はじまりのしょ
昔々のその昔。それはそれは美しい獣がいました。
獣はとても美しかったので人間に狙われるようになりました。
獣は人間を恨みました。それ以上に悲しくなりました。
なぜわたしがこんなめにあわなくてはならないのか。
そう人間に問うても答える人はいませんでした。
ある日、獣はひらめきました。
わたしがけものだからねらわれるのだから、わたしはけものをやめればいいのだ。
獣は高い高い山に住んでいるという神様に会いにいきました。長い長い旅路の果て、人間に追われながらも獣は山を登り、神様に会うことができました。
かみさまかみさま。わたしをにんげんにしてください。
獣の願いを聞いた神様は驚きました。
お前はいつも人間に追われ、傷ついているではないか。なぜそんな人間になりたいと願う?
獣はしっぽをひと振りして答えました。
そうです、わたしはにんげんにおわれ、きずつきました。にんげんをうらみました。そしてにんげんをかなしみました。
でもそんなにんげんにわたしのいのちをやるのがいやなのです。とじこめられ、おりのそとからにんげんにみられ、やがてころされるうんめいがいやなのです。
神様はうーんと唸ってそれからわかったと頷きました。
獣よ、お前を人間にしてやろう。だが一つそのために無くしてほしいものがある。
なんですか。そう獣は神様に問いました。
わたしのこのみみですか。めですか。はなですか。それともこえをなくしましょうか。おをかみちぎりましょうか。
いやいや、そうではない。神様はいいました。
無くしてほしいのはお前の感情だ。その心だ。それを無くさない限り、お前を人間にしてやることはできん。
獣は言いました。
よろこんで、よろこんでわたしのかんじょうをささげます。このこころをささげます。そんなことなど、このいのちとくらべればなんてたやすいことでしょうか。
そうか、捧げてくれるか。神様は少し悲しそうにいいました。
哀れな美しい獣よ、お前を人間にしてやろう。そしてその命も延ばしてやろう。どの生きものよりもずっと長生きにしてやろう。姿を変えてまで守りたかったその命、死がお前を迎えに行くまで大事にするがいい。
そうして美しい獣は美しい人間になったのです。
はじめまして、亀です。感想などあれば亀に向かって発信してくれればうれしいです。
割と見切り発車ですが、生温かく見てもらえれば幸いです。