンはすっとぼけた。そんなレオンにつかつかとユノが近づいてくる。


「そろそろ帰りましょ・・・ほら、用事は済んだし、貴方病み上がりだし」

「ア・・・そうデスネ」

てっきりによによしていたことを責められると思っていたレオンだったがそんなことはなかった。

一瞬呆気にとられたレオンだが、にっこりと笑っていった。


「でも、俺ここにいたいデス」

「・・・え?」

「というかここで暮らしたいデス。ねぇ、ディアンさん、ここで居候させてもらっていいデスカ?」

家事とかやりますからお願いシマス!!とディアンに頭を下げる。そんなレオンにユノが慌てたように言う。

「ちょっと、何突然・・・」

「いいぞ」

「いいの!!?」


あまりに早い回答についユノはディアンを振り返った。そんなに簡単に決めていいものなのか。

しかしレオンはその返事に喜び、では先に戻ってこれからディアンさんのお世話になることをメリクリス家の皆さんに伝えてきマスネ!と飛び出していった。

ユノにはレオンの尻にぶんぶんと音を立てて尻尾が振られている幻覚が見えた気がした。


そのあと帰ろうと玄関を出たユノのあとをとことことディアンがついてきた。

「え、何?」

「送ってく。ついでにあいつを預かるとお前の両親にも言っとく」

「そう・・・」


6年間全く外に出なかったディアンがこんなにも簡単に扉からでてくるのを信じられない思いで見ていた。そういえば外はもう真っ暗だ。

今までは日が暮れる前に追い出されていたのでこんなことはなかったとユノはぼんやりと思い返した。


ディアンがよもやユノとレオンが兄弟だと勘違いしているなんて思いもせずユノはゆっくりと歩を進めた。


「そういえば、最近行かなくってごめんね?食糧とか大丈夫だった?」

「一応の貯蓄はあるから問題はないが・・・」

「?」


こっちに目を向けてくるユノにディアンはなんでもないと話題を切る。

夜に入りかけた空気は少々肌寒い。ぶるりと震えたユノの目に我が家の温かい光が映る。



そのときディアンが何かつぶやいた気がしたがユノは気づくことはなかった。



「少々、さみしかった」



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