体調不良で寝込んでいたところ、婚約者がやって来て……? 〜無理なものは無理なのです〜
その日、私は朝から体調不良で寝込んでいて、午前中に婚約者ディオンが訪問してきた時も自室のベッドの上にいた。
そのことを伝えたにもかかわらず、ディオンは「遊ぼうぜーッ!!」などと言いながら部屋へ押し入ってきて。掛け布団を引っ張りながら「遊ぼ遊ぼ遊ぼ!」などと遊ぶことを強要してくる。
あまりにも嫌だったので「やめてください」と言ってみるが、ほぼ無視、まったくもって聞いてもらえずで。
さすが酷かったので「今日は体調が悪いので、また今度にしてください」と少し強めに言ったのだが……すると途端に冷たい目をされた。
「は? 婚約者が来てやってんのにそんな態度? 何だそれ」
急にキレられて。
「ならいいさ、婚約は破棄だッ!!」
さらには関係を終わらせることを宣言されてしまう。
「遊んでくれねーんならお前に価値はないッ!! 無価値な女だ、お前は! 無価値女無価値女無価値女! お前みたいなやつ、誰も愛さねーよ! 絶対、絶対、絶対、ぜぇぇーってぇっ!!」
また、宣言の後も、彼は心ない言葉をたくさん吐いてきた。
関係を終わらせられればそれでいい、ということではないようで。
明らかに冷静さを欠いている彼は、もうとにかく何から何まですべてを口にしたい様子で、一切躊躇うことなく次から次へと棘を吐き出してきていた。
「遊んで、って言われたら、遊べよ! それが女の役目だろ? 婚約者が頼んでるんだからさぁ、どんな時もできる限り対応するべきだろ! 体調不良? 知らねーよ! お前の体調管理がゴミなだけだろうが! なぁ! お前が無能なだけだろーがよ! 体調不良とかで役目を放棄するとか最低だろ!? なぁ!!」
だが、ちょうどそのタイミングで、父が部屋に入ってきてくれて。
「ディオンくん、先ほどから……我が娘に何を言っている?」
「え、あ……」
「無価値。無能。最低。そういったことを言っていたようだが」
「っ……ゃ、ち、違うんです、これは……」
それによってディオンの暴走を止めることができた。
「我が娘に何ということを言うのか」
「ち、違いますッ!! 誤解、誤解なんですッ!! 完全なる誤解ですッ!!」
大人の前ではさすがに暴言は吐けないようだ。
すっかり小さくなってしまっている。
ということは、恐らく、彼は私を舐めていたということなのだろう。
……まぁ、舐めていない相手にあんなことを言うなんてできるはずもないか。
「そうか?」
「遊んでただけなんですよ! ……そ、そう! 言葉遊び! 言葉遊びなんです!」
「にしては、娘が不快そうな顔をしているが」
「いやいやいや、気のせいですッ!!」
「だが、君は先ほど、婚約破棄すると言っていただろう?」
「ぅぐッ……」
「そこは否定しないのだな」
「ぅぅッ……」
「だが、そういうことなら、こちらから言わせてもらおう」
父は鋭く重みのある視線をディオンへ向ける。
「君と娘の婚約は、本日をもって破棄とする」
そしてそう言い放った。
「君のような男に娘を託すことはできない」
こうして私と彼の関係は終わったのだった。
◆
婚約破棄から数年、私は、心通わせることのできる素敵な男性と結ばれた。
過去のすべての出来事があって現在がある。
そう考えているから。
通り過ぎてきたすべてのことに意味があった、と、今は迷いなく言える。
そしてその上で。
今はとても幸せ。
そう笑って言えるのだ。
ちなみにディオンはというと、あの後金貸しから借りたお金を返さなかったために捕らえられ内臓を抜かれてしまったそうで、それによって命を落としたそうである。
驚くくらい、信じられないくらい、呆気ない最期だった。
◆終わり◆




