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ひととけもの  作者: 亀山
まつり編
15/28

みつめるもの


ユノはじいっとディアンを見つめる。その姿は猫じゃらしにじゃれつく前の猫と似ていて真剣だ。彼女に尻尾があったらピンと立てて高くしていることだろう。

猫じゃらしの方はといえば居心地が悪そうに身じろぎはするが手の中の本に夢中のようだ。


ここ数日、そんな光景が館のあちこちで見られている。

ディアンが別の場所にいこうとするとまるで擦り込みされた小鳥のようにユノがあちこちついて回るのだ。


ほほえましいじゃないか。レオンは笑い出しそうになるのを抑える。おおよそのところ、ディアンへの贈り物をまだ考え付かないユノが焦ってきているのだろう。普段の彼女にはないほどディアンに積極的だ。

しかしディアンはといえばどこか浮かない顔。なぜこんなにもユノが自分に興味を持っているか分からない・・・といった様子でユノの気配を探っていることがよくわかる。

それぞれの事情をわかっているからこそレオンは口元をふにゃりと緩ませた。

傍観者とはいかに楽しいものなのだろう。けれどいつまでも見続けることは不可能だ。

レオンは二人にご飯ができマシタヨ、と呼びかける。


「あ、はあい・・・ほらディアンもちゃんと食べなさいよ」

「この考察が終わるまで・・・先に食ってていい」

「ディアン!」

「ユノサン、ディアンさんはちゃんと食べると言っているのデスシ、先に食べてしまいまショウ。前みたいに食べないということはないのですカラ」

「う・・・」

「ほら、さっさといけ。お前がいると気が散る」


いきり立つユノをレオンがなだめる。ディアンもそう言っているのだから・・・とユノはしぶしぶ席について食べ物に祈りをささげて食べ始める。


今日のメニューはレオンお手製のスープに焼かれた魚、そしてミリスの店のパンだ。

あっさりとした味なのに出汁はちゃんとでている。どうやら今日のスープは海鮮物から出汁を取ったらしい。微かに混じる塩が良いアクセントになっている。


そのスープを行儀よくスプーンですくって口元に運ぶユノだが、目はディアンに固定されたままだ。

いつまでたってもディアンから目を離そうとしないユノにレオンは顔を険しくした。


「ユノサン!お行儀が悪いデスヨ?それにディアンさんもそんなに見られたら落ち着かないデショウ?」

「はあい」


めっと幼子にするように叱るレオンに首をちぢこませて了承するユノ。ディアンも心なしか視線が外れてほっとしたようだ。強張らせていた肩をほぐし、首に手をまわしている。

でもね、とユノが言い訳をするように口をとがらせる。


「しょうがないでしょう、祭りまであと3日・・・さすがの私でも焦るわよ。家に帰ったらノクス兄さんがうるさいから考えに没頭できないし・・・」

「だからといって贈り物をするディアンさんに負担を掛けてどうするんデスカ。あのひと、このあいだからユノはどうしたんだと聞いてくるのデスヨ?」

「そんなこと聞いてくるの、ディアン」

「あとはユノさんの兄だと主張するうるさい男が来たら知らせるヨウニト。・・・俺のいない間にノクスさんとディアンさんの間に何か確執があったのデスカ?」

「・・・兄さんったら・・・」


はあ、とため息をつくユノを心配そうにみるレオン。あまりの兄の嫌われっぷりに馬鹿馬鹿しさを感じたユノは説明もせず、ちょっとね、と言葉を濁した。それより、とユノは小声でレオンに問う。


「どうしよう・・・ディアンの贈り物。考えても考え付かないのよ」

「俺に言われてもあれですケド・・・そうデスネ、本ハ?」

「腐るほどあるのにさらに増やしてどうするのよ。それに本って高いのよ。金貨が取られちゃうんだから」

「エー・・・じゃあアクセサリー、トカハ・・・?」

「あの男が興味ありそうに見える?」

「見えまセンネ、ハイ」


はあと二人揃ってため息をつく。器はもう空になってはいるが、お代わりをするほどお腹もすいていない。

レオンがうーんと唸る。


「俺の場合ぱぱっと決めちゃったけれど難しいデスネェ・・・いっそのことディアンさんが一緒に店見て決めてくれればいいんデスケド」

「外出てくれたら苦労しないわ・・・夜だったら出ることは出るけど夜にやってる店なんて酒場とかそのへんよ。なんの解決にもなってない・・・ん?」


ふと何かに思い当ったようにユノがぴたりと動きを止める。そのままゆっくりとディアンをみてふうん、とにやりと笑った。


「決めた!」

「ウワ、びっくりシタ・・・良い案が出まシタカ?」

「ええ!これならぴったり!レオンのおかげよ!」


いきなり勢いよく立ちあがったユノにレオンはそれは良カッタ、と返した。

そのまますたすたと出口へ出るユノを見送る。


「これから作業に入らなきゃ・・・時間足りるかしら?あ、ごめん、レオン、私祭りの日までここには来ないわ!」

「それはいいですケド・・・何を思いついたんデス?教えてくだサイヨ」


首を傾げるレオンにユノは心底楽しそうに口元に指を立てた。


「秘密!じゃあね、レオン!」

「ハハ・・・そうですヨネ、ハイ、また3日後ニ・・・」


玄関ホールで手を振ったレオンはふと後ろに立った気配にびくりとした。

いつの間にやら、レオンに覆いかぶさるようにディアンが立っていたのだ。気配を感じなかったと心臓をばくばくさせるレオンなど気にもしていない様子でディアンはユノが出て言った扉を一瞥してはあ、と息をつく。


「・・・今日は早めに帰ったな」

「エエ、なんでもやることがあるソウデ。それとあと3日間は来れないようデスヨ」


ユノと話していたことを聞かれたかとレオンは内心ひやひやしながら答えた。

ディアンはふうん、と興味なさそうに頷くとさっさと部屋の中へ戻ってしまう。何をしに来たんだろう、とレオンは首を傾げた。

その矢先にディアンが振り向いてレオンはどきりとした。


玄関ホールにも窓はある。そこから差し込んだ午後の明るい光が照らしだした館内は程よく明るい。

反射する光にほの暗く照らされたディアンはまるで手負いの肉食動物のようで。あたりを警戒する鋭い目の色は漆黒。

(ん・・・?いや・・・?)

レオンは目を閉じて頭を振った。鋭い視線に射抜かれた体はまだちょっと震えている。

ディアンがたまに見せるこの目はユノがいるときに見られることはない。

たぶん無意識なのだろう、震えるレオンを困ったように見たディアンはレオンに近寄ってくる。慌ててレオンは何でもないようなふりをしてなにか話題を提供しようと頭を回転させた。


「ア・・・ああそういえば今日はノクスさん来ないですネェ」

「・・・・・・・・・」


ぴたりとディアンの足取りがとまり、眉間にこれでもかとしわを寄せる。もともとの鋭い顔つきもあってか、ものすごい形相になる。子どもがこれをみたら一目散に泣いて逃げるだろう。

そんなにノクスが嫌いか。


「ディアンサン・・・顔がすごいことになってマス・・・」

「・・・ほっとけ。あいつがきたら真っ先に俺に言え。お前に任せたら簡単に部屋に入れられそうだ」

「ハア・・・」


ぶつぶつと口の中で何か言いながらまた部屋へと戻りだすディアン。もうさっきの肉食獣のような目はしていない。レオンはほっとした。


「ああ、そうだ」

「へ?」

「あいつは赤い目の人間を探していると言っていた。知ってるか」

「・・・・・・イエ?そんな人間いるんデスカ?」


問われた言葉にすこし間をおいてレオンは応えた。口元にはふにゃりといつもの笑みが浮かんでいる。

そうか、とディアンは応えてそのまま何も言わない。納得したようだ。


「赤い目の人間、ねえ」


レオンは呟くと台所に向かう。

その口元はさっきのようなふにゃりとした笑顔ではなく、への字に歪められていた。



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