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ひととけもの  作者: 亀山
いどう編
26/28

ふたてもの


アジトの中は天然の洞窟を利用していたとあってじめじめと水が岩肌から湧き、灯なども山賊達が持って行ってしまったのか、闇が凝ったような暗さだった。

先頭を進むノクスはちょっとまて、と一同に静止を掛けると何やらごそごそと身を探り始めた。そしてしゅぼ、となんとも奇妙な音を立てたかと思うと一瞬のうちにノクスの周りが明るくなった。


「備えあれば『憂い』なしってなー」

「ちょ…ノクスさんそれ…」

どこか楽しそうなノクスの手元の光源を見てクラサが絶句した。そんなに危険なものなのか、とユノも覗きこんで首を傾げた。

小さな金属の箱からどういう原理か、小さな炎が出ている。金属だから熱が伝わって熱くなるはずなのにノクスは涼しい顔だ。いくらがまん強い兄ともいえど、手のひらを焼いて何も反応がないはずはないから、熱の伝わらない特別な金属なのか。でもそんなもの、ユノは見たことも聞いたことも無い。

フードもユノの後ろの方から首を伸ばし、ほーと面白そうな声を上げた。絶句から解かれたクラサが本日何度目かのため息をついて弱弱しく頭を押さえる。軽く頭痛が起きたらしい。


「ノクスさんがちょろまかしてたんですか…どうりで倉庫内いくら探しても見つからないはずですよ」

「ちょろまかすなんて人聞きの悪いこというな、有効活用だ。倉庫内で肥やしにするよりこいつだって嬉しいと思うぜ?」

「物に気持ちなんて宿るはずがないでしょう…」

「いやあわからねーぜ?すくなくともティーはそう思ってるみたいだ」

からかうような調子でノクスはユノの知らない人物の名前を口に出した。クラサは知っているのか、むきになって唇を尖らせる。

「彼女は特別です!」

そういうと貸して下さい、と無理やりにノクスから光源を奪い、先頭に立った。ちらりと見えた顔は炎に焼かれてか赤くなっている。槍を首の後ろにあてがい、にやにやと二番目に準ずるノクスにユノはこっそりと耳打ちした。

「ねえ、兄さん。ティーって誰なの?」

「ん?ティーか?首都いったら分かるよ、お前も世話になるしなー まあ楽しみにしてろ、あれほど面白い女は見たことねぇ」

兄が気にいる女性。ユノは首をひねった。全く思いつかないが、とにかく変な人だろうということは予想がつく。

「おい、置いてかれるぞ」

いつの間にやら、すぐ後ろにいたフードに上から声を掛けられ、ユノは慌てて水で湿り滑る洞窟を灯目指して駆けた。



「おーい、おにーさんやーい いるなら返事しろー」

ざわざわとノクスの間抜けな声が洞窟で反響する。背中でノクスの声を受けるクラサは前を照らしつつ、だから別の場所に移されたんですよ、ここ見てみたってあまり収穫はないでしょうにと苦言を吐いた。

「いやいやまだわかんねーぞ、もしかしたらうっかり忘れられて取り残されたのかもしれねーじゃんか」

「人質をうっかり忘れる間抜けな山賊が何処にいますか」

うっそくとしてクラサが言葉を返す。一番後ろで気配をうかがっていたフードがおい、と先頭の2人に呼びかけた。


「どうやら本当に山賊はここにいなさそうだ。なんだったら二手に分かれないか?そっちの方が探しものも早く見つかるだろ」

クラサとノクスがぴたり、と足を止める。いきなり急にとまったものだから足元ばかり見ていたユノはノクスにぶつかりそうになった。

クラサが振り向く。火に真下から照らされた柔和な顔はしかめられてどうにも不機嫌だ。

「そんなこといって逃げようとか思ってませんよね?」

「すっかり忘れられてるこの枷外すまでは逃げねーよ」

「おお、わるいわるい。本気で忘れてたわ」


皮肉を言ってわざわざ両手を持ち上げるフード。その仕草を見たノクスがフードに近寄りポケットから鍵を取り出した。


「クラサ、灯こっちもってこい。暗くって鍵穴わかんねー」

「あのですねぇ…本人が『枷外したら逃げる』っていってるも当然な言葉を聞いた行動がそれですか」

呆れたクラサにフードがああそうか、と肩をすくめた。

「じゃあ前言撤回するよ、その研究者とやらを見つけるまでは逃げねーよ」

「だとさ、ほら灯よこせ」


フードのいかにも譲歩したといった姿勢にクラサは分かりやすく拗ねた。はいはいどうせ僕は頭固い頑固者ですよーと自虐気味に言いながら火をもって移動する。

明るくなった空間でかちゃりと軽い金属音がしたかと思うとフードの手の縛めは簡単に解かれた。

手をさすりさすり、フードがあー長かったとごちる。ノクスが今まで抱えていた槍をとん、と床に突き、一同を見まわした。


「で、二手に分かれる案だがおにーさんの顔知ってるのは俺とユノしかいない。だからユノとクラサ、俺と…あー…」

名前が分からず、ノクスはちらりとフードの服装に目をやる。

「フードのおにーさんでいいか?」

「ん、まあいいけど」

「うん、俺とフードのおにーさんで行動することとする。…クラサ、くれぐれも」

「触るな傷つけるな、でしょう?はいはい分かってますよ」

首をすくめるクラサ。それでよし、とノクスはもっともらしく頷いた。その横でもうすっかりフードで定着しちゃったなぁ、と心内で呟いたフードは軽く肩を回した。ずっと手を下ろしていたためか、肩から首にかけての筋肉が固まってしまっていたのだ。



「で、探すのは誰だ?おにーさんやら研究者やらで名前しらねぇんだけど」

「ディアンよ」

フードの問いにそれまで疲労から何も言わなかったユノが即答した。

ディアン、ディアン、ね…とフードは口の中でありきたりなその名前を唱えて首を傾ける。

「俺の知り合いではないな、あの保護者の名前か?」

フードが聞いているのは多分レオンの事だろう。表情を固くしたユノはううん、と首を横に振った。その表情に感じるものがあったのか、フードは少し身じろぎしたが、それほど深く突っ込まずにそうか、とだけ言った。


「よし、これでいいな」

ノクスの声とどこか焦げくさいにおいがしてユノとフードはそっちの方に顔を向けた。ノクスが例の金属の箱を、クラサがどうやって作ったのか松明を持っている。松明の先に浸みこまれた油が独得な匂いと煙を上げている。

「やっぱり熱いですよ、これ。まあ効率的にはこっちのほうがいいのは分かりますが」

そう言ってクラサはへにゃりと眉を下げ、できるだけ身体から松明を離そうとする。まあ、頑張れ、とノクスは無責任そうに言葉を投げかけた。




二倍に明るくなった洞窟内を少し進むと右と左に分かれる通路があった。どちらも中は暗く、軽い話合いの結果、このあたりで二手に分かれようという結論に落ち着いた。なにかあったらこの場所に戻る、何もなかったらまたこの場所に戻り、もう1つの通路へ行くという約束つきだ。


「じゃあ俺たちはこっち行くか。ユノ、なんかあったらすぐこいつにいうんだぞ?それか叫べ。いいな?」

「兄さん…」


念を押す兄に妹は困惑しながらも笑顔で頷く。本当は表情筋を動かすのもつらかったが、兄に余計な心配は掛けさせたくはなかった。まだまだ続く注意にうんうん、と返事を返す。


「いいから行ってくださいよ」

「おい、あんたが先行ってくれないと俺進めないんだが」

焦れたクラサとフードがユノからノクスをはがしにかかった。やがてフードがノクスから灯を奪い、首根っこをつかんで左の道を照らし進んでいく。ずるずると後ろ向きに引きずられ、ノクスがわめく。

「ほほえましい兄妹の別れを邪魔するんじゃねーよ」

「その別れにいつまでも時間裂いてられっか ほら自分で歩け」


律儀に返事を返すフードの姿が消え、灯も見えなくなるまで見送ったクラサは隣の少女を見降ろしてにこりと笑った。

「ちょっとは休めましたか?」

体力を少しでも回復するために兄が離れてから座り込んでいたユノにクラサは松明を持ってない方の腕を伸ばした。手を上にし、おずおずと伸ばされたユノの手をつかむと引き起こす。クラサは軽く力を込めただけだったのだが、ユノにとっては十分すぎたようで少しよろめいた。それを支えると、クラサは先頭に立って松明をかざし、右の道の気配を探った。異常がないことを確認してクラサはまたにこりとユノに笑いかける。

「それでは、行きましょうか」

ユノはこくりと頷いた。


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