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ひととけもの  作者: 亀山
まつり編
14/28

はたらきもの

迷子になった次の日、またユノは街へと繰り出した。祭りまで一週間を切ったということであたりは準備でにぎわっている。


今度は裏通りには近づくことはせずに表の店だけ見て回ったが、特にディアンの誕生日の贈り物として通用しそうなものは見つからなかった。

そもそも一日中館に引きこもり、外にも出ないから服もいらない、装飾品にも興味のないディアンのような男にふさわしい贈り物はなんなんだろう。


ユノはうーんと唸ってから来た道を戻り始めた。わからないのなら本人をよく観察して欲しがっているものを察するべきだ。

とことこと通りを進んでいくとこのまえ勝手に進んだ裏通りへの入り口が見えた。

気になってちょっとだけ覗いてみる。裏通りはしんとしていて人通りが少ない。我ながらよくこんなところを闇雲にすすめたものだ。

ユノはしばらく裏通りを眺めていたが、首を振ってまた通りを進み始める。

フードにまた会えるかもしれないという淡い期待はあった。けれど会えないだろうという妙な確信もあった。


「会えたなら聞いてみたいことがあったんだけど・・・いつか会えたときでいいよね」

ユノは呟くとディアンを観察しに館へと戻って行った。




館へ戻ると何やら騒がしい。

レオンがディアンと議論している時のような騒々しさではなく、ユノは首を傾げて扉を開けた・・・とたんにげんなりとした。


「ノクス兄さん・・・なにやってるの・・・」

「おおーユノか!ちょっと聞いてくれよーこのおにーさんが宝の部屋へ案内してくれないんだよー」

「何故お前を俺の部屋にあげなくちゃいけないんだ?」


ノクスが本を返して新しい本を借りようと館に押し掛けたらしい。無邪気にユノに助けを求めるノクスにいらいらと言葉を返すディアン。一方的に敵意が向けられているが、向けられている相手はへらへらとそれらを笑顔でかわしている。かわされたディアンはその態度にまたイライラを募らせ・・・どう見ても悪循環だ。できれば近寄りたくない。

そんな妹の心境を知ってか知らなくてかノクスは口をとがらせてディアンに向き直る。


「もー冷たいこと言っちゃってさー、やっぱ自分の目で選んだほうが効率いいじゃん?まあぶっちゃけ他にどんなお宝本を隠しもってるか知りたいわけなんだけど」


そこでノクスは言葉を切ってすうと目を細くする。


「何?俺をそんなに入れたくないってことは俺に見せられないやばい本とか置いてあんの?」

「やばい本とは何だ?」

「そりゃあやっぱりぃ?国がさすがにやばいって発禁食らわしたあっはんなやつとか?うっふんなやつとか?やだ俺も見てみたいそれ。一人占めはずるい!」


悶える兄に妹は冷めた目を返し、同じように呆れた目をしたディアンにレオンはどこ?と聞いた。


「レオンなら奥の部屋でいろいろ本を漁ってたぞ」

「んーじゃあそっちいこうかな」

「レオン?なにこの館犬いるの?家でもいってたけど」


ありがとう、と返事を返したユノに復活したノクスが聞いてくる。

そういえばノクスはまだレオンに会ったことはない。いずれ会うなら今紹介したほうがいいか、ああでも本人は会いたくない的なことを言ってたような、とユノが悩んでいるときにディアンがノクスに頷いた。


「便利な犬だ」

「ええーいいなー俺動物すっごい好きなんだよね。軍犬とかさ、超かっこいいから餌付けさせて手なづけてたんだけど軍長にバレてめっちゃ怒られてさー。犬に癒し求めてもいいじゃんって思うんだけど軍長頭固くってさー」

「あの・・・ディアン・・・その言い方は誤解を与えると思うんだけど」


ディアンにだけ突っ込むユノ。ノクスの言葉には深く突っ込んではいけない気がしたのだ。一文官でしかないノクスが国のそこそこの戦力を誇る軍犬を勝手に手なづけてしまうなどまさか。冗談だろう。

え、犬じゃないのか?と首を傾げるノクスにユノはううん、と首を振った。


「結構前にそこらへんでボロボロになって倒れてたのを家で看病したの。今はディアンのとこに居候してるけど。あ、そうそう、ノクス兄さんと同い年よ」

「っまじで!?」


ノクスが嬉しそうな顔をする。身の回りに同い年はあまりいなくてつまらないと前に零していたことを知っているユノは兄に喜ばせることができて少し照れくさくなった。

おおじゃあ会いにいこう、とユノを連れて部屋の中へ入ろうとするノクスをむんずとディアンが掴む。


「いいじゃないか、少しぐらい入ったって。減るもんはないだろ?」

「お前を中に入れたら本が数冊無くなってそうでな・・・」

「・・・ベツニヒトサマノモノトッタリシナイヨ?」


明らかに目を泳がせながらの言葉にディアンは眉を吊り上げいつかのようにぽいとノクスを館の外に頬り投げた。

いってえ!と喚く声は聞かなかったふりでさっさとディアンは部屋へと戻ってしまう。

ユノはしょうがない、と肩を竦めてディアンの後に続いた。








「あーくそ、ガードかったいなぁ」

外に放り出されたノクスは痛む尻を抱えながら自室へと戻っていた。ベッドにうつ伏せになって日の柔らかな香りを吸い込む。


警戒心の強い館の住人はまだノクスを認めるつもりはないらしい。下手にちょっかいを出したら今よりも悪化しそうで彼と接している間、実はひやひやものだ。


そこまで食い下がっても彼の情報量には目を見張るものがある。先日見せてもらったものなどどのくらいの価値があるのだろうか。専門家に見せたら垂涎ものだろう。ざっと読んだノクスでさえ貴重なものだと理解したぐらいなのだから。


何にせよ、けものを探すという使命にはあの館の資料が大いに役に立つ。それを読むためにはあの警戒心の高い獣を懐柔しなければならない。妹にはそこそこ懐いているようだが、可愛い妹を利用する真似はしたくないし、しないつもりだ。


「ユノに手を出したら殴るけどなー」


ぼそりと独り言をつぶやくとノクスはよいせと身を起こす。

痛みが幾分か緩和された尻を撫で、椅子に座って机に向かう。

机に置いてあるのはインクとペンと嫌にぼろぼろな紙だ。あちこちシミがついていて普通なら再利用されてもおかしくない状態のそれは風に舞い上がられないように本で抑えられていた。


ノクスは本をどかすとペンにインクをつけて紙に何やら書き込む。

書き込んだ文字はインクが乾いていくと同時にすうと紙に溶け込んで消えた。

しばらく時間がたつと今度は何もしていないのに文字が勝手に現れ、端からゆっくりと溶けていく。

溶けていく文字を目で追ってノクスはため息をついた。ペンを手に取るとカリカリと走らせ、文字が現れるのを待つことなくまたもとのように本を置く。

そして両腕を頭の後ろに組んで背もたれに体重を掛ける。その姿はまるで勉強に飽きた学生そのものだ。


「あー早く休暇もらえねーかなー」


ノクスの一人ごちる声は部屋に響いてやがて消えた。



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