しょくじもの
「大丈夫?なんか悩んでるんだったら相談に乗るよ?」
「・・・イイエ、何でもありまセンヨ。ソ、それよりも誕生会の準備をシナイト・・・といってもあとはテーブルに並べるだけなのですガネ」
そういいながら慌てたように台所に引っ込むレオンにユノは不信感をつのらせた。
レオンは人がいい。何か悩んでいるようなら一人でため込まずに相談に乗らせてほしかったのだが、本人が拒否するのなら仕方ない。
ユノはレオンが何か言いたげなようだったら改めて相談に乗ることにして今は準備、とばかりに張り切ってレオンにあとに続いた。
テーブルに並べられた料理は魚中心のものが多く、またディアンに合わせたのだろう、肉料理は全くと言っていいほどなかった。
ユノ達が住む街は海からもまた山からも近いという食物に恵まれた地形にある。・・・近いとはいえ海からは馬車で2日、山へは3日かかるのだが、比較的近い方だとは言えるだろう。
海からは海路を通じて様々な場所から物が運ばれ、山を通って首都へ送られる。首都は山を一つ越えた先にあるのだ。
海から運ばれてきた魚は氷漬けにされ、店先に並ぶ。鮮度も申し分はないからレオンにとっては腕の振るいがいがあるというものだろう。
「ディアンー できたよー」
「まて、今いく」
ユノの急いている声を聞いてディアンは開いていた本をパタリと閉じた。
いかにディアンといえど自分のために開かれたものに無視はできないということか。ただ単にけものの好物に惹かれただけのようにも思えるが。
いそいそと席に着くディアン。心なしか嬉しそうだ。
みんな席に着いてからそれぞれ祈りをささげ、食べ始める。
「あ、これおいしー」
「それはカッレの実というのがわからなかったんで別のものを変わりにしてみたんデス。カッレの実は香辛料のようだったので他の奴を入れてみたんデスガ・・・辛すぎまセンカ?」
「ううん。ピリってきておいしいよ、これ」
「それはよかったデス。ディアンさんハ・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「ものすごい勢いで食べてマスネ・・・」
「私こんなに食べるディアンはじめて見た・・・」
「・・・まあ初めて作った料理がディアンさんの口に合ったようでなによりデス」
「ていうか早く食べないとディアンに全部食べられちゃうよ・・・」
それからはみんなして無言で食器を鳴らす音だけが響き、しばらくするとテーブルに埋め尽くされた料理はことごとく空になっていた。
レオンはそれらの食器をいそいそと片付けをしつつフフフと楽しそうに笑みを浮かべた。ユノも井戸からくみ上げた水を持ってざあと泡を流す。
「食べましたネェ・・・あれほど喜んでくれるとは予想外デス」
「ねえ、ディアンまた部屋に戻っちゃったけどどうする?贈り物」
「とりあえずお茶を持って行ったときでいいんじゃないでショウカ」
「そうね・・・でも早めに渡したいの」
そわそわするユノにレオンはうーんと考えてから泡だらけだった手を流して食器を水につけた。
「なら今一緒に行きマショウ?食器はつけておけば汚れは落ちますカラ」
「うん!ちょっとまって、包み持ってくる!」
元気にばたばたと台所から去るユノの後ろ姿を見てレオンはまた微笑んでタオルで手の水分をぬぐう。
服が汚れないように、と付けていたエプロンを外しながら自分もこの前買ったディアンへの贈り物を手に取る。
「喜んでくれるデショウカ・・・」
それからまたばたばたとユノの足音がこっちに向かってくる。レオンはさっきと変らない笑顔のままぱっと顔をあげた。
「おやユノサン、見つかりマシタカ?」
「見つかった!見つかったけどさっき窓見たらノクス兄さんが・・・!」
「ハィ?」
慌てたように言うユノにレオンは首を傾ける。と同時にぎいと玄関ホームと台所を開ける扉が開いた。
「おー中はこうなってんのか・・・あ、ユノ!」
「あ!じゃないわよノクス兄さん!ディアンに嫌われてるっていうの知ってるでしょ?館に入ってきたって知ったらどんなに怒るか・・・」
「いやしょうがねえよ。けもの祭りん時は近所におすそ分けしなきゃいけないって母さん決めてんだからよ。それに館の前でけっこう声かけたぜ?」
「聞こえると思ってるの?」
「思ってた」
「兄さん・・・」
「はいっちゃったらしょうがねえよな?で?そっちがうわさのレオンってやつ?」
レオンは自分が固まったように感じた。目の前にいるのは短い栗色の髪を整え、青い目を持った男性。灰白色の軍服を着ている。
・・・軍服。
「俺、ノクスっつーの。王宮で文官やってる。まあ、宜しくな?」
・・・やばい。
「はあレオンといいます妹さんにはよくしてもらってますえーとすみません俺ちょっとディアンさんの方行かなきゃいけないんで席外していいデスカ?」
「いやそんな早口でいっても別になんもしねーって」
「・・・レオン?どうしたの?」
「すみませんユノさんちょっと先にディアンさんに贈り物してきますすぐ戻るんでそれまでお兄さんを家に戻した方が無難だと思うのデスガ」
「いやそれは私も思うけど・・・」
「心配しなくてもこれ渡したらすぐ戻るって!ところでレオン?その髪長くね?前見えてんの?」
「はい問題ないですそれよりも早く帰った方ガ・・・」
「そこでなにをしている」
レオンの必死の説得もままならず、館の主が静かに現れた。