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ひととけもの  作者: 亀山
まつり編
16/28

おかしもの


祭りが始まる夕方近くになってユノは館の門をくぐった。

ディアンにあげる贈り物はこの日のために取っておいた綺麗な袋にいれてある。


「喜んでくれるかな・・・」


ちらり、と袋をみやるユノ。不安になるが、3日かけた自信作だ。無理やりにでも渡すつもりだった。

夜には家に帰らなければならないが、祭りということもあっていつもよりは遅くとも叱られることはない。

今頃家では豪華な食事の準備でメアリが大忙しだろう。今日は館で食べると言ってあるのでユノの分は無いだろうが、明日がある。

ディアンの誕生日は今日しかないのだ。


「レオン―?ディアンー?」

「ア、ユノサン?来たんデスカ?」


3日ぶりになる扉を開けると台所のほうからレオンの声が聞こえた。今日食べる料理を作っているのだろうと納得してユノは台所のほうに足を向けた。


「レオン久しぶりー 何作ってるの?」

「ユノさん3日ぶりデス。今日のご飯作ってるんデスヨー」


本を片手に鍋をかきまぜるレオンの姿は大変にあっていてユノはくすりと笑った。

レオンは竈の火を小さくすると改めてユノに向き直った。


「贈り物は持ッテ・・・ってそれデスカ、ユノさんの贈り物ハ」

「そうそう、2日徹夜しちゃった」


ユノは手に持った袋を持っててへとごまかすように笑う。レオンもつられたようにへらりとして徹夜はいけまセンガ、まあしょうがないデスネ、とユノの頭を軽くなでた。

ユノは照れくさく感じてレオンの手をどけると鍋の中を覗き込む。


「これなあに?見たこと無いけど・・・」

「ディアンさんが見つけた本の中に昔けものが好んで食べたモノ、みたいなレシピがあったのでそれを再現してみたんデス。ちょうどけもの祭りですシネ」

「ふーん」

「昔はそんなに肉を食べなかったみたいデスネ、魚料理が中心デ。このことからけものは海岸沿いに住んでいたのではないかと朝からディアンさんと議論してバカリデ・・・」

「ああ、はいはい」


拳を握っての熱烈な話をユノは軽くいなしてテーブルの上に置いてあった菓子に目を止めた。


「レオンーこれは?」

「とディアンさんが言うのデスガ、俺の言い分ではけものは森の中に暮らしていたことが多いと思ったのデスヨ。なにしろもともとは人間を避けて暮らしていたわけですカラ。なので木の実なども食したのではないかと思ったのデスガ、ディアンさんに森の中では肉を食べなければ栄養は取レナイといわれマシテ・・・」

「あーはいはい」


レオンは取り込み中の様だ。

まだ続くレオンの話を聞かずにユノは勝手にその菓子を口の中に入れた。

さくりとした歯触りにふわりと香るナッツの香り。ほのかな甘みが口の中に広がってすぐに唾液に溶けて消えていく。

おいしい。

ユノはもう一つ、とその名もない菓子に手を伸ばした。


「おいしい、これ。レオンが作ったの?」

「・・・ユノサン、話聞いてマシタカ?」

「ううん、全然」

「・・・・・・」

「それよりこれー」


うなだれるレオンの口元にユノは菓子を近づけた。無意識なのか、そのままレオンはユノの手から菓子を口に含み、ああこれデスカ、と頭を振った。


「これは俺がつくったんじゃないデスヨ。ディアンさんデス」

「・・・ええー!!?ディアンが!!?というより料理できたの!?」

「いやそこまで驚かなくトモ・・・下手すると俺よりも手先は器用デスヨ、ディアンサン。何しろ壊れた本の修正を軽く行うほどなのですカラ」


といわれても。あの大きな図体でこんな繊細な菓子を作れるとはいささか信じ難かった。

ユノは手に菓子を持って本の中に埋もれたディアンの背中へ飛び込んだ。

赤い本を開いていたディアンは後ろからの衝撃に前につんのめりはしなかったものの首を曲げて迷惑そうにユノを見やった。


「ディアン!ねえこれつくったって本当!!?」

「・・・うるさい重い降りろ」

「重いって!それは失礼なんじゃない?」

「なら言いかえる。お前の体重が俺にかかっていて負担になっている降りろ」


ディアンに言われしぶしぶ背中から降りたユノは改めてディアンの前に菓子を突きつけた。

ディアンはそれをみてまた視線を本に戻してそうだが、と答えた。


「・・・本当に?」

「俺が菓子を作って何が悪い」

「だって・・・」


今まで知らなかったし、とぶつぶつというユノ。ディアンは不思議そうな顔をする。


「いままで作ってなかったんだから当たり前だろう」

「そうだけど・・・」


ぷうと頬を膨らますユノにどう接しればわからないといった風情のディアン。レオンはその様子をこっそりにやにやと見つめている。

ユノはなんだか悔しいのだ。今までずっとディアンの傍にいたのに自分が知らないことがまだあったことが。けれどそれはディアンに当たることではない。だから自分の中で消化しようとしているのだが、ディアンにしてみればその様子がふてくされているようにしか見えない。何が気に食わないのかわからないのだ。


傍目にはどっしりと少女の前で落ち着いているように見えるディアン。けれど内面はひどく焦っているのが目に見える。レオンはほほえましくその様子を見守っている。ディアンに助け舟を出そうという考えは全くない。

ディアンの右手が本から離れ、レオンは心の中で歓声を上げる。さあ、その手をどうする?ぷくりと膨らんだ頬に当てるのかさては抱きしめるのか。


右手が上がり、ふと下ろされた。その先には握りこまれたユノのディアンより小さな手。

手を繋ぐのか、その発想はなかったとレオンが考えていたその時ユノの手に当てられたディアンの右手がまた上昇を始め、ユノの小さな口元を覆った。


「むぐ・・・」

「いいから食え。言えばいつでもつくってやるから」


どうやらユノの手に掴まれたままの菓子を取り、口の中に押し込んだだけらしい。レオンはなーんだとほっとした。

・・・ほっと?


口の中に菓子を入れられたユノはというと不服そうに頷いていた。機嫌は治ったようだ、とディアンは安堵し、また本に集中を戻しながら長椅子の方に移動していった。



その場に残されたのは部屋の入り口でうーんと何か悩んでいる風のレオンと口の中の菓子がなくなり、台所に置いていた袋を取りに行こうとしてレオンを見つけ首を傾げたユノだった。



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